ビューワ開発者から見た、電子書籍業界のいま(前編)電子書籍覆面座談会(1/4 ページ)

電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。本企画では、電子書籍ビューワの開発者に集まっていただき、覆面座談会という形で電子書籍市場の今を聞いた。

» 2011年10月06日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

2人の開発者が電子書籍ビューワ開発の苦労や葛藤を明らかに

きわどい内容も含まれるため、今回は覆面座談会でお届けします。発言からどのビューワの開発者なのか予想するのも楽しいかも?

 電子書籍にまつわるさまざまな課題点が指摘される中で、コンテンツの内容に次いで言及される機会が多いのが「ビューワの操作性」。操作の分かりやすさ、カスタマイズ性など、ビューワの使い勝手がそのまま電子書籍という媒体の評価につながることも少なくない。

 ビューワ開発者からすると、世代やリテラシーを問わない実装や、キャリア側が要求する仕様との兼ね合い、さらにiOSやAndroidといったプラットフォームの仕様に依存する制限など、さまざまな葛藤があることだろう。こうした点について、国産の電子書籍ビューワの開発者お二人に覆面座談会という形で事情を伺った。

 一人は、ケータイキャリアを中心に採用されている著名な電子書籍ビューワの開発者「T氏」、もう一人は、iOSやAndroid向けに電子書籍ビューワアプリを開発する「X氏」だ。それでは早速ご覧いただこう。ビューワの設計思想、デバイスやターゲットユーザーに応じた設計の違い、さらに各キャリアや出版社との日ごろのやりとりなど、ビューワ開発者から見た電子書籍業界を。

ビューワ開発者かく語りき

―― 今日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介からお願いできますか。

T もともとはガラケー向けのビューワの開発をやっていまして、その後Android向けのビューワの開発を手掛けるようになりました。最初は様子見でガラケーの移植版から始めたのですが、世の中の携帯がAndroidに急速に移行しているのと、Android自身のバージョンアップの速さもあり、順次ビューワの機能追加、および各種サービス事業者向けへの展開をしています。

―― いまはAndroidの案件が中心ですか。

T そうですね。自社のソリューションをカスタマイズしてキャリアさんに出すという形です。ガラケーはもう何年もやっていますが、今後販売台数が減っていくのは間違いないので、ビジネスとしてAndroid向けに注力していかなくちゃいけないというところです。

―― Xさんは、最初はiOS向けにビューワをリリースし、その後Android向けにも展開されていますよね。

X はい。ここ数年でネットワーク周りの状況がいろいろ変化し、そこに追いつこうとしている間に、どんどん変わっていったというのが実情ですね。

ユーザーの感覚が落ち着くまでもう2〜3年掛かる

―― 今、お二人が開発されているビューワも含めて、世間にはさまざまなビューワがありますが、インタフェースや挙動はバラバラです。例えば画面の右側をタップしたときに、ページが進むものもあれば戻るものもあったり、タップにすら反応しなかったり。お二人はこうした部分の設計をどう決めてらっしゃるんですか。

X 今は何がいいかという正解がありませんし、みんな「どうしたらいいんだろう」といいながらあがいている、そういう時期だと思うんですよ。「こういうのが常識だろう」というユーザーの感覚が落ち着くのにもう2〜3年掛かると思うので、その過渡期といったところでしょうね。

T 出版社と話をしていると、最初は「このページめくりのエフェクトはいいね」となるんですが、しばらくして「すいません、やっぱり飽きました。やめときましょう」みたいな展開になることが多いですね。出版社の方はどうしても紙の本のイメージを前提にめくりの話をされますが、慣れてくるとやっぱり邪魔なんですよね。

―― ビューワを開発されるとき、そういった仕様は、出版社からの依頼で決めるのか、それともご自身でいろいろ調べて実装していくんでしょうか。

T まずはOSの作法に合わせます。iPhoneとAndroid、ガラケーもそうですが、OSやプラットフォームならではの作法があるので、それを守るのが第一ですね。例えば、Androidだと1.6まではピンチに非対応なので、ピンチ前提で作ってしまうとUIが破たんします。だからやっぱりプラスマイナスボタンを出さなきゃダメだよね、とか。

 また、「画面タップでメニューを出す」というiOSアプリによくある操作は、Androidの作法からするとNGなんです。Androidはメニューボタンを押してメニューを出すから、それに合わせてUIを変えなきゃいけない。ただ、たいていの出版社はiPhoneを前提に話をするんですよね。「そこは違う」と伝えるんですが、押し切られることもあって難しいところです。

―― Xさんのビューワは「使われないから機能から省く」ではなく、「設定でオフにする」という方向で対処されていますよね。

X ページめくりの機能が必要か否かという議論でいくと、僕たちではなくユーザーが判断すればいい話だと考えています。先ほどお話ししたように今は過渡期なので、いろいろなやり方を「まずはトライしてみてよ」という意味であえて残しています。設定項目が多すぎるとダメという話もあるので、シンプルにしたいのは山々ですが、これは僕が決める問題ではないかなと。

T Android向けの仕事だと、キャリアやサービス側が絡むので、いろんなビューワベンダーに「これは共通仕様として最低限守ってくれ」と言われてその仕様に合わせざるを得なくなることが多いですね。

―― つまり、ある電子書籍ストアで、見た目は1つのアプリだけど、買ったコンテンツの種類によってアプリに内包されているビューワが立ち上がるようになっているので、それぞれで操作性を統一するよう要求されるという、そういうことですよね。

T そうです。同じストアから買ったコンテンツなのにフォーマットごとに作法がバラバラというのはユーザー視点で考えれば確かに大変なので、これはしょうがないかなと思います。

 それと、長い歴史を持つXMDFや.bookにも独自の作法が存在しますが、それをひっくり返されちゃうのも逆にあります。例えば右左をタップしたら進むとか、上下で1行ずつ進むとか、ビューワごとの作法があります。XMDFに至ってはザウルス以来の作法があるので、XMDFを使い慣れた人間からすると、「何でこんなに使い方が違うんだよ」みたいになったりもしますね。さらに最近はタッチ操作などUIの前提条件が変わってきているので、それをどこまで踏襲しつつOSの作法に合わせるかが難しいところです。

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