いよいよ登場し始めた“作者ベースの電子書籍アプリ”

「単体型」のアプリから「ストア型」のアプリに移行が進む電子書籍アプリ。しかし、新たなニーズを満たす形態が登場し始めた。「著者別ストア型」アプリである。

» 2011年06月16日 20時27分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 電子書籍の販売トレンドはこの1年ほどで、作品ごとにバラバラで販売されていた「単体型」のアプリから「ストア型」のアプリへと移行が進んでいる。ストア型には一定のメリットもあるが、版元ごとにアプリが分かれてしまうという結果を招いており、ユーザーはさらに別の選択肢も求めている。

 そうした別の選択肢になり得るような動きが、ここ数日のうちに2つ、アプリとしてリリースされた。「著者別ストア型」アプリの登場である。このアプリを入れておくと、ある著者の著作物であれば、すべてそこから購読できるというもので、言い換えれば、著者自身が電子書籍を販売して収益を上げていく取り組みである。

作家の五木寛之氏の個人全集を電子書籍で「五木寛之ノベリスク」

 最近リリースされた著者別ストア型アプリの1つは、講談社から6月14日に発表された「五木寛之ノベリスク」。6月末のリリースを予定しているこのアプリは、作家の五木寛之氏の個人全集を電子書籍で提供するというものだ。

 開始当初の配信作品は、長編では「青春の門」「親鸞」、短編では「さらばモスクワ愚連隊」「白夜のオルフェ」など計32タイトルが並ぶ。価格は115円から1200円で、3つの短編を1つにまとめた特別セットも販売するなど、紙の書籍にはない柔軟な価格体系が用意されている。

 この五木寛之ノベリスクは間違いなく著者別ストア型アプリだが、最初のリリースでは講談社から出ている氏の作品しか入手できないという意味で、この種のアプリが抱える最初の課題を残している。講談社が、ほかの版元から出ている作品もこのアプリから提供できることを目指して交渉を進めているのは“個人全集”とうたっていることからも読み取れるが、著者の意向があるとはいえ、すべての版元がすぐに協調してくれるかどうかは今後注目したい。

堀江貴文氏も著者別ストア型アプリ

堀江貴文公式アプリ

 そしてもう1つは、App Storeで6月15日から配信されている「堀江貴文公式アプリ」。SNS株式会社がリリースしたこのアプリは、同社ファウンダーで元ライブドア代表の堀江貴文氏による電子書籍やメールマガジンを一元的に販売するストアアプリだ。同氏の著作物の幾つかは過去にも電子書籍アプリとしてリリースされているが、それらは単体の電子書籍アプリだった。

 このアプリ内では、堀江氏の著作(電子書籍)を購入/閲覧できるだけでなく、同氏のブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」への導線や、有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」の購読も可能。こちらも現時点では同氏の著書すべてが網羅できるわけではないが、同氏が発信する活字系コンテンツのポータルアプリということもできる。

 著者自身がこうした方法で電子書籍を販売していく取り組みは、版元である出版社などとの摩擦が生じやすい。堀江貴文公式アプリでは、版元との合意の上で電子書籍を販売しており、独断的に著作権行使を行う意図はないとし、出版社とともに新しい電子書籍販売を目指すとしている。

 なお、堀江貴文公式アプリの開発はヤッパ。ビューア部分にはモリサワの「MCBook」が採用されている。いずれも電子書籍の世界で知名度のある企業だ。また、電子書籍制作・運営管理はミドルマンが担当している。


 こうした動きが出てきたことで、今後、著者自身の訴求力で電子書籍を販売していく取り組みが本格化しそうだ。

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