写真で見る「The Daily」――これは新たなデジタルメディアか?

新たなデジタルメディアとして登場した米News CorporationのiPad専用デジタル日刊新聞アプリ「The Daily」。本稿では、The Dailyがどのようなものなのか、実際の画面を中心に紹介していこう

» 2011年02月04日 10時30分 公開
[前島梓,ITmedia]

“メディア王”マードック氏が仕掛けたデジタルメディア

 「The Dailyは現時点で最良の技術を用いた最上のジャーナリズムを提供するメディア」――メディア大手の米News Corporationと米Appleが2月2日(現地時間)にリリースしたiPad専用のデジタル日刊新聞アプリ「The Daily」。News Corporationの“メディア王”ルパート・マードック氏とApple幹部のエディ・キュー氏がニューヨークのゲッゲンハイム美術館で行った記者会見では、満を持して誕生したこの新たなデジタルメディアに寄せる期待が両者から熱く語られた。

 現在は米国のApp Storeでのみリリースされている同アプリは、Appleにとって初の定期購読が可能なアプリ。Appleは同日から定期購読サービスの提供も併せて開始しており、アプリ内からiTunesの課金システムを通じた記事の定期更新が可能になっている。従来から提供されているアプリ内課金との違いは、1回だけの買い切りではなく、購入から1週間や1カ月といったように期間を設定し、その間は定期的にコンテンツを配信するといういわば購読権を提供するものだ。

 以下では、実際にThe Dailyをダウンロードしてそのできを確認してみよう。

質も量も満足なでき

 The Dailyのファイルサイズは約46.5Mバイト。起動すると、スプラッシュ画面が表示された後、Verizon Wirelessがスポンサーになっており、アプリのダウンロードから2週間は無料でコンテンツが配信される旨が表示される。

アプリ起動時のスプラッシュ(写真=左)の後、Verizon Wirelessがスポンサードしていることで、2週間の試用が可能であることを示す旨が表示される(写真=右)

 紙面の内容は特定のジャンルに偏っておらず、まさに新聞といった構成。ニュース、ゴシップ&セレブ、オピニオン、アート&ライフ、アプリ&ゲーム、スポーツといった6つのセクションが用意され、日々最大100ページ程度のコンテンツを配信するという。各記事をカバーフロー風に見せるなど、使い勝手のよさそうなUIが特徴だ。

The Dailyのトップ画面 The Dailyのトップ画面(横表示)。カバーフロー風に記事が並ぶ

 デジタルの利点を生かし、テキスト、写真、音声、動画などが盛り込まれたレイアウトとなっており、トップ画面下のメニューからは、キャスターがその日の主要なニュースを動画で紹介するボタンや、音声で読み上げるためのボタンなどが用意されている。

ニュースゴシップ&セレブオピニオン
アート&ライフアプリ&ゲームスポーツ The Dailyではニュース、ゴシップ&セレブ、オピニオン、アート&ライフ、アプリ&ゲーム、スポーツの6セクションが用意されている。写真は2月3日の誌面
トップ画面右下の▲ボタンを押すと、その日のニュースのサマリーをキャスターが動画で紹介するボタンや、音声で記事を紹介するボタン、クリップした記事を確認するボタンなどが現れる(写真=左)/起動時に新着コンテンツがあるとこのような画面が表示され、ダウンロードが行われる。既読記事についてはカバーフローアイコンの下に「Viewed」と表示される(写真=右)

 ピンチアウトなどによる文字の拡大縮小などは行えず、完全にiPadに最適化されたデザインとなっており、レイアウトデザインは縦と横の2つが用意されている。また、後でゆっくり読むために、記事をクリップしておくことも可能。ただし、このストックがiPadのストレージ領域を利用しているのか、それともクラウド上に保存されているのかは判断できなかった。

当日の星座占いや天気といったコンテンツも用意されている。画面上部のスライダーではページをサムネイル表示しながら移動できる(写真=左)。スライダーの右にはTwitterやFacebookなどに投稿するための機能ボタンとトップページへ戻るボタンが用意されている/機能ボタンを押すとこのような画面に。TwitterやFacebookのほか記事をクリップすることなどが可能(写真=右)
アプリ&ゲームではAppleのGame Centerと連動したクロスワードや数独などのゲームも楽しめる(写真=左)/アプリの紹介記事では、深津貴之(fladdict)氏の「TiltShift Generator」も紹介されていた(写真=右)

Apple IDで簡単定期購読

 The Dailyの開始に併せ、Appleは定期購読サービスの提供も併せて開始した。App Storeの利用規約には「In-App Subscribe」に関する項目が追加されており、「有料定期購読は返金されない」「定期購読は購読期間終了の24時間前に自動更新」「購読料が変化した場合は自動更新がオフになる」などが確認できる。

The Dailyの設定画面。天気などの情報で利用するロケーション情報は米国の郵便番号から取得しているようだ(写真=左)/定期購読に関する設定画面(写真=中央)/「Subscribe」ボタンを押すと料金プランの選択画面が表示される。決済はApple IDで行える(写真=右)

 The Dailyの購読は、週間と年間の2種類が用意されており、価格はそれぞれ99セント、39.99ドルとなっている(ただし、日本円ではそれぞれ115円、4600円と表示される)。一部メディアでは月間の購読も予定されていたと伝えており、その額は4.25ドルと具体的だったが、こちらは用意されていないようだ。


 The Dailyの制作にどのような環境が用いられているのかは今のところ明らかになっていない。明らかなのは、News Corp.がThe Dailyの制作に100人体制のスタッフを組織し、その開発に3000万ドルもの金額を投じたということ、そして、今後の運営にも週に50万ドル程度が掛かるということくらいだ。しかし、例えばAdobeが今後提供予定の「Adobe Digital Publishing Suite」を用いたものと同等かそれ以上のものが現時点でこうして提供されているというのは興味深いポイントだ。「現時点で最良の技術を用いた」というのもあながち大げさな話ではない。

 長期的には購読料と広告料のバランスが取れたメディアになるだろうという見解を示していることから、初期投資を考慮しなければ25万人程度の購読者獲得がまずは最初の目標となるだろう。価格に対してこのボリュームであれば、早々にこれくらいの数字は達成できると思われるが、マードック氏が新たなデジタルメディアと位置づけるだけに、その程度で満足するとは考えにくい。今後の電子雑誌/電子新聞の方向性を考える上で、重要な存在としてとらえておく必要があるだろう。

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