1月後半の注目すべき電子書籍市場動向eBook Forecast

「電子書籍市場の最新動向ってどうなってるの?」――忙しくてなかなか最新状況を追えない方のためにお届けする「eBook Forecast」。今回は、電子書籍市場への参入を発表したインテルや、Appleのアプリ拒否などの話題を中心にお届けします。

» 2011年02月04日 10時00分 公開
[前島梓,ITmedia]

 多数のAndroid搭載タブレットが華々しくデビューした2011 International CESも終わり、これらのタブレットの登場を待ち望んでいる人も多いかと思います。そうした中、1月後半の電子書籍市場は、Appleの動きに再び注目が集まっています。でもその前に、大型の電子書籍ストア設立のトピックから見ていきましょう。

インテルも電子書籍市場に本格参入

凸版印刷とインテル、ビットウェイによる新たな電子書籍ストア「BookLive!」は2月上旬に開設予定

 2011年1月現在、すでに数多くの電子書籍ストアが立ち上がっていますが、また新たなストアが開設されます。凸版印刷とインテル、凸版印刷の子会社であるビットウェイが1月20日に発表した「BookLive!」です。IT業界の巨人であるインテルもこの市場に参入したというのは大きなニュースとなりました。

 2月上旬に開設予定のBookLive!は、まずはPCとAndroid端末向けに展開され、サービスイン時のラインアップは、コミック・小説・実用書を中心に約3万点、雑誌や写真集などのジャンルを拡充しながら2011年春までに10万点に拡大する予定です。

 後発となるBookLive!で特筆すべきは、従来の電子書籍ストアが抱える問題を解決する「共有書庫」構想です。要は、どの電子書籍ストアで購入したコンテンツであっても、BookLive!が提供する「My書庫」で一元的に管理できるというもので、ユーザーからすれば非常に使い勝手のよさそうな仕組みです。バックエンドで各電子書籍ストアのユーザー情報や購入情報を共通化するという技術的にも政治的にも意欲的な取り組みですが、どれだけの電子書籍ストアがこの仕組みに乗っかってくるかでその価値が決まるといってもよいでしょう。次回のeBook Forecastでは実際にサービスインしたBookLive!の様子をお届けできると思いますが、注目したい電子書籍ストアとなりそうです。

複数のビューワを1つのアプリで提供するのは今後のトレンドに

 また、BookLive!の取り組みから、電子書籍市場における1つのトレンドが鮮明になってきました。それは、複数のファイルフォーマットの存在を認めた上で、各ビューワを1つのアプリの中にまとめ、それぞれのフォーマットに合ったビューワで開くことで、ユーザーにファイルフォーマットの違いを意識させないという流れが生まれつつある点です。無理にファイルフォーマットを1つに統合するよりははるかに現実的な流れだといえます。

 この方式は、2Dfactoが先鞭(せんべん)をつけ、BookLive!もこれに習っています。2DfactoではXMDFビューワやT-Timeビューワ、セルシスのBS ReaderやDNPのImageViewerといったビューワが統合されていましたが、BookLive!も、XMDF、.book、EPUBなどに対応した統合ビューワを提供するとしています。さらに、日経BPと協業することで、リッチな表現力を持つ電子雑誌の開発を行う予定であるとしており、そのビューワも含まれるということです。発表会の会場ではそのサンプルも展示されていたようで、一見すると、アドビの「Digital Publishing Suite」を用いて作られたものに近い電子雑誌だといえそうですが、どのようなものが登場するのでしょうか。

 また、インテルがこの市場に参戦した意図も気になるところです。素直に記事を読めば、タブレット市場でARMの後塵を拝している同社が、Atomプロセッサを推すベンダーとともに、電子書籍をテコにして存在感を示したいのだなと考えられます。もっとも、電子書籍ストアがプロセッサ依存を起こすとは考えにくいので、タブレット市場でのエコシステムを構築したいインテルの施策であると考えるのが妥当でしょう。

ソニーの電子書籍リーダーアプリをリジェクトしたAppleの思惑

 Android搭載タブレットが多数登場し、これまで市場を先導していたAppleの次の一手が注目されていますが、こと電子書籍についていえば、少し不穏な状況が生まれつつあります。

 1月18日の段階で、「Apple、雑誌/新聞社が無料iPadアプリを使ってiTunes課金を迂回することを禁止へ?」という記事がeBook USERに掲載され、26日には「iTunes課金を回避する電子書籍アプリも『6月30日』まで? 米Appleがアプリ開発者に警告メール」という記事が公開されました。後者の記事内では、「iTunes課金手数料を迂回(うかい)する“自社Webサイト課金型”の電子新聞アプリを登録申請しようした開発者にiTunes課金へ移行するよう警告メールを送付開始」とされており、やや雲行きが怪しげな様子だったのですが、その後、ソニーが申請していた自社Webサイト課金型の電子ブックリーダーアプリがリジェクトされたことで、これが事実であることが分かりました。ソニーもこの事実を認めており、解決策を模索しているが、現状は行き詰まっていると公式に声明を出しています。

 この問題、要は、「iPhone/iPad向けの電子書籍ストア型のアプリで新聞や雑誌といったコンテンツを出すなら、アプリ内課金(In App Purchase)の仕組みを使ってコンテンツを購入する仕組みも用意して、きっちり30%のショバ代は払うべし」ということなのですが、これをもう少し正確に表現するなら、「自社Webサイト課金型でもよいが、必ずアプリ内課金の仕組みも同時に実装し、両者は同じ条件で販売しなさい」というのがAppleの言い分です。本稿掲載が掲載される2月初旬にはAppleが定期購読サービスを開始し、米News CorporationとAppleが共同でデジタル日刊新聞を発表しているでしょうが、この辺りも影響していそうです。

 同じ条件で販売するということは、金額も同じにしなければならないことは容易に想像できます。このとき、Appleに支払う30%のコストをどこで吸収するかがポイントとなります。コンテンツを値上げするか、それとも自社でかぶるのか、パブリッシャーは悩ましい選択を強いられることになります。ソニーはたまたま新規のアプリ登録でやり玉に挙がりましたが、Amazon.comやBarnes & Nobleなども同様のアプリをApp Storeですでに提供しています。これらも遠からず(上記記事に従えば遅くとも6月30日までに)その影響を受けるでしょう。

Reader Storeは好調の様子

「週刊朝日」と「AERA」の記事販売が開始されたReader Store

 ところで、eBook USERのトップページ右側では、定期的に読者アンケートを行っています。現在のお題は「2011年1月時点で最も期待している電子書籍ストアは?」というものですが、この結果を見ると、まだ日本国内で正式オープンしていない「Kindle Store」への期待度が高く、「Reader Store」と「TSUTAYA GALAPAGOS」がそれに続いています。

 こうした市場の反応をソニーは敏感に感じ取っているのか、幾つかの施策を打ち出してきています。例えば、Reader Storeと連動したキャンペーンサイト「好奇心の本棚」の開設もその1つですし、1月28日には、Reader Storeで「週刊朝日」と「AERA」の記事販売が開始されました。これまでは書籍中心の品ぞろえだったReader Storeですが、ようやく雑誌コンテンツの取り扱いが開始されたのは一歩前進といったところでしょうか。

 ただし、雑誌丸ごとではなく、記事単位の販売というもので、これらの記事は活字のみを取り出したような格好となっているため、雑誌のレイアウトを期待している人には少々肩すかしを食らった感もありますが、1記事42円からと低価格で提供しているのは面白いところです。

 一方、TSUTAYA GALAPAGOSは動画配信サービスの準備に追われているのか、目立った動きがありません。西原理恵子さんの「毎日かあさん」を取り扱うことが発表されましたが、Reader Storeの相次ぐ施策と比べるとやや見劣りします。テレビCMなども見かけるようになりましたが、次なる一手が注目されます。

Jコミはβ2テストの結果を公開、52万5000円が作者へ

放課後ウエディング 新條まゆさん「放課後ウエディング」。絶版漫画が収益を上げるという構造を立証した

 ラブひなや魔法先生ネギま!(ネギま!)などの作品で知られる赤松健氏が立ち上げた広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が、実際にどの程度作者にお金が渡るのかをβ2テストの結果を公開しています。

 これによると、β2テストで無料公開していた新條まゆさんの読み切り作品「放課後ウエディング」について、新條さんに渡る広告料金が52万5000円であることが明かされました。この数字はいろいろと興味深いので、少し掘り下げて考えてみましょう。

 公開されていた「放課後ウエディング」には広告枠が3枠用意されていました。恐らく新條さんに渡る額は、広告代理店の取り分を差し引いたものだと考えられます。その取り分がどの程度かは不明ですが、仮に3割だと仮定すれば、もともとの額は75万円ということになります。3枠で75万円ということは、1枠25万円ということになります。数字のきりのよさからいってもこれくらいの額で広告を取ってきているのでしょう。

 この広告はクリック保証型の広告であることは赤松氏のインタビューなどからも明らかですが、どの程度のクリック数を保証したのかは明らかになっていないようです。放課後ウエディングのダウンロード数は1月26日時点で約4万2000件だったことから、数千クリックといったところでしょうか。これだとクリック当たりの単価が少し高いようにも思えますが、うまくターゲティングされた広告であれば、妥当な額といえます。

 また、β2テストでは、スーパージャンプで連載されていた樹崎聖氏(原作・梶研吾氏)の「交通事故鑑定人 環倫一郎」も、コミックス全18巻が無料配布されています。ざっと確認したところ、各巻共通の広告枠が5枠用意されているようです。先ほどの試算から考えると、25万円の広告枠が5枠ですから、125万円。そこから3割差し引いた87万5000円が作者に渡るのではないかと思われます。ただし、保証しているクリック数は異なる可能性がありますので、それに伴って作者に渡る額も変わってくるでしょう。こちらの結果についても近日中に明らかになるでしょうから、そこで試算できそうですが、いずれにせよ、従来であれば価値がないと見なされがちだった絶版漫画でも、ファンの善意によってこのようにマネタイズできることが立証されたことは大きな意義があります。今後、Jコミに多くの作品が寄せられた場合、広告が不足し、単価が下がることなども十分に予想されますが、赤松氏は次なる一手を模索しているようで、こちらも目が離せません。

 eBook USERでは、Jコミで注目を集める赤松氏と、編集家の竹熊健太郎氏とのスペシャル対談の模様を近日中に公開予定です。こちらもご期待ください。ではまた次回をお楽しみに。

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