美しいものには“棘”がある 『蟲姫』に描かれた「美」と「怖」の共存

eBook USERがお勧めのマンガ作品を毎週ピックアップしてお届け。今回は繊細なイラストと作り込まれたストーリーが魅力的な『蟲姫』を紹介。

» 2015年09月25日 17時00分 公開
[宮澤諒eBook USER]

 今回紹介する漫画は、『鬼畜島』『犬神』などの作品で知られる漫画家・漫画原作者の外薗昌也さん(原作担当)と、新鋭イラストレーター・漫画家の里見有さん(作画担当)によるホラー作品『蟲姫』。ホーム社のWebコミックサイト「画楽ノ杜」で連載されていた作品で、全3巻で完結している。


書影クリックで試し読みいただけます

 主人公の高砂陵一は、毎日ある悪夢にうなされていた。夢の中で陵一は小さな手こぎの舟に乗っている。周りには水に浮かんだ無数の死体。そして、必ず現れる美少女。少女はこちらを見やり、それから――。

美しいものは、ときに怖さも併せ持つ ©外薗昌也|里見有/集英社 美しいものは、ときに怖さも併せ持つ ©外薗昌也|里見有/集英社

 作中でも早くから言及されているため書いてしまうが、本作の元凶ともいえる存在がこの美少女だ。名前は宗方聴久子(キクコ)。キクコはあろうことか陵一の在籍する高校に転校してくる。普通、異性の転校生といえば、漫画では「出会い」や「恋」がスタートするきっかけになる存在として描かれることが多いが、陵一にとってこの展開は最悪なシナリオの幕開けだった。

周りの生徒がキクコのかわいさに釘付けになっている中、一人恐怖する陵一 ©外薗昌也|里見有/集英社 周りの生徒がキクコのかわいさに釘付けになっている中、一人恐怖する陵一 ©外薗昌也|里見有/集英社

 転校手続きをするため職員室へ向かう途中、キクコの腕を引っ張った教師。だが手のひらを針のようなものを刺されてしまう。腫れがひかないため病院を訪れた教師だったが、原因は“虫刺され”によるものだと診断される。時を同じくして、各地で発生しはじめる昆虫による事件……。一体彼女の正体は何なのだろうか。人なのか、それとも――。

腕を掴んだはずが、なぜか手のひらを刺されてしまう ©外薗昌也|里見有/集英社 腕を掴んだはずが、なぜか手のひらを刺されてしまう ©外薗昌也|里見有/集英社

 全3巻と短い作品ながら、展開に無駄な回り道がなく、物語の先へ先へと読者を引き込む力がある本作。単純なホラー要素としてだけでなく、危うげでなまめかしいオーラを放つキクコは、陵一の敵でありながらもヒロインともいえる存在だ。物語の最下層にたどりつき、彼女の正体を知ったとき、あなたにとってこの作品はただのホラーではなくなるかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.