eBook USERがお勧めのマンガ作品を毎週ピックアップしてお届け。今回は、3部作での劇場アニメ化も間もなく封切り予定の『亜人』を改めて紹介。
「亜」という文字の字源は、古代の墓の部屋を上から見た形(建物や墓の基礎として十字状に掘った穴)を象った象形文字だという。墓に眠る霊を祭るのは次の世代であることから、「つぎ」の意味が生まれたのだとか。
今回紹介したい『亜人』(桜井画門/講談社)は、『good! アフタヌーン』で連載中の作品で、現在コミックス6巻まで刊行。6巻の発売に合わせて3部作での劇場アニメ化も発表され、今注目が高まっている作品だ。
本作の主人公である永井圭は、医大を目指す一見まじめな高校生。ただ、「うわべ以外で人の心配なんてしたことない」と平然と言う彼は、他人の心を一切くまない言動で孤立しがち。妹にまで「一言で言えばクズ」と言わしめる、合理的で利己的な冷たい少年だ。そんな彼が下校時に即死級の交通事故に遭い、程なく謎の蘇生(そせい)を果たし、彼にとっての平穏な生活は終わりを告げる。
本作のタイトルでもある亜人とは、「死ぬことがない(死んでも生き返る)」とされている、見た目は人間と変わらない生物。どんなけがを負っても、頭が胴体から切り離されようと、死にさえすればすべてリセットされて生き返る、不老ではないが不死の存在だ。
ただ、作中の世界では、亜人は人間からは動物のように、あるいはほとんど関心すら寄せられていない。そこに経済性を見いだす人間や、作中の厚生労働省内に置かれた「亜人管理委員会」、そして“別種”と呼ばれる亜人を除いて――。
別種の力、それは普通の人間がほとんど視認できない物質から成る存在を生みだし、遠隔操作できること。黒い幽霊とも呼ばれるこの存在が鍵となり、ストーリーが進んでいく。差別や弾圧からの解放を求め、人間を殺していく亜人。亜人の中でもこうした行為に対する意見は分かれながら、乾いた空気感の中で人間と亜人の関係性が描かれていく。
亜人の謎は多い。そのルーツも、不死身というのが回数に制限があるのかないのかもはっきりとは明言されていない。「いつから?」「素質」といった作中の言葉は、誰もが亜人になり得る可能性を示唆しているが、不死身の存在と個のアイデンティティーにかかわる問題提起など、永井圭の記憶や親友の献身的な態度の理由にも関係してきそうな設定がちりばめられている。
個人的にこの作品の魅力だと感じるのは、『寄生獣』(岩明均/講談社)や『AKIRA』(大友克洋/講談社)を思い出させる描写や演出の作風。特に、引きの構図な大コマは魅力たっぷりなものが多い。
亜人と人間は同類なのか、それとも“亜”の文字が示すように次位の存在なのか。命に対する価値観が異なる亜人の存在は脅威であると次第に世論が傾いていく展開は、劇場アニメの公開を前に盛り上がりを見せつつある。
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