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» 2015年08月30日 06時00分 UPDATE

4人までOK イスラム教の「一夫多妻」の実情とは?

[新刊JP]
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 フランス・パリで起きたシャルリ・エブド襲撃事件や、イスラム過激派組織「ISIS」による日本人拘束事件など、2015年はこれまでになく「イスラム世界」や「イスラム教」への関心が集まっている。

 もちろん、多くの人は過激思想に基づいて行動するこうしたイスラム教徒が、「一般的なイスラム教徒」とはかけ離れた特殊な人々だということは多くの人は分かっているはずで、その証左にこれらの事件の後も、日本では目立ったイスラムバッシングは起きていない。

 しかし、だからといって私たちがイスラム教について理解しているかといえば、決してそうとはいえないだろう。よほど関心を持っている人でなければ「コーラン」「断食」「毎日礼拝をする」といった断片的なワードからしか知らないのが現実かもしれない。そして、これらのワードから「信仰に縛られ、不自由な生き方を強いられた人々」というイメージを持っている人もいるだろう。

イスラムにおける「一夫多妻」の実情

 例えば、実態が伝わらないままイメージが一人歩きしてしまっているワードが、イスラムにおける「一夫多妻」だ。

 言葉だけを見ると、どうしても「既婚男性の浮気が公認されている」、あるいは「男尊女卑」といった印象を受けやすいが、イスラム教徒たちは一夫多妻をどのように考えているのだろうか。

4人までOK イスラム教の「一夫多妻」の実情とは? 4人までOK イスラム教の「一夫多妻」の実情とは?

 『日本の中でイスラム教を信じる』(佐藤兼永/著、文藝春秋/刊)は、多様な背景を持って日本で暮らすイスラム教徒たちの姿を通して「本当のイスラム教」に迫る。そこに登場するあるイスラム教徒は、ほとんどのイスラム教徒にとって、一夫多妻制は自分の生活とは直接関係のない「人ごと」だとしている。

その理由の1つはイスラムの結婚における「責任」だ。

 「コーラン」で示されている一夫多妻は、要約すると「4人までの妻帯を認めるが、妻たちを平等に扱えないのではないかと心配するのなら、1人にしておきなさい」というものだ。平等とはもちろん「扶養面」も指すわけで、これはこの制度のそもそもの成り立ちが「戦争によって夫を失った夫を亡くした女性の救済」だったことによる。

 しかし、現代で普通に生活する男性が複数の妻に平等に扶助するということがいかに難しいかということは、日本人である私たちでも想像がつくところである。しかも、イスラムの結婚とは「妻の扶養義務を夫に課す」ものであり、結婚するからには養うのが前提なので、そもそものハードルが高い。

 つまり、前述のイスラム教徒が一夫多妻を「人ごと」だというのは、「正しく実践できる人はほとんどいない」ということの裏返しだといえるだろう。

「一夫多妻」は男尊女卑か?

 また、この制度についてまわる「男尊女卑」「女性差別」のイメージにも、日本のイスラム教徒たちは疑問を呈している。

 一夫多妻制が「王様がハーレムを作る」的なものではなく、社会的な救済の性質を持つ以上、自分の夫が2人目の妻をつくることに対して、最初の妻は拒否する権利があり、無断で二人目と結婚されたのなら、離婚する選択肢も認められている。決して「男性側が好き放題できる」という制度ではないのだ。

 また、別の日本人イスラム教徒は、一人の男性が複数の女性を妻にするということは、複数の女性が共同で一人の男性を所有していると言い換えることもできる、と「一夫多妻制」を即座に「女性差別」に結びつける考え方に批判的だ。

 もちろん、「一夫多妻」の名の下で、女性への権利侵害やDVなどの問題が起こることもないわけではない。しかし、その原因を一夫多妻の結婚制度に求めても、根本的な解決にはならないのだ。

 ここでは「一夫多妻」を取り上げたが、冒頭にも挙げたように「礼拝」や「断食」「禁酒」「女性の服装」など、イスラムには多くの決まりごとや推奨される行いがある。これらを実践することが信仰だとしたら、日本で働き、日本で暮らすことはイスラム教徒にとって困難が多いように思えるだろう。

 しかし、本書に登場する性別も国籍もさまざまなイスラム教徒たちは、それぞれに信仰と実生活のバランスに悩みつつ、しなやかにいきいきと日本の環境に順応して暮らしている。

 可能な限りイスラムの教えに忠実であろうとする人もいれば、仕事の必要に応じて戒律を破らざるを得ない人も、「納得できないことも山盛り書いてある」とコーランに対して冷静な目を向ける人もいる。入信の動機も人それぞれだ。

 彼らが日本の冠婚葬祭でどう振る舞い、接待飲み会にどう対処し、イスラムで禁止されている豚肉の入った学校給食をどうしているか。厳密にはイスラム教徒への偏見を完全に消すことはできないのだろうが、これらの実例に触れることは、イスラムの文化を正確に理解する一助になるのではないだろうか。

 現在、日本には約11万人のイスラム教徒がいて、今後もイスラム圏から多くの人が日本にやってくるだろうし、イスラムに入信する日本人も増えてくるだろう。彼らと働いたり、結婚したりということが珍しくなくなってくると考えると、イスラムの考え方や価値観は私たちにとって決して人ごとではないのだ。

(新刊JP編集部)

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