インタビュー
» 2015年07月22日 13時00分 UPDATE

冲方丁「書店にある本は全部商売敵」? オーディオブック版『天地明察』爆笑対談 (1/2)

[新刊JP]
新刊JP
羽多野渉さん(左)と冲方丁さん(右)

 江戸時代初期の囲碁棋士であり、天文暦学者・渋川春海の半生を描いた冲方丁さんの長編小説『天地明察』(角川書店/刊、2009年刊行)は、第31回吉川英治文学新人賞をはじめ、第7回本屋大賞、2011大学読書人大賞、第7回北東文芸賞、第4回舟橋聖一文学賞とさまざまな文学賞に選出され、その後映画化もなされるなど、大きな注目を集めた。

 そして2015年、本作が豪華キャスティングによりオーディオブックとなって帰ってきた

 渋川春海役を『FAIRY TAIL』ガジル役などで知られる羽多野渉さん、えん役を『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』平塚静役などで活躍中の柚木涼香さんが演じる。さらに関孝和役には三木眞一郎さん、本因坊道策役に斉藤壮馬さん、水戸光国役にケン・サンダースさんと、今勢いのある若手から、実力派のベテランが物語を盛り上げる。また、語り部にはニッポン放送のアナウンサーである上柳昌彦さんが登板。これが面白くならないはずがない? そして、裏情報では作者の冲方さんも声優として登場しているとか……。

 今回、新刊JPは『天地明察』オーディオブック版の配信を記念し、作者の冲方丁さんと主演の羽多野渉さんの対談を企画。「渋川春海」「ライバル」「オーディオブック」「これから挑戦したいこと」という4つのテーマでお話をうかがった!

(司会・構成:金井元貴)

渋川春海について――「まわりにいると応援したくなる」(羽多野)

司会 まず、「渋川春海」はどのような人物だと思いますか?

羽多野 春海は、1つ好きなことがあると没頭して周囲が見えなくなってしまう人ですね。目の前にある問いを解くまで回りが見えなくなるような。ただ、オーディオブック版では意外にドジでコミカルな面が出ていて、冲方先生に怒られないかな、と(笑)。好きなことに熱中していて、まわりにいると応援したくなるような人です。

冲方 春海の愛嬌(あいきょう)の部分をくんでいただいてうれしいです(笑)。

羽多野 ありがとうございます!

冲方 春海は碁方の家に生まれて、実質的には次男坊だからいつもぶらぶらしている。碁打ちという当時は格式のある職業でしたから、武士ではないけれど武士っぽくさせられているという、ちょっと複雑な環境だったんですね。そういったところを読者にどう説明するかは大変でしたね。でも、数学が大好きで聡明(そうめい)な人間なんだけど、羽多野さんが言ったように、いつもドジをやっていて、才気煥発(かんぱつ)ではない。

羽多野 神社に行って絵馬の前で座って、算盤(さんばん)を弾いて問題解くのを熱中しているシーンがありますけど、正座をするくらい育ちというか品が良いんです。その品の良さがなくならないようにというのは意識させていただきましたね。

冲方 それは非常にありがたいですね。

羽多野 お坊ちゃん気質ですが、奔放さを持ち合わせている。

冲方 育ちがいいんですよね。素直というか。

羽多野 競争をしない。碁打ちなのに競争をしないというのはおかしいですが(笑)物語が進むと、囲碁のライバルとして出てくる本因坊道策がだんだんかわいそうになってくるんです。道策はあんなに勝負にこだわっているのに、春海はそれをひらりと避けようとする。その対比がおかしいというか。

ライバルについて――「書店にある本は全部、商売敵(笑)!」(冲方)

司会 今、渋川春海のライバルの存在でお二人からお話が出ました。ここではそのライバルについて、お二人の“ライバル観”についてうかがいたく思います。

冲方 羽多野さん、いかがですか?

羽多野 これはリアルな役者の世界の話ですよね……。もちろん、同じ声のお芝居をしている役者仲間、特に同じくらいの年齢で、同じくらいのキャリアを持っている仲間とは普段プライベートでもよく会うし、仲良く遊ぶことも多いのですが、仕事ではお互いライバルだと思って接していると思いますね。現場ではお互い緊張感を持って切磋琢磨できているので、それは幸せです。

冲方 同世代の同じくらいのキャリアの方々はみんなライバルということなんですね!

羽多野 敵視しているわけではないですよ(笑)! 魅力を認めるという意味です。でも、魅力を認めることって、ライバル心からくるものだと思うんですよ。相手の魅力を認めると、自分の魅力は何だろうと考えますからね。

冲方 なるほど。物書きにはそういう関係というのはないからうらやましい。ぶっちゃけて言うと、書店にある本は全部商売敵ですから(笑)!

羽多野 それはすがすがしいですね!

冲方 例えば書店の店頭で、自分の本が置いてある隣に大ヒット中のダイエット本が置かれると、ちょっとイラッとしますよ(笑)。ジャンルは違うけれど、どうやったら勝てるんだろうって思います。「冲方丁の本を読んだら痩せる」とか言えばいいのかな?

 でも、書き手からすると、書店は明暗が分かれる場なんですね。そこでお客さんが手に取るかどうかでその後の全てが変わってしまう。だからデビュー時は書店に行けなかったです、辛すぎて。20代そこそこの自分の本が村上春樹さんの本の隣に置いてあったりするんですよ。これは勝てるわけない、つらい、と(笑)

羽多野 僕はソロで音楽活動をしていて、最初のシングルを出したときに、わざとCDショップに行って有名な先輩の横にそっと自分のCDを置いたりしましたね(笑)。ついでに僕のCDも手にとってくれるかなという淡い期待を持って(笑)。

冲方 それは「あるある」ですよ。でも、道策と春海、春海と関のように何10年にもわたってその人を追いかけるというようなライバル関係ってなかなかいないですよね。

司会 冲方先生がライバル関係を描くときに気を付けていることはありますか?

冲方 どちらかに偏らないということですね。読者が読んだときに、両方に共感できるように重きをおくようにしています。そうしないと、だんだん(読者が)主人公の気持ちに寄り添い過ぎて、相手を敵視するようになるんですよ。でも、そのライバルがいるから主人公は成長するわけで、それをしっかりと見せないといけないんですね。

羽多野 後半に関と初めて会うシーンで、春海はものすごく罵倒されますよね。そしてただ謝り続けるのですが、演じている自分もすごくつらかったんです。けれども、その後に関がなぜ厳しい言葉をかけたのかを言ってくれる。その瞬間に心が軽くなるというか、感謝の気持ちがわいてきたんです。どちらが悪いのではなく、お互いに思いを持っていて、関は関で自分の思いを春海に託すときに、自分の本当の気持ちを全部吐き出しちゃう。関も関で苦しいけれど、春海に対して言わないといけないと思っているからこその言葉だと。

冲方 関も天才ですが、資料を見てみると本当に不遇な人生を送っているんです。

羽多野 そういう思いが言葉になっているというか。最後に、関から、本当は算術を使って自分の手で天をつかみたいけれど、それは自分にはできないからお前がやれという力強い励ましを受けて、心の底から春海は「必至!」と叫ぶんですけれど、あまりにも叫びすぎてディレクターさんから音が割れていると注意を受けました(苦笑)でも、そのくらい思いは溢れていましたね。

冲方 物書きとしての春海の内面への潜り方と、役者としての潜り方は違いますよね。物書きとしては、春海にも潜りつつ、別の人にも潜りこんでもいるので、「必至」と言っている春海を見ている関の感情も同時に俯瞰しているんです。片方どちらかに宿るとすごいことになるだろうな、と(笑)。

羽多野 朗読って基本的には地の文を含めてすべて一人で読むことが多いのですが、今回は地の文はアナウンサーの方が読まれて、それぞれのキャラクターごとにちゃんと声優がついて演じているという形で収録したので、深く春海に入る込むことができました。特に後半の怒濤(どとう)の展開、感情の起伏はすごかったです。つらいシーンも多いのですが、涙が出てしまいましたし、(春海の)しんどさを感じることもありました。でも、その一人の人物に没頭させてもらえたのは役者として幸せでした。

冲方 そこまで潜り込んだら、こんなにひどい目にあっても人間大丈夫なんだと思うでしょう(笑)?

羽多野 それはありますね(笑)! まさに紆余(うよ)曲折を体現している人です。上向いていると思ったら一気にズドンと落ちたりする。

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