『天地明察』がオーディオブック化 声優・羽多野渉の名演を冲方丁が絶賛

都内でオーディオブック化を記念した制作発表会が開催。作者の冲方丁さんと、主役・渋川春海を演じた声優の羽多野渉さんが登場した。

» 2015年07月17日 11時00分 公開
[宮澤諒eBook USER]
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 冲方丁さんの小説『天地明察』のオーディオブック化を記念した制作発表会が6月24日に都内で開催された。発表会には作者の冲方さんと、主人公・渋川春海役を演じた声優の羽多野渉さん(「ダイヤのA」増子透役、「FAIRLY TAIL」ガジル役など)が登場し、制作の裏話などを語った。

羽多野渉さん(左)と冲方丁さん(右) 羽多野渉さん(左)と冲方丁さん(右)

 オーディオブックとは、書籍の内容を声優やナレーターが朗読したものを録音した音声コンテンツ。両手がふさがり、本を開けないような状況でも利用でき、視覚障害などで読書が困難な人でも楽しむことができることから、年々注目を浴びるようになっている。

 今回オーディオブック化された「天地明察」は、天文歴学者・渋川春海の生涯を描いた作品。原作は、2009年に発行され、2012年にはV6の岡田准一さん主演で映画化も果たしている。

役に入り込むあまり、涙ぐんだことも

 春海役を演じるまで、作品を読んだことがなかったという羽多野さん。昔から漫画やアニメが好きで、活字に少し恐怖心を持っていたというが、読み終えるころにはすっかりお気に入りの一冊になっていたという。

 主人公の春海は、日本独自の暦を作るという途方もないミッションを背負った人物。そのため、幾度となく失敗や挫折を味わう。羽多野さんは小説を読み進めるにつれ、春海に自分を重ね合わせていった。「わたしは今年で声優12年目なんですけど、最初から順風満帆だったわけじゃなくて、仕事が月に1本とか2本の時期もありました。でも、必ず誰かに見てもらおうと思って歯を食いしばってやってきた。自分のそういうところと、春海の自分に正直に生きていくという生きざまにシンクロする瞬間があったんだと思います」(羽多野さん)。

 絵のない作品に声を吹き込むという意味では、ドラマCDにも通じるものがある。テレビアニメの声優以外にも、音楽活動や、ドラマCDへの出演など幅広く活躍する羽多野さん。ドラマCDはセリフを繋ぐことでキャラクターの動きを表わすのに対し、オーディオブックには地の文(ナレーション)が存在する。「地の文がキャラクターの動きや感情を説明していき、それが最高点に達したところでセリフが出てくる。いかに地の文の表現を汲んで演じることができるかというのが難しくもあり、やりがいがある」と話す。

 演じるに当たっては、感情が高ぶるあまり思わず涙ぐんでしまうこともあった。そんな羽多野さんの演技を冲方さんは「春海の春海らしいところ、どうしても小説では表現できない愛きょうであったり、とまどいとか、叱咤激励されたときの素直さとか、ニュアンスはどうしても文字だとその人に想像してもらうしかないですけど、それらが明確に形になっている」と高く評価する。

作家・冲方丁、声優に初挑戦

 本作では、羽多野さん以外にも多数の声優陣が出演している点にも注目したい。春海の妻・えん役には柚木涼香さん、関孝和役に三木眞一郎さん、保科正之役に玄田哲章さんなど豪華な顔ぶれとなっている。出演声優の多くが事務所の先輩ということもあり、作品内ではかなりいじられたという羽多野さん。注目して欲しいポイントを質問されると「諸先輩方にいじられる羽多野“春海”じゃないですかね」と答え笑いを誘った。一方で、そういった先輩たちの演技に背中を押され、心強く感じたとも。

 さらに本作では、作者の冲方さんも声優に初挑戦している。「頑張って逃げてたんですけどね、最後につかまっちゃいました。にぎやかしなので、笑って楽しんでもらえれば」(冲方)。果たしてどのシーンに登場するのか、どんな演技をするのか、それは作品を購入して聞いてもらいたい。

『天地明察』は人気が出たからこそ“壁”になった

 小説がヒットし、映画化、そしてオーディオブック化を果たした「天地明察」。作者にとっては、さぞ誇らしいことだろうと思っていたが、どうやら嬉しいことばかりではないようだ。最初は担当編集者など数人だけが関わっていた作品も、人気がでるにつれ自分のものではなくなっていったという。

 ある人には、春海みたいな人がでてくる作品が読みたいと言われ、またある人には「天地明察」みたいな作品はもう書かないんですかと問われた。「いまとなっては一番の壁になっています」と冲方さん。その壁を乗り越えることが今後の課題だと話した。

 「もともと物語りは、語って伝えるもの。小説よりも音声によって人に伝える方が歴史は古いんですよ。オーディオブック化に当たって、ところどころ修正を加えていただいているんですけど、これが本来の形であって、そこからさらに小説的表現を深堀りすることができる」と冲方さん。「今後、小説とオーディオブックはなるべくセットになると、日本語がもっと洗練されるんじゃないか」と、オーディオブックの重要性についても言及した。

 今後もほかの作品をオーディオブック化していきたいかとの質問には、「簡単にはできないと思いますけど、またぜひやっていただきたいですね」と前向きにコメントした。

 オーディオブック「天地明察」(KADOKAWA)は、オトバンクのオーディオブック配信サービス「FeBe」で配信中。価格は1800円(税別)。配信に併せて開設した特設サイトでは、出演者によるコメントを聞くことができる。

オーディオブック『天地明察』出演キャスト

渋川春海(安井算哲):羽多野渉

えん:柚木涼香

関孝和:三木眞一郎

保科正之:玄田哲章

建部昌明:秋元羊介

伊藤重孝:小形満

村瀬義益:土田大

本因坊道策:斉藤壮馬

酒井忠清:ふくまつ進紗

水戸光国:ケン・サンダース

山崎闇斎:福沢良一

安藤有益:金光宣明

こと:森谷里美

土御門泰福:三宅貴大

井上正利:藤井隼

堀田正俊:若林佑

島田貞継:堀総士郎

ナレーション:上柳昌彦

安井算知:冲方丁


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