インタビュー
» 2015年07月14日 14時15分 UPDATE

モノのない生活から新しい価値が生まれる――話題の「ミニマリスト」とは? (1/2)

[新刊JP]
新刊JP

 今、“モノの価値”への考え方を揺さぶる一冊の本が注目を集めている。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』著者の佐々木典士さん 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』著者の佐々木典士さん

 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(佐々木典士/著、ワニブックス/刊)は日本人ミニマリストが実際に実践している“モノを減らす生活”のすべてを書きつづった一冊だ。部屋からモノをなくした後に何があるのか、好きなモノさえも手放したときに人は何を考えるのか、溢れ返るモノに囲まれて生きている読者の価値観を一気に変えるような内容となっている。

 著者でミニマリストの佐々木さんは1979年生まれの編集者。典型的な「汚部屋」に住んでいたが、あるきっかけからミニマリストに一気に転身し、モノを片っ端から捨てていった。今では、1Kの部屋の中にはテレビも机も本もなく、PCと小さな小物入れ、そして寝るためのマットレスのみで、食器も必要最低限と徹底した暮らしぶりを体現している。

 本書にはそんな佐々木さんをはじめ、さまざまなミニマリストたちの生活を垣間見ることができる写真が掲載されている。

 今回、新刊JP編集部は、発売即重版となり、ミニマリストではない読者からも支持を受けているという本書について、佐々木さんにインタビューを敢行した。

(新刊JP編集部/金井元貴)


「ミニマリスト」は一体どんな生活をしているのか?

―― ミニマリストという生き方についてお話をうかがいたいのですが、まず、どのような人がミニマリストといえるのでしょうか。

佐々木 よく思われているイメージは、持っているモノがとても少ないということですね。ミニマリスト=最小限主義者というのが語源ではあります。でも、テレビを持っていたり、ベッドで寝ていたりするとミニマリストじゃない、スーツケースに持ちモノがすべて入ればミニマリストだ! と言う人もいますが、そういうことではないと僕は思っています。

 モノの数が単純に少なければ少ないほどいい、多ければ悪いということではないんです。自分にとって本当に必要なモノが分かっていて、大事なもののために、それ以外を減らしている人がミニマリストだと僕は思っています。たとえ大きなピアノや、車を持っていても、他人の目線を気にして持っているのではなく、自分が本当に大事で必要だと思っていて持っているのであれば、それもミニマリズムだと思います。自分にとっての「最小限」を意識するのがミニマリズムなので。

―― 自分にとって大事なものは何かを把握しているということですね。

佐々木 そうですね。「スーツは何着までしか持っていちゃいけない」と言う人もいますけれど、それは他人の価値観にコントロールされていますよね。そうではなくて、自分にとって必要な枚数を持っておけばいいので。

―― 確かにスーツは着る人は毎日着ますし、着ない人は全く着ませんしね。

佐々木 自分や家族が豊かな生活を送るために必要なモノだけを残して、それ以外を減らす、削ぎ落している人を、僕はミニマリストと解釈しています。またモノ以外でもミニマリズムは適用できます。溢れる情報の中から自分が必要なものに絞る、そういったこともミニマリズム的な考えだと思っています。

―― 佐々木さんは今、どのような生活をしているのですか?

佐々木 床には何も置かないようにしています。テレビやベッドは手放しましたし、小物入れをテーブル代わりにして使っています。忙しくて帰って寝るだけのときもあるのですが、座禅を組んだりして過ごしています(笑)。修行僧のような気分ですね。でも掃除機も、洗濯機も、電子レンジも自分に必要なモノはちゃんと持ってますよ。布団乾燥機すら今はありますから(笑)。

―― 本の中に佐々木さんの部屋の写真が掲載されていますが、1Kの部屋ががらんとしていますね。

佐々木 そうですね。娯楽はPCとスマートフォン一台あればほぼ済みます。DVDも音楽もiTunes Storeなどを使ってダウンロードすれば楽しめますし映画を見たければ映画館に行きますしね。

佐々木さんの部屋の写真
佐々木さんの部屋の写真

―― 写真を見る限り、本やCDもありませんよね。もともとはモノがあふれ返った部屋だったところから、それらをなくしていくのは大変だったのでは?

佐々木 そうですね。一番(部屋が)ぐちゃぐちゃだったのが2008年ごろなんで、ここまで片づけるのに7年くらい掛かっています。でも一気に減ったのはここ1年くらいですよ。

―― すごいですね。そういえば、佐々木さんはご結婚されているんですか?

佐々木 いえいえ、独身丸出しですよ(笑)。確かに、同居人やお子さんがいるとモノを減らすのは難しいと思われるかもしれません。ただ極端にモノを減らすのが、ミニマリストではなく、それぞれの生き方で、ステージで必要なモノを考えるのがミニマリズム。だからこの本でもご家族でミニマリズムを実践している人のケースも掲載しています。

―― この本にはDIYや自作の洋服などを駆使しながら、落ち着ける住まいを追求している4人家族の部屋の写真が載っています。家族でミニマルな生活を実践するときは、その家族なりのやり方がありそうですね。

佐々木 そうですね。どんな状況にあってもミニマリズムは実践できるし、どれがベストということもありませんから。

 奥さんが家具デザイナーをしている方のお話で、やはりデザイナーをやっているといろんなところから家具がもらえるらしいんですね。それで家じゅうが家具だらけになって、夫婦仲が悪くなってしまったそうです。でも、片付けたら関係も良好になったというエピソードもありますね。

「どんなモノでも捨てる」ということの利点

―― 佐々木さんはモノを捨てるときに「もったいない」と思うことはなかったのですか?

佐々木 めちゃくちゃありましたし、その感覚は今でも普通にあります。それまで集めたCDや本はもちろん、高かったのにあまり着ていなかった服もありましたから。

―― 「これ買うのにいくらかかったっけ」と、お金に換算してしまいますよね。

佐々木 そうそう。この服、1万円したよな〜とか思っちゃう。でも服を減らして、空いたスペースがもしかしたら1万円以上の価値を生むかもしれないし。モノは目に見えるから、その分価値が分かりやすいけれど、実はモノがないことによって生まれる新しさの方が、価値は高いかもしれない。

―― それは同時に過去の自分への執着を捨てることにもつながりそうです。

佐々木 集めるのに10年くらい掛かった本棚の本を丸ごと捨てたときはそうなりましたね。神保町の古書店に来てもらって買い取り額の査定をしてもらったのですが、2万円くらいでした。買ったときの合計は多分100万は下らなくて、貴重な本もあったのでもうちょっと期待していたんですけど(笑)。

 ただ、自分が好きな本でさえもリセットしてみると、新しい自分が見つかりますよ。一度手放してみて、やっぱり好きだと思えばもう一度同じ本を手に入れられる時代ですし、思い切れました。本棚を手放すと、目の前にある1冊に集中できるので、本棚があったころより本をよく読むようになりました。テレビも手放しましたしね(笑)。まあ、でも正直言うとミニマリストとして生活し始めてから、将来のこともあまり考えられなくなってきていて(笑)。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』

―― 将来のことが考えられないって、どういうことなんですか(笑)?

佐々木 これだけモノが少なくしてみると、必要最低限だけで生きていけると思えるんです。ミニマルライフコストというんですけど、一度自分が生きていくのに最低限必要な金額を把握してみるのは有効です。広い家が必要なくなるので、家賃も下がるし、家電がないと光熱費だって下がります。今あるモノで十分だから、いざとなったら必要以上に稼がなくても大丈夫。

 逆にモノが多いと、これらを守らないといけないと考えてしまいますよね。今の仕事がなくなってしまったら守っていけなくなるとか。そして、将来のことを考えて不安になってしまう。でも、今は失うモノがないですから、あまり先のことを考えなくなるんですよ。

―― 将来に対する不安がかき消されていくんですね。

佐々木 「かつて」大事だったモノ=過去と、「いつか」使うかもというモノ=未来。過去と未来のことを考えるのが、モノを減らすときには大敵なんですよね。

 残すモノの基準は「今」必要かどうか。モノを何千個と捨てるたびに、そんな風に「今」を問いかけてきました。すると不思議と今を生きることにフォーカスしたんです。だから、過去にあったことの後悔なんかもあまり思い出したりしないようになりました。過去にも未来にもなぜかピントが全然あわなくなってしまった。もう今しかない感じですね。以前は、将来のことで、結婚して式に300万円掛かって、子どもが1人生まれたら、養育費は2000万円か……とか毎日ごちゃごちゃ考えていましたから。未来や過去のことばっかり考えて、一番大事な今を台無しにしていました。

―― また、この本を読んでいて、いろいろなデータをデジタルで一元管理するということも大事だと思いました。

佐々木 資料はすべてスキャンしたり、カメラで撮影したりして、紙に残さないようにしています。今、僕のデスクの上には何も無いですよ。

―― 編集者というとデスクの上に本が積み重なっている人が多いですよね。

佐々木 そうなんですよね。でも、僕のデスクだけ、明日退職する人のようにきれいなんです(笑)。家だと保証書や説明書のたぐいもすべて捨てています。保証書はこれまで使ったことがないですし、説明書はウェブ上からダウンロードできるようになっていることが多いですから。スケジュールもスマートフォンで管理しています。

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