紙の本に思い入れもあるが電子書籍には大いに期待 東雅夫の“I Love ebook”宣言

» 2015年06月27日 06時00分 公開
[出版デジタル機構]
東 雅夫さん

東 雅夫(アンソロジスト、文芸評論家)

1958年、神奈川県生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。元「幻想文学」編集長で、現在は怪談専門誌「幽」編集顧問。『遠野物語と怪談の時代』で日本推理作家協会賞を受賞。著書に『百物語の怪談史』『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』、編纂書に筑摩書房版『文豪怪談傑作選』、平凡社ライブラリー版『可愛い黒い幽霊 宮沢賢治怪異小品集』ほか多数、監修書に岩崎書店版『怪談えほん』ほかがある。


紙の本に思い入れもあるが電子書籍には大いに期待

 編集者として仕事を始め、後に物書き兼業となった身としては、紙の本には並々ならぬ思い入れがある。活版で雑誌を作った最後の世代としては、尚更だ。紙の本はそう易々と終わらないと確信しているが、一方で電子書籍には大いに期待しているし、活用もしている。紙の本には不可能なあれこれを可能にする夢のツールだからだ。

 しかしこの夢は未完、いや未完成である。改善すべきハード面ソフト面の問題は山積だ。私も自分が本文校訂した本を無断で使われ愕然とした経験がある。未完の大器が本領を発揮する日が、早く訪れますように……。

東さんのオススメ電子書籍

1.半七捕物帳 全巻セット

半七捕物帳 全巻セット
岡本綺堂(著)/オリオンブックス

電書の利点として真っ先に挙げられるのは、大部のシリーズや全集を、重さや容積を気にせず、どこへでも携行できることだろう。滋味あふれる文体で綴られる捕物帳のスタイルで、喪われゆく江戸情緒を謳いあげた本シリーズがあれば、遠出の際も退屈しらずだ。


江戸末期に活躍した岡っ引である半七捕物帳の全巻セット。近代日本の探偵小説の傑作。全69話を収録。

2.合本 陰陽師(一)〜(十二)【文春e-Books】

合本 陰陽師(一)〜(十二)【文春e-Books】
夢枕獏(著)/文藝春秋

大部のシリーズを一巻にパッケージングした好企画をもう一点。クールな大陰陽師・安倍晴明と楽人・源博雅の名コンビが、王朝時代の闇に息づく魑魅魍魎に立ち向かう長寿伝奇連作の一巻から十二巻までを合本。妖しくも典雅な世界にどっぷり浸れること請け合い。


野村萬斎・主演で映画化され、テレビドラマや漫画にもなった大人気シリーズ、既刊の12巻すべてを収録した合本。時は平安時代、京の都に安倍晴明という名高い陰陽師がいた。まだ闇が闇として残り、夜になれば人も、鬼も、物の怪も、同じ都の暗がりに、息をひそめて住んでいた時代――。
安倍晴明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼など、普通の人間には見えない、妖しのものどもを相手に、この世ならぬ不可思議な難事件をあざやかに解決する。親友の源博雅は、霊感はまるでないが、刀では敵なしの強さ。力を合わせて物の怪に挑む大ヒットシリーズ!

3.海贄考(電子復刻版)

海贄考(電子復刻版)
赤江瀑(著)/徳間書店

絶版だらけな紙の本と違い、過去の名著・良書が即、入手できるのも電書の大きな利点だろう。蠱惑の文体で熱烈な愛読者を有した赤江瀑の名短篇集が、電書版で次々に復刊されているのは喜ばしい。本書の表題作など、幻想文学のお手本というべき絶品である。


民間伝承に材をとった表題作のほか、生と死の幻想が交錯する傑作短編7編を収録。

4.泉鏡花

泉鏡花
泉鏡花(著)/能登印刷出版部

地方出版社の知られざる好著が、電子化により新たな読者と出逢うチャンスが生まれているのも歓迎すべきことだ。本書は近代日本が生んだ最大の幻想作家たる泉鏡花の諸作から、故郷金沢を舞台とする名作佳品を抽出した重量級のアンソロジー。鏡花と金沢の真髄が一巻に!


鏡花アンソロジーとして編纂され、小説のすべては、石川県を舞台としている。『義血侠血』『照葉狂言』『龍潭譚』『名媛記』『海の鳴る時』など、全23編を収録。

5.Delphi Collected Works of Andrew Lang

Delphi Collected Works of Andrew Lang
Delphi Classics

海外の文献を、必要な時にすぐ参照できることも電書の利点。私も『クトゥルー神話事典』執筆中に大いに恩恵を蒙った。本書は、英国の文人学者ラングの全著作(!)を一冊にまとめたもので、怪談実話の大古典から色別の童話集、ギリシア古典まで、基本図書の宝庫。

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