箏・俳句・茶道……「日本文化系」部活マンガ、おすすめ3選

» 2015年06月13日 06時00分 公開
[ぶくまる]
ぶくまる
箏・俳句・茶道……「日本文化系」部活マンガ、おすすめ3選

 今回は世の中に数多ある文化系部活マンガの中から、ちょっとマイナーだけど、知ると面白い「日本文化」系の、箏・俳句・茶道マンガをご紹介します。今まで抱いていたお堅いイメージが、少し変わるかもしれませんよ。

『この音とまれ!』 箏曲部で、和楽の魅力を知る

この音とまれ! 1

この音とまれ!』 アミュー/集英社

 先輩が卒業し、唯一の箏曲部員になってしまった倉田武蔵(くらた たけぞう)。新入部員が見つからず、不良のたまり場となった部室に悔しい思いをしていたが、ようやく現れた入部希望者は、中学時代に警察沙汰を起こしたという噂の久遠愛(くどう ちか)。さらに箏(こと)の家元の娘・鳳月さとわ(ほうづき さとわ)が入部することに。メインの3人に、徐々に部員が加わっていき、校内での演奏会や大会などを経て、彼らは箏曲部として成長を遂げていく。


 あとがきによると、作者は3歳から箏を習っている経験者だそうです。小学生のころから箏のマンガで連載するという夢を持っており、これが念願の初コミックスだとか。その思いもあり、演奏シーンの描写は圧巻です。激しい箏の曲では、音の波がうねってぶつかるように迫ってきます。2つのパートの掛け合いで1つのメロディーを作るところなど、難しいシーンで武蔵と愛の音が「ハマる」瞬間は、思わず鳥肌が立ちますよ。

 箏のことをよく知らない人でも楽しめるよう、曲ごとに調弦する必要がある(曲に合わせて必要な音の並びを作る)ことや、演奏するときに指につける「爪」のことなど、基本的な知識やルールも丁寧に描かれています。実際は、流派や流儀などが複雑に分かれている箏の世界ですが、本作では箏曲部のメンバーの青春ストーリーと共に、分かりやすく知識を得ながら楽しむことができます。

 お正月の番組で流れている曲くらいしか聞いたことがない人でも、「箏ってこんなにかっこいいものなんだ!」と、新鮮な驚きが味わえる作品です。

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『ぼくらの17-ON!』 俳句部で、言葉の力を再確認する

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ぼくらの17-ON!』 アキヤマ香/双葉社

 何の期待もせず、感慨もなく、ただ「何となく」毎日を送っていた男子高校生・久保田莉央。ある日、街中で偶然出会った少女・錦織彩に一目ぼれ。彼女が女子高の俳句部と知り、莉央は自分の高校にある俳句愛好会へ入ることを決意します。


 幽霊部員の先輩と、同じクラスの山本春樹、2人だけのささやかな俳句愛好会。入部した日に、顧問の先生と山本と3人で公園へプチ吟行に向かいます。「吟行」とは句を詠むために出かけること。同じ公園の景色を見ているはずなのに、楽しそうな山本を不思議に思いながら、莉央は自分が見ている世界に改めて目を向けます。

 綾とお近づきになるために俳句を始めた莉央ですが、その恋はあっけなく破れてしまいます。それでも、初めて読んだ句を褒められたときの喜びや、今まで漫然と眺めていた景色や感情を、自分の言葉で表現し、世界を構築するときの快感が忘れられません。

夏の空 俳句の神が 降りてこねぇ

 グチを5・7・5で詠み上げたりと、すっかりハマっている様子。

 俳句に対して「お年寄りの趣味」という、年季の入ったイメージを持つ方も多そうですが、このマンガはいい意味でそれを壊してくれます。人数が増え、愛好会が「俳句部」になってからのメンバーや、「俳句甲子園」でライバル校の生徒が詠む俳句には、分かりやすく身近な言葉も使われていて、例えば、

短夜に プチ家出して 土手で寝る

なんて、こんなライトな感じでもいいんだ! とびっくりするはず。また「試合」では、句を発表した後にディベートがあり、お互いの俳句論を展開した上で勝敗を決します。白熱する議論の応酬も見どころの1つです。

 伝えたい思いと世界を表すのに使えるのは、たった17音。少ない文字数だからこそ、「自分」がぎゅっと詰まっている。莉央はそこに惹かれたのかもしれません。いつも見ている景色を、見つめ直したくなる1作です。

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『ケッコーなお手前です。』 茶道部で、もてなしの心を学ぶ

ケッコーなお手前です。 1巻

ケッコーなお手前です。』 みよしふるまち/マッグガーデン

 米国からやってきた留学生ユージーンは、「茶道部」に仮入部するため、偶然居合わせた鳥居樹に茶室まで案内してもらいますが、初めて体験する「茶」の世界に驚き、興味をなくしてしまいます。ユージーンは茶道を、柔道や剣道のような体育系の部活だと思っていたため、「お茶を入れるだけ」の部活に意味を見出せなかったのです。

 そんなユージーンが、茶道に目覚めるきっかけになったのが、樹の点てたお茶。実は樹は、茶道の家元・鳥居家の息子。日々「稽古」をして茶道と本気で向き合う、立派な「茶人」だったのです。

 樹は、ユージーンが慣れない手つきで初めてたてたお茶に対し、「結構なお手前でございます」と敬意を示します。もちろん、手順や作法を守ることは大事です。でもそれ以上に、茶道に対する真剣さ、何より「相手においしいお茶を味わって欲しい」という思いが大切なのだということを、このマンガは教えてくれます。

 道具を清めるところをちゃんと見せる、汚れた水は隠れて捨てる、などの複雑な作法を厳格に守らなければいけないのも、すべて「相手のため」なのだと思うと、その細やかさにも納得できます。

 日本文化に触れて日が浅いユージーンと、幼いころから茶の道を歩んできた樹は、ぶつかることもしばしば。ユージーンの無遠慮にも思える言動は、読みながらヤキモキするかもしれません。

 しかし本作は、茶道初心者かつ、日本の文化がまだ体に馴染んでいない留学生を主人公にしていることで、茶道に宿る精神がより鮮明に浮かび上がります。茶道の世界を知ることで、「相手への思いやり」の大切さも改めて学べる作品です。

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まとめ

 「部活動」である以上、コンクールもあれば、ライバルとの切磋琢磨もあります。折々で「勝負」をかける場面が多く、その熱さは体育会系部活に決して負けません。雅の中に秘めた情熱を知ると、複雑な作法やルールにも、きちんと「意味」を見出せるようになります。

 箏も俳句も茶道も、実際に体験する機会はなかなかないと思いますが、まずはマンガを通じて、その雰囲気を味わってみてはいかがでしょう?

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