田舎を舞台に起こる悲劇……クローズドサークル系マンガ3作

» 2015年05月19日 12時00分 公開
[ぶくまる]
ぶくまる

 都会から遠く離れた、自然豊かな田舎って憧れますよね。しかし、裏を返せば人里離れた「陸の孤島」という一面も隠し持っています。そこで今回は、読むと背筋がゾクゾクする、田舎が舞台となっている“クローズドサークル系”マンガを3作品ご紹介します。

そもそも「クローズドサークル」とは?

 クローズドサークルというのは、何らかの事情で外界とのつながりが断たれた状況や、そこで起こった事件自体を指すミステリ用語です。有名作品のシチュエーションにちなんで「吹雪の山荘もの」「嵐の孤島もの」などとも呼ばれています。『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』を愛読していた人なら、なじみ深い設定のはず。「えぇ? 迎えの船が来るのは一週間後?」「電話線が切られている……誰がこんなことを……」「見て! 吊り橋が燃やされてる……!」というアレです。

 ミステリ作品の中のクローズドサークルほど厳密ではなくとも、村へのバスは一日一本、村に一隻しかない船を使わないと外に出られない……という、田舎を舞台にしたマンガによくあるシチュエーションも、一種のクローズドサークルと呼べるのではないでしょうか。

『惨殺半島赤目村』 クローズドサークルのお手本的作品

惨殺半島赤目村(1)

惨殺半島赤目村』 武富健治・中島直俊 / アース・スター エンターテイメント

 最初に紹介するのは、タイトルから恐ろしげなこの一冊。2011年にドラマ化・2013年に映画化された『鈴木先生』の作者、武富健治先生の作品です。

 姫ヶ崎半島の南端に位置する赤目村に、主人公・三沢勇人が村医として都会からやってくるところから話が始まります。

 初めて村を訪れる三沢の台詞から、ここが陸の孤島であることが分かります。

 そして、目の前に現れたのは、田舎の村にリゾートホテルと観覧車がそびえ立つ異様な光景。こんな怪しい村で事件が起こらないはずがありません。

 ひとクセありそうな村長と、都会ものに厳しい村の青年たち。

 そして森の奥深くにある不気味な集落。役者も舞台も完璧です。

 のどかさと不気味さが同居する赤目村で、三沢は村人たちがひた隠しにしている禁忌を知ることになります。外部から閉ざされた村の中で、彼は全ての謎を解き明かすのか、それとも村の暗部に取り込まれてしまうのか……。

 ハラハラドキドキさせられる展開は、まさにクローズドサークルならではの魅力にあふれています。

 赤目村の謎に隠された真実は、ぜひその目で確かめてみてください。

『ツバキ』 主人公がクローズドサークルを渡り歩く

ツバキ 1巻

ツバキ』 押切蓮介 / 講談社

 この作品の舞台は、「昔話」の時代の山奥深く。主人公の少女・椿鬼(ツバキ)は、狩猟を生業とする「マタギ」として山から山へと旅しながら、そこで出会った人々を時に救い、時にいさめる……。

 ツバキは自由に山々を旅しますが、彼女が訪れる山奥の村は、陰湿なクローズドサークル。主人公がクローズドサークル間を移動するというのは特殊な形式かもしれませんが、作中で描かれているムラ社会の閉塞感は秀逸! 小さな村の中にうごめく人間の業や、むき出しの悪意、欲望に背中がすぅっと冷たくなるのを感じます。そんな人間の暗黒部分が、押切蓮介先生のおどろおどろしいタッチで生々しく描かれています。

 そんなクローズドサークルの呪縛を解く旅を続けるのがツバキの役目。暗い夜を越え、朝日を迎えるカタルシスも、クローズドサークルの醍醐味のひとつと言えますね。

『闇の鶯』 幻想マンガの巨匠が描く、村社会の怪異

闇の鶯

闇の鶯』 諸星大二郎 / 講談社

 伝奇や民俗学を題材に唯一無二のマンガを描き続ける、諸星大二郎作品も押さえておきたいところ。

 本作は作者の単行本未収録傑作選をうたっている短編集です。土地開発会社に就職した男性が、山中で鶯という名の女性の姿をした「山の神」に出会う表題作を始め、ミステリというよりは怪異を描いた話が多く、この“クローズドサークル系”というテーマの中では異色作と言えるかもしれません。

 しかし、独特の空気感が漂う田舎描写と、日常が徐々に異物に侵されていくゆるやかな恐怖感という、クローズドサークルのエッセンスが充分に楽しめるはずです。


 日常から遠く離れた世界を仮想体験したくなったら、クローズドサークル系マンガでスリルを味わってみてはいかがでしょう?

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