インタビュー
» 2015年05月07日 06時00分 UPDATE

お酒を飲んで天国から地獄へ まんしゅうきつこがアル中語る

[新刊JP]
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 雑誌やテレビでの顔出し解禁で話題を呼んでいる人気漫画家・まんしゅうきつこさんの初の書き下ろし単行本が4月9日に発売された。タイトルは『アル中ワンダーランド』(扶桑社/刊)だ。

 その名の通り、アルコール依存症の経験を漫画化したもので、ご近所さんとのバトルのようなクスッと笑える話から、トークイベントでのまさかのポロリといった目も当てられない残念なエピソードまで、アルコール依存症の地獄に吸い込まれていくまんしゅうさんが描かれている。

 今回、編集部はまんしゅうさんにインタビューを敢行。『アル中ワンダーランド』について語っていただいた!

(インタビュー・構成:金井元貴)

“美人漫画家”顔出し解禁の理由とは

tnfigsj001.jpg 『アル中ワンダーランド』を上梓したまんしゅうきつこさん

―― 初めての書き下ろし単行本ということで、読者の方々の反応はいかがですか?

まんしゅうさん(以下敬称略) 共感してくれる方がとても多くて、「まるで自分を見ているようだった」と言っていただけたりしました。落ち込んでいる人が読んだときにクスッと笑ってもらえるようなマンガにしたかったので、そういった感想が寄せられてようやく肩の荷が下りました。

―― Amazonランキングもノンフィクションジャンルで1位(2015年4月9日朝〜14日朝)を獲得しています。

まんしゅう 想像以上ですね……。ちょっと萎縮しています(笑)。ただ、「売れなきゃ」というプレッシャーもあったので、これで解放されました。

―― 『アル中ワンダーランド』ということで、ご自身のアルコール依存症の経験をマンガにしていますが、この題材でマンガを書こうと思った理由は?

まんしゅう もともとのお話をしますと、「オリモノわんだーらんど」というブログをやっていて、アクセスが増えるに伴ってイラストやマンガの仕事をいただけるようになったんです。でも、そっちの仕事が忙しくなると、ブログを書くことができない。そして、ブログを更新しないといけないという想いがプレッシャーになって、書けなくなってしまったんです。そこでわたしはお酒に逃げて……。

―― リミッターが外れてしまった。

まんしゅう そうなんです。それでアルコール依存症になってしまったのですが、打ち合わせで担当編集の高石さんにお会いしたとき、「私、アル中みたいだから病院行こうと思ってる」と言ったら「じゃあ、それでマンガ書きませんか?」と。

担当編集・高石 実はその時点ですでにひどい酔っぱらい方をしていて、「病院に行く」っていう話もビールを飲みながらしていました。その後、一緒に舞台を観に行く約束をしていたのですが、全く歩けず、会場の下北沢ザ・スズナリの階段も登れずといった有様で、舞台中もずっと寝ていて……(苦笑)。しかも帰ろうとしたときに、「もう一杯飲もう」と言われ、ワインをガバガバ飲んでいました。まんしゅうさんの本気の千鳥足を見て、これはもうネタとして昇華したほうがいいな、と。

―― まんしゅうさんは、そのくだりを覚えているのですか?

まんしゅう それが……よくわからないんです(苦笑)。ただ、そのすぐ後に「編集会議通した」という連絡がきて、面白そうだからやろうかなというくらいだったのですが、高石さんがデスクの方を連れてきて、後に引けなくなりました。

―― その後、すぐに書き始めたのですか?

まんしゅう いえ、実は1年間くらい空いていたんです。何か書き出せなくて。でもあの1年間がなかったら面白いものが書けなかったと思います。一度寝かすことが大事なんです。

―― 最も飲んでいたときは、どのくらいアルコールを飲まれていたんですか?

まんしゅう それが自分でも分からないんですよ(苦笑)。朝起きて、空き瓶の本数を数えたり、ウイスキーの減り方を見て、どのくらい飲んだというのを認識したりしていました。

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―― 特によく飲まれていたお酒は?

まんしゅう 最後の方はウイスキーでしたね。どんどんアルコール度数の高いお酒に移行していくんですよ。自分でもこれはちょっとマズいんじゃないかな……と思い始めて。

 もし病院へ行かなかったら最終的にスピリタスまで行っていたかもしれない(苦笑)。

―― お酒の飲み過ぎで記憶をなくす描写がよく出てきますが、その間は丸っきりないんですか?

まんしゅう まったくないんですよ。あ、でも、30分おきにパッ! と一コマくらい覚えていることがあって、その間は完全に抜けています。だから怖いんですよね……。

―― 昔から記憶をなくすことが多かったんですか?

まんしゅう そこまでお酒に浸るようになったのはブログをはじめてからです。それ以前は付き合い程度くらいの飲酒だったので。記憶をなくしたのは一度だけで、大学生のときに入っていたフォークソングのサークルで飲み過ぎて、下着姿になって変な踊りを踊ったときくらいです。

―― イベントでお酒に酔って壇上で胸を露出するというエピソードが書かれていますが、そのころから脱ぐ癖があったのですね……。

まんしゅう インターネットで見たことがあるのですが、すぐ脱いでしまう人って、普段ものすごいストレスを抱えている人らしいんです。抑圧されている部分を解放するようにして。だから自分もストレスを抱えているのかな……。

―― ストレスがあるという自覚はあるんですか?

まんしゅう プレッシャーは感じますけれど、ストレスとして自覚することはあまりないです。ただ、歯医者に行ったら、「あなた相当歯ぎしりしているからマウスピースしたほうがいい」と言われ、さらに整体に行ったときも「この顔のゆがみは歯ぎしりだね」と言われたので、もしかしたら感じているかもしれません……。

―― この本の最後にはコラムニストの小田嶋隆さん、編集者の中川淳一郎さんとの鼎談が掲載されていますが、そこで顔出しをされていらっしゃいます。もともと4月7日発売号の週刊『SPA!』で袋とじグラビアで水着姿になって顔を解禁しましたが、この撮影のときはお酒を飲んでいませんよね?

まんしゅう 飲んでないです。

―― シラフのときに服を脱ぐというのはどういう感じでしたか?

まんしゅう 最初はがちがちで表情も硬かったと思うんですが、カメラマンが弟(江森康之さん)だったので出せた表情もあったと思います。でも、撮影が進むうちに「よし、お前ブラ取れ」と言われて、「それは無理!」とか、そんなやりとりをしていました(笑)。

―― 今回、顔を解禁したのはどうしてなんですか?

まんしゅう 漫画家だから顔を出さなくてもいいかな〜と思っていたのですが、ふと周りを見渡した時に、プロモーションで顔を出されている方漫画家さんが割といて、そういうのに影響を受けた部分もあります。本を売るために顔を出しました。

担当編集・高石 それに、ずっと「美人らしい」という噂がついていましたからね。

まんしゅう それがすごく嫌だったんですよ! でも、顔出しして、かなりハードルが下がりましたし、2ちゃんねるでは「ババア! ババア!」と言われていますからね。そう書かれるだろうな……というのはありましたがここまでババアと言われると胸に来るものがありますね……。でも、おおかた予想通りです!

今でもお酒は飲みたい、でもマンガか書けなくなる……

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―― 引き続き、『アル中ワンダーランド』についてうかがっていきたいのですが、小田嶋隆さん、中川淳一郎さんとの鼎談はいかがでしたか?

まんしゅう もともと小田嶋さんの本が大好きで、ぜひ会いたいと。小田嶋さんご自身もアルコール依存症で、今は禁酒されている方なのでそういう部分でもお話をうかがいたいと思っていました。

―― 実際にお会いしていかがでしたか?

まんしゅう 去年酷いうつ状態になって、漫画も描けない、文章もかけない、でも締切はある常に追い詰められた状況だったのですが、小田嶋さんの本を読んだ時に一筋の光が見えた気がして……。技巧にこだわらず素直に描きたいことを描けばいいや〜と思えたんです。なので、いつか小田嶋さんに会ったらお礼を言わなくちゃと思っていたのですが、実際ご本人を目の前にしたら緊張で何にも話せなかったのが悔やまれます……。

―― じゃあちょっとお酒を入れたいと。

まんしゅう 本当、すごい飲みたかったんです。でも飲んだらわたしはもう終わるといつも呪文のように唱えてますから……。それに小田嶋さんも禁酒されていたので。中川さんも大好きな人ですし、お二人と鼎談できて良かったです。この本の一番の読みどころだと思います(笑)。

―― 今でもお酒を飲みたくなるんですね。

まんしゅう 飲みたいですよ。ただ、マンガが書けなくなると思うと、飲まなくなるんです。

―― 『アル中ワンダーランド』の中の、アルコール依存症の人々が自身の体験を語る「断酒会」に参加したエピソードは非常に印象的でした。お酒をやめたい人たちが集まるという。

まんしゅう そうですね。そこで話された内容は外で公表してはいけない決まりなので、エピソードまでは書いていないのですが、参加されていた方々がすごく饒舌で、起承転結がしっかり組み立てられてすごく面白いんですよ。お酒が飲みたくなくなるようなお話になっているんです。だから家でちゃんと考えてきているんじゃないかなって。わたしも話を振られたのですが、何を話せばいいのかわからなかったです。

―― アルコール依存症になっていたときに一番つらかったことは何ですか?

まんしゅう 「こむら返り」です。本当に辛かった。頻繁に起こるんですよ。歩いていても足がつるし、いくら痛くても駅の中でいきなりゴロゴロ転がるわけにはいかないわけですから。そういうときはしばらく止まってやり過ごしていました。

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―― 普段から酩酊状態だったんですか?

まんしゅう そうです。お酒を飲むと酩酊感がきて、リラックスできるというか。スーパーサイヤ人状態になることができるので(笑)。

―― そのスーパーサイヤ人状態を垣間見ることができるのが、第5話の「バルス!」です。お酒を飲んでボス的な存在だったご近所さんに突っかかるところで、そのときやっていた『天空の城ラピュタ』の「バルス!」のシーンと重ねるという。

まんしゅう 「バルス!」の後に落ちていくシーンで、わたしがピースをしているのがポイントなんです。最初は落ち込んだ表情で落ちていくだけだったのですが、ピースさせた方が面白いなと思って、書き直したんです。

―― まんしゅうさんが一番好きなエピソードはどれですか?

まんしゅう キャバクラに行く話です。アルコール依存症治療中に、以前泥酔状態で記憶がないときに寄ったキャバクラに行って、知らないお爺さんの接客をすることになったエピソードですね。

―― あのとき、治療中にも関わらずお酒を飲んでいましたが、記憶は飛ばなかったんですか?

まんしゅう ちょっとだけなくなっています(苦笑)。すごい勢いでお爺さんに向かってしゃべって、ポカーンとした顔で見られていたことは覚えています。でも、どうやって帰ったのかは……。

―― 覚えていないと(笑)。この本について特に弟さんはどのように言われていますか?

まんしゅう 面白かったと言ってくれました。彼は登場頻度が高いのですが、身内でしかできないような辛辣(しんらつ)な指摘をしてくれるので……。時としてそれは心をえぐられるくらい厳しいものもあるのですが(苦笑)、そこまで的確に言ってくれるのは姉弟だからこそだと思うので、ありがたいです。

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―― 『アル中ワンダーランド』をどんな人に読んでほしいですか?

まんしゅう 落ち込んでいる人に読んでほしいです。もし落ち込んでいる人がいて、クスッとしたら、それってすごいことじゃないですか。一番ハードルが高いと思うんですよね。このマンガを見て、元気になってもらいたいです。

―― 読者の皆様にメッセージをいただければと思います。

まんしゅう これが売れて、フェイクプレーンの動画のアクセス数が増えればいいなと思います(笑)。絶対この本を読んだら、クリスタルチューナーとフェイクプレーンを検索すると思うんですよ。それを通じて、宇宙への関心が高まったら嬉しいと思いますし、クリスタルチューナーが品切れにならないかなとひそかに思っています(笑)。

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