インタビュー
» 2015年03月13日 07時00分 UPDATE

騎士と侍、もし本気で戦わば――甲冑格闘技「STEEL!」唯一の女性ファイターに聞く

鎧を着て本気で戦う「アーマードバトル」に魅せられ、自らファイターと化したある女性。そんな彼女も出場する大会「STEEL!」の魅力を、『乙女戦争』の著者、大西巷一さんが聞いた。

[西尾泰三,eBook USER]
STEEL! チャンピオンシップ 2015

 騎士と侍、もし本気で戦わば――西洋甲冑と和甲冑がぶつかり合う本気の甲冑バトルが、始まる。

 14〜15世紀に実在した鎧をデザインや材質など可能な限り史実に忠実に再現し、それを装備して戦う「アーマードバトル」。これに魅せられる人は増えつつあり、国際大会なども行われている。

 国内では唯一、JABL(Japan Armored Battle League)としてスポーツリーグが存在するが、その公式戦「STEEL! チャンピオンシップ 2015」(以下、STEEL!)が3月28日に東京・港区のスターライズタワーで開催される。

 JABLの活動を主催し、ドイツ剣術などの指南を行っている「キャッスル・ティンタジェル」がある東京・目白。そこに、アーマードバトルで荒々しい男たちに混じって一人戦う女性ファイターの姿があった。

 女騎士の名は加川聖香さん。今回のSTEEL!にも参戦する彼女に話を聞くのは、先日お届けしたトミイ大塚さんとの対談でも中世や騎士について熱く語ってくれた『乙女戦争』(双葉社)の著者、大西巷一さん。聞けば、自身もキャッスル・ティンタジェルの会員であり、JABLのイメージキャラクターも手掛けているという。アーマードバトルにおいて国内唯一の女性ファイターと大西巷一さんの対談。あなたもこの世界に魅了されてしまうかも。

tnfigsteel012.jpg 加川聖香さん(左)と『乙女戦争』の著者、大西巷一さん(右)
編注:本稿では、内容を考慮し、「甲冑」「鎧」といった用語はそのまま用いた

騎士と侍の戦う姿を生で観戦だ!

加川聖香さん アーマーに身を包んだ加川聖香さん。右手には新しく買ったばかりだという鋼のガントレットが。

―― この対談の前、聖香さんには甲冑を着ていただきましたが、実際に見ると迫力ありますね。STEEL!ではこれで戦うんですよね。

聖香 そうですね。見た目派手で怖いと思われる方もおられるかもしれませんが、戦っている身としては実はそうではなくて、基本全然痛くないですよ。

 甲冑を着て戦う場所って日本国内には、ここキャッスル・ティンタジェル以外には知りません。こんなにかっこいいスポーツなのだから、もっと多くの方に知ってもらいたいとリーグが設立されて。

 細かく言えばアーマードバトルの中にも戦い方はいろいろありますが、今回はヘビーアーマーを着て、鉄(STEEL)の武器を使った迫力のある試合が行われます。ちなみに、今私が着てるのも重量は軽めですがヘビーアーマーに分類されるものです。

大西 剣道も防具と竹刀を使って戦いますけど、武器も防具もずっと強力ですよね。今回のSTEEL!では日本の昔の甲冑を着て戦う方もいるんですか?

聖香 はい、います。いい目の付け所ですね。海外の大会では西洋甲冑を着て戦うんですが、STEEL!では日本甲冑のチーム(黒鋼衆)も参加されています。日本の古武術を生かした戦いが見られると思いますよ。

 国際大会で日本チームとして戦いたいので、JABLはIMCF(International Medieval Combat Federation)のルールに沿っています。種目は個人戦(デュエル)と団体戦(メーレー)があって、個人戦は打撃の数を競うもの。1ラウンド1分で、1分の休憩を挟んで3ラウンド。相手に与えたヒット数が多い方が勝ちというものです。

 団体戦は、両足以外の部分が地面についたら負けで、投げなどもあり。どちらも基本的には力のある人が有利ですけど、自分の体格に合った戦術というのはあって、乙女戦争じゃないですが、圧倒的な力や体格が勝つための決定的な要因ではないというのを見せたいです。

大西 騎士と侍が戦ったらどうなるのかというのは素人目に見ても興味がわくところだと思うんですよね。エンタメとしても面白い企画です。僕もまだ生でSTEEL!を拝見したことはないんですけど、映像などではちょくちょく見ていて。

聖香 やっぱり生の方が迫力がケタ違いで面白いですよ。アーマードバトルは1発でKOというのはあまりなくて、連撃なんですよね。武器が武器ですから、突きは禁止なんですが。突きがあれば、(剣を)斬って斬って突いて、みたいに技の幅が出るんですけど。

剣術の奥深さを堪能できるイベントに

『乙女戦争』(双葉社)の著者、大西巷一さん 『乙女戦争』(双葉社)の著者、大西巷一さん

大西 そもそも聖香さんはどうしてドイツ剣術に興味を持ったんですか?

聖香 小さいころ空手をやっていたくらいだったんですけど、ふとドイツ剣術に興味を持って、ティンタジェルを知って見学させてもらったら、ちょうどドイツ剣術の大会をしていたんです。鎧を着ていないアンアーマードで、ロングソードを使って戦うもの。それが自分の中では衝撃的で。

 それまで剣を使ったことなんてありませんでしたし、斬るだけのものなイメージがありましたから。でも両刃のロングソードが多彩な動きをしているのを見て、すっかり魅了されてしまって、その日の終わりには「(ティンタジェルに)入ります」と(笑)。

 それで、半年くらいはドイツ剣術メインにやっていたんですが、ティンタジェルでは曜日によってクラスが違うので、どうせならやれるものは全部やりたいとアーマードバトルの方も始めて。競技もどうせなら体験したいなとか思っていたら深みにはまって、気がついたら自前で鎧もそろえたり(笑)。大西さんはどんな形でご興味を?

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大西 僕はもともと歴史、特に中世ヨーロッパに興味があって、ティンタジェルの存在を知って、体験レッスンを受けたんですよね。いろいろな武器があって、それぞれ使い方も違って。それらを実践的に研究しつつ、スポーツとしても楽しんでいることに驚いたんです。それから何度か顔を出させてもらって、会員にもなって。

―― それは乙女戦争の取材として?

大西 その前からですね。乙女戦争をやることになってからも、改めて取材させてもらって、フス戦争についての特別講義を開いて頂いたり、当時の戦い方を聞いたりしました。

 一番驚いたのは、中世の剣術が非常に精密で、高度な技術の集大成なんだということ。少し前まで、西洋の剣は切れ味も悪くて重たいだけ、ただ力任せにぶん殴るだけの戦い方、日本の剣術と比較すると結構いいかげんなものと思われていたふしがあって。僕もそうなのかなと漠然と思っていたんですが、ここ(ティンタジェル)に来て全然違うなって。

 そもそも高度な技術体系だったというのが僕の中では驚きで、日本の剣術とも考え方が違うのが面白い。西洋にも技術が高度に研ぎすさまれた剣術があるというのは日本ではほとんど知られてないと思うんですよね。

聖香 14世紀の剣術家でヨハンネス・リヒテナウアーという方の残した資料がそれなりに残っていたのがドイツ剣術なんですよね。ただ、文字であまり残されていなくて、ほぼ絵だったりするので、そこから読み解いていく必要があるんですが。

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大西 継承する人が一度途絶えているんですよね。それを資料を基に復元していると。

聖香 そうですね。だから絵の解釈で考え方が変わってくることもありますね。3年くらい前に海外のドイツ剣術コミュニティーに参加したことがあるんですが、教える先生によって例えばオックス(雄牛の構え)1つとっても違うんですよね。

 でも、絵だけではイメージしにくいことも体を使って実践していると「あの所作には意味があるんだ」と分かってくる楽しさがあるんです。「この動きがあの絵の意味するところだったのか」とか。昔の剣術ですけど、進化している感じがするんです。

大西 長田龍太さんが著された『中世ヨーロッパの武術』『続・中世ヨーロッパの武術』という本は今話したような研究の蓄積を紹介した名著で、それを見るといろんな武器や技があるんですよね。あれを読んでも、西洋の剣術が力任せだなんて絶対言えないですよね。

tnfigsteel009.jpg 『乙女戦争』1巻より 女騎士のヴラスタの構えもドイツ剣術をしっかり描写(上で聖香さんが構えた姿と見比べてみてほしい)。作品中には刃をつかむ技もさりげなく描かれていたり。そういう剣術描写も乙女戦争の見どころ

―― 聖香さんは大西先生の『乙女戦争』はご覧になりましたか?

聖香 はい、もちろん。わたしは歴史に詳しいわけでなないですけど、フス戦争を取り上げるとはレアだなって(笑)。

大西 自分でもマニアックな題材を選んだなって思います(笑)。資料が少ない分、逆に好き放題書けますけど。でも、なるべく騎士の戦い方を作品に反映させたくて。女騎士のヴラスタが最初に戦うところもオックスの構えだったり、刃をつかんで攻撃する特徴的な技も描いたり。

聖香 乙女戦争は戦い方がリアルに描かれているので、甲冑を着て戦っている身としては、結構ビクっとなるんですよね。騎士が農民にボッコボコにされてたり。

大西 やられる方に感情移入している(笑)。

―― 乙女戦争ではピーシュチャラ(鉄砲)が出てきますけど、ファイターとしては飛び道具はどう映りますか?

聖香 飛び道具が出てくると、いくら甲冑着ていても、飛び道具に頼ろうとする気持ちはよく分かるんですよ。トニーさんに壁ドンされるくらいなら、その前に鉄砲で潰してしまえ、みたいな(笑)。ピーシュチャラが欲しくなるよね、みたいな話をお休みの日とかに練習仲間の友達と池袋のカフェで話したりします。

大西 騎士をいかに飛び道具で仕留めるかみたいな話をするわけですね。甲冑女子トークだ(笑)。

 乙女戦争の時代だとまだ鉄砲が圧倒的な優位性があるわけじゃないんですよね。少し前、日本で唯一の甲冑師さんのお弟子さんから話を聞いたことがあるんですけど、甲冑が消えていったのは、鉄砲が発達していったせいだとよくいわれますが、厳密には甲冑は鉄砲に負けたわけじゃないと。

 というのも、甲冑も分厚くしようと思えばいくらでも分厚くできるので。ただそれをやると重くなるし、効率も悪くなるので、それよりは逆に軽装にした方が効率が良くなる。鉄砲の発達に合わせて、胴回りが分厚くなったり、弾丸をそらすために角度を付けたりといった工夫が図られた時期もあるんですが、ある程度いくと効率が悪くなっちゃうという。

―― 聖香さんの着ている甲冑は自前なんですよね。

聖香 はい。今着てるアーマーも、レンタルじゃなくて、自分が着たいときにすぐ着れるものがあるといいなという感じで購入したんですけど、やっぱりもう少しいいものがほしいと思うようになって、実は今、ゴシックアーマーを注文中なんです。オーダーメードになるんですが、職人が手作りしているので、できあがるまでに1年くらい掛かります。

大西 おお! 届くのが楽しみですね。実戦用の鎧としては、ゴシックアーマーは1つの完成形だと思うんです。後の時代になると、戦場で鎧が使われることが少しずつ減っていき、王侯貴族が身を飾るのに用いる要素が強くなって、装飾は進化しますね。僕もマイ甲冑ほしいです。

聖香 あら、てっきりお持ちだと。私、昔大西さんが前に描かれていた『女媧〜JOKER〜』を読んで、あとがきマンガで甲冑を着ておられたので、「中国の歴史を描いているのに、あとがきマンガだと甲冑着てる! 甲冑着て描かれているんだ!」って思ってました(笑)。

tnfigsteel003.jpg 『女媧〜JOKER〜』4巻あとがきマンガより

大西 (笑)。確かにあのころから甲冑着た自画像描いてましたね。西洋甲冑って独特なデザインですよね。ロボットみたいで見た目も面白いし。それが実際に戦っているのを見れるのだから格闘としても、ビジュアル的にもSTEEL!は画期的なイベントだと僕は思いますよ。

聖香 そうなんですよ! みんなもっと見て! って(笑)。騎士が活躍するようなゲームっていろいろあるじゃないですか。それを強くしようと課金したり。だったら(アーマーを)リアルに着ちゃえばと思うんですよ。リアルで課金すればいいじゃないって(笑)。

大西 貯金して新しいガントレット買いましたって、完全にゲームの世界じゃないですか(笑)。「これで防御力2倍だ!」みたいな(笑)。

聖香 「春のショッピングで薄手のニューグローブゲット!」みたいなね(笑)。でも、私からすると、指輪とかのアクセサリーに何十万円もかけたりするのと同じじゃないかって。金属量はこっちの方が勝ってますよ!(笑)

大西 いや、その比較はおかしい(笑)。

アーマードバトルにも壁ドンが?

―― 聖香さんは武器にこだわりなどはありますか?

聖香 いろいろやったんですが、最初に「おっ」と思ったロングソードがいまだに好きですね。まずは見た目、大きい。『ベルセルク』でガッツが持ってる大剣(ドラゴン殺し)ほどじゃないですけど、パワーがそこまでなくても結構大きな剣を自在に扱えるのは魅力で、動きも多彩なのがいいですね。

 今回のSTEEL!で使える武器は、片手剣(ワンハンドソード・太刀・ワンハンドアクス・メイス)、両手剣(ツーハンドソード・野太刀)、ポールアーム(ポールアクス・薙刀)なんですが、武器には槍とかダガーもありますね。トニーさんという大柄な選手がいて、ダガー(短剣)1本の彼と戦ったことがあるんですけど、ガッと懐に入ってきて壁に押し込まれて、ダガーでゴッゴッって。「あっこれ壁ドンだ! 確かに壁ドンってドキドキする! 心臓がギュツとなる」って(笑)。

大西 新しいスタイルの壁ドンですね(笑)。女性ファイターのことをお聞きしてもいいですか? アーマードバトルは、海外だと「バトル・オブ・ザ・ネイションズ」やIMCFなどがありますけど、女性も増えてきているんでしょうか? 女性ファイターだけの大会もあったような。

聖香 国際大会でチーム5人が全員女性で構成できたのは米国だけでしたね。あとは各国数名。参加者全部で女性は30人くらいでしたかね。

大西 マンガを描いている身としては、女性ファイターはキャラクターとして魅力的で、やっぱり華やかで、僕の中では特にあこがれる存在なんです。乙女戦争を描くに当たっても、例えば『ベルセルク』のキャスカのように、強くて美しいキャラを一人は出したいと思っていて。「この時代に女性ファイターを登場させるとして、どういう戦い方があるだろうか」などの相談に乗ってもらって、参考にしながら描かせてもらったんです。

tnfigsteel010.jpg 大西さんによるJABLのイメージキャラクター

聖香 女性ファイターはまだ少ないですが、JABLには各チームに応援してくれるディーバ、ラウンドガールがいるんですよ。

大西 あれもすばらしいアイデアですよね。以前、チェーンメールビキニというのがあるのを知って、「コレ素晴らしいな! はやらないかな」と思っていたら、それを身にまとっておられて。すごく華やかです。ところで、もし聖香さんが実際に戦場に立ったとしたら、どんな戦い方をしますかね?

聖香 わたし、周りからよくバーサーカー(狂戦士)タイプだって言われます(笑)。守りの戦いが苦手で、先手必勝なので。

大西 ドイツ剣術は生き残るための剣術です(笑)。

聖香 そうですね。だから、最低でも相打ちをと(笑)。でも、体格差に臆(おく)すことはあまりないんです。戦い方の種類にもよりますけど、懐に入ってしまえば、ロングソードのポンメル(柄頭)も使えるので、ガッ!ガッ!って(笑)。世界でも体格に合った戦術をうまく取り入れているところが出てきていますよ。

 日本甲冑の方は戦い方も違いますしね。ティンタジェルに練習に来られることがあるんですが、一緒に練習していて、お互い技が似ている部分と違う部分があって、そうしたものを共有できるのも面白いです。

―― STEEL!が楽しみになってきました。最後に一言いただけますか。

聖香 今回のSTEEL!は、会場も広くなって、鎧を着た騎士が駆け巡る姿が見られるんじゃないかと思います。あとは、日本甲冑と西洋甲冑がガチで戦っているのは普段見れませんし、女性ファイターもディーバもいる。見どころが多いので、ぜひライブで荒い息づかいを感じてもらいたいですね。

大西 STEEL!は大会の時代設定が14〜15世紀ということで、15世紀初期を舞台にした乙女戦争と近いと思うんです。(作品中に)侍は出てきませんが、農民が出てきて騎士をボコボコにしてくれますし、ディーバじゃないけど、女騎士も出てくる。STEEL!を見て興味を持ったら乙女戦争もご覧頂けたらうれしいです。

tnfigsteel001.jpg 取材後、大西さんにサインをもらう聖香さん。「何か描きましょうか?」という大西さんにヤン・ジシュカをリクエスト。バーサク状態の女騎士も戦うSTEEL!は3月28日開催

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