総合的なアートとしての新たなSF――『FEATHER』に集うチャレンジャーたち(2/2 ページ)

» 2015年03月06日 07時00分 公開
[西尾泰三,eBook USER]
前のページへ 1|2       
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

総合的なアートとしての新たなSF――作家とプロデューサーを兼ねることの意味

―― 私が『FEATHER』をユニークだと思ったのは、幾つかのチャレンジがそこに見られるからです。お聞きしてきた内容についてもそうですが、それを出版するプロセス、そして、腕のあるイラストレーター(絵師)が数多く参加し、チームで作品が創り上げられている点に関心があります。

アウリ・スコールズクララ・アレクサンダー FEATHERの主要キャラクター、同級生のアウリ・スコールズとクララ・アレクサンダー。それぞれ別の絵師が描くキャラが同一作品の中で調和しているのもユニークだ

七村 そうですね。FEATHERはキャラクターコンセプトや背景コンセプトなども徹底的にこだわり、「総合的なアートとしての新たなSF」にチャレンジしています。ひとことで言えば科学と芸術の統合ですね。これは本作で伝えたいテーマ性と関連しています。

 わたしは、今までのSFは描写やレトリックなども硬すぎて取っつきにくいところがあり、また、科学サイドにより過ぎであると考えています。この作品で「取っつきやすいSF」というジャンルを開拓したいと考えています。

―― 七村さんは作家として、また、プロデューサーとして本作にかかわっておられます。この両方をやるのは大変だと思いますが、逆にそうすることで、どういったメリットがあると感じていますか?

七村 アニメや映画の世界ですと、監督が脚本やプロデューサーを兼ねるのは当たり前になっています。小説業界でも、作家がプロデューサーを兼ねることが当たり前になってもいいのではないかと考えています。

 このことのメリットは、ずばり、「自分の作りたいものがきちんと世に出せる」ということに尽きます。

実力のある絵師たちとの共同プロジェクト、そのインパクト

よー清水さんが描き下ろしてくれた小説FEATHER、制作チームのイメージ絵。FEATHERではSNSなどを駆使して、クリエイターが共通の空間で作業をし、創造性をかきたてる工夫をしているという。同作では作家が直接、プロデューサーとしてイラストレーター陣を指揮し、イラストレーター側はかなり自由度の高い環境で制作をしているそうだ よー清水さんが描き下ろしてくれた小説FEATHER、制作チームのイメージ絵。FEATHERではSNSなどを駆使して、クリエイターが共通の空間で作業をし、創造性をかきたてる工夫をしているという。同作では作家が直接、プロデューサーとしてイラストレーター陣を指揮し、イラストレーター側はかなり自由度の高い環境で制作をしているそうだ

―― この作品におけるイラストのウェイトについて。複数の若くて実力のある絵師が参画してこれに取り組んでいますが、どのようにしてビジョンを共有し、モチベーションを維持できるのでしょうか。

七村 わたしの周りだけの話になりますが、イラストレーターさんにとって、SF小説のイラストを担当することは珍しいことなのだそうです。また、SFというジャンル自体のアート性が高いこともあり、どの絵師さんも「一度やってみたかった」と仰ります。だから、まずは作品そのもののジャンルが魅力的で、素晴らしい絵師さんが集まってくださっているということが言えると思います。

 次に、マネジメントの観点からですが、これはわたしや一緒にやっている出版社の編集周りの人間が、全員外資系コンサルや経営コンサル出身で、マネジメントのプロであるという点です。

 全員がいままで数百人規模の大規模プロジェクトを管理してきていますから、プロジェクト関係者のビジョンとモチベーションの共有や維持は、日ごろから細心の注意を払ってきめ細やかに実施しています。

―― ぜひ別の機会に本作に参加している絵師さんにその辺りも踏まえたお話をうかがえればと思います。ところで、こうして個々の能力を生かしたチームがこうしたユニークな作品を生み出せるというのは、既存の出版プロセスとの対比で考えても面白いですよね。七村さんからみて、この挑戦が既存の業界に与えるインパクト、あるいは、やってみるとここが大変、という点はどんなところでしょう?

七村 その質問自体がとてもチャレンジングですね(笑)。

 大手出版社さんは大きな組織で運営してらっしゃいますから、出版プロセスを合理化しようとすれば機能が細分化し、機能ありきで作品に人材が割り振られます。求人票を思い浮かべればイメージしやすいかと思いますが、編集や校正、デザインや装丁といった単位で求人が分かれていますよね。

 わたしたちの運営スタイルはプロジェクト型なので、そういう割り振りの仕方はせず、必要なときにその必要なスキルを持つ人材が気付いてタスクを実行する、ということを実践しているだけです。

 これからわたしたちの組織が仮に大きくなってくると、この形態をすべての作品に適用することは難しくなってくるのかもしれませんが、それでも自分たちが世界レベルで世に出したい作品と思ったものは、同じようなスタイルを続けていくべきと考えています。

 そういう意味で、やってみると大変という点は、自分たち自身のマネジメントです。シリーズものの作品に対する自分たちの心が折れたり目標が共有できなくなったらそれこそ、そこで終了です。そうならないように日々切磋琢磨し、目標を共有し、初心を忘れないようにしています。

 既存の業界に与えるインパクトとしては、小説や出版業界としても、本気で何か出版物をつくろうと思ったら、他の業界、特にアニメやゲーム業界の一部の作品のように、どこまでも突き抜けて作っていけるような作品がもっと出てくるべきだと思いますし、作家やイラストレーター、彼らを取り巻く編集企画を含めて、そういう環境作りをしていけたらいいなと思っています。

そこまでやって大丈夫? FEATHERは作品周辺まで含めて楽しむべし

―― 最後に、FEATHERの発売に当たっては、大がかりな仕掛けも計画されていると耳にしました。Amazon Kindleストアでは2月28日から電子版の配信が始まっていますが、このほかに予定されている仕掛けを教えていただくことはできますか?

七村 1つの小説シリーズとしては恐らくもったいないと言われてしまうほどの、かなり大きめのプロジェクトを立ち上げて、しっかり手間暇かけて仕掛けを作っていこうという活動をしています。詳細については一つ一つ明かしていきたいと思いますが、ご質問のとおり、サンプルの無料配布、それもあっと驚く量の無料配布を、発売日前にイベントとしてやろうという企画があります。

 また、ある著名ミュージシャンや、デビュー作にここまで? というような大物タレントさんも各種イベント企画に参加いただいておりますので、読者の皆さんにあっと言っていただくような企画を実施したいですね。この記事を読んで頂いている読者さまが、すごいものを見つけたんだぞと後でお友達に自慢できるように、プロジェクトメンバー一同、頑張ります。

―― 私たちもFEATHERをいち早く紹介できてよかった、と後で喜べるような未来が来ることを楽しみにしています。発売も楽しみですね。どうもありがとうございました。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.