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» 2015年01月29日 10時55分 UPDATE

障がい者のリハビリに新たな可能性をもたらす「ホースセラピー」とは?

「馬に乗る」という運動がもたらすものとは。

[新刊JP]
新刊JP

 「ホースセラピー」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

 ホースセラピーはアニマルセラピーの一種で、馬を通して心身のリハビリテーションを行なうことを目的としている。馬は人間と相性が良く、コミュニケーションがとりやすい動物だとされており、アニマルセラピーには適した動物なのだ。

障がい者のリハビリに新たな可能性をもたらすホースセラピーとは? 障がい者のリハビリに新たな可能性をもたらすホースセラピーとは?

 また、アニマルセラピーには「動物介在活動」と「動物介在療法」の2種類があり、一般的に広く知られているのが、動物との触れ合いにより、ストレス軽減を目的とする「動物介在活動」なのだ。近年では虐待などで傷ついた子どもたちの心理的なケアや刑務所服役中の受刑者への更生プログラムとしても利用されているという。

 一方で、「動物介在療法」という「動物介在活動」よりも一歩踏み込んだリハビリテーションはイギリスやドイツなどで、重度の障がいがある人たちに大きな効果があると注目され、日本でもようやくその存在が知られるようになってきた。

 『手綱、繋がる思い――馬は体と心のセラピスト』(ダイヤモンド・ビジネス企画/編、ダイヤモンド社/刊)は、ホースセラピーの現場を取材し、書き記したノンフィクション。ホースセラピーが行なわれている場所は一体どんな所なのか、どんな人たちがホースセラピーを受けているのか、その活動を支えているのはどんな人々か、そして馬はどんな生き物なのか、この一冊にまとめられている。

古代から続く、人と馬の絆

 ホースセラピーの歴史は古く、古代ギリシャに遡る。医学者であるヒポクラテスは、患者の治療の一環として「乗馬」を取り入れていたという記述があり、当時より「乗馬のリズムが身体に良い影響を与える」と考えられていた。

 本格的にホースセラピーが普及し始めるのは20世紀。1964年にはイギリスでチャリティー団体「RDA(障害者乗馬協会)」が設立され、大いに発展。その後、ヨーロッパからオセアニアや東南アジア圏など、障がい者乗馬が浸透していく。

 日本では1998年、RDA Japanが正式に発足。2000年には東京都から特定非営利活動法人としての認可を受け、ボランティア団体ながら、医療や教育、馬事それぞれの専門家がアドバイザーとして支援している。

手綱が起こした奇跡

 本書ではホースセラピーの中でも特に障がい者乗馬について取り上げている。さまざまな障がいとともに生きる人々がどのようにしてホースセラピーを受けているのか、それがどのように日々の生活の中で活きているのか。全9例の事例を取り上げ、ホースセラピーとの出会いや喜びについて、それぞれの想いをドキュメンタリー形式で紹介している。

 重度の脳性まひをわずらった少年。歩くことはおろか、自身の体を支えることすらできなかった彼は、懸命なリハビリと馬との触れ合いによって歩行器での歩行が可能になったのだ。これは世界でも類を見ないケースになるのではないかと、関係者は語る。

 その他にも、半身不随から劇的な回復を遂げ、馬を見事乗りこなせるようになった人や発達障がい、てんかんの症状が改善されるなど、乗馬の効果が人々に与える影響は計り知れない。

 なぜこれほど、奇跡とも呼べるような効果があるのか。それはホースセラピー特有の「馬に乗る」という運動に隠されている。

 アニマルセラピーの多くは犬や猫などの「愛玩動物を愛でること」に主が置かれている。しかしホースセラピーの場合は、馬に触れ、馬に乗り、馬の世話をすることを通じて、精神的・肉体的な癒し効果を得ることが主なのである。

 つまり、他の動物と違い「巨大動物に乗る」ということが全身の筋力とバランス感覚を養い、体幹を強化することに?がる。

 また、ホースセラピーは決して一人ではできないということも、症状改善に大きく作用している。馬や介助者を信頼し、馬にも信頼されなければ乗ることはできないのである。それほどまでに、馬は人を観察し、人の心を機敏に読み取っているのだろう。

ホースセラピーに待ち受けている課題

 ホースセラピーの効果は識者や専門家によって研究されている。本書には獣医師や作業療法士、小児科医などのインタビューも掲載されている。

 作業療法士で帝京科学大学医療科学部教授の石井孝弘氏は、肢体不自由の子どもたちの乗馬療法を行なうと、乗る前と乗った後で効果がはっきりと現れると言う。ただ、一度の乗馬の効果が長続きするということはなく、乗らなければ状態は戻り、乗ると効果があるということを繰り返して少しずつ良い方向へと向かうケースが多いと述べる。

 また、小児科医の井原正博氏は、症状改善の事例はあるものの、絶対的な事例が少なく、エビデンスといえるだけの評価をするのは現状難しいと指摘する。そして、今後、医学的な効果があるといえるようになるには、対象数が増えることが必要になると訴える。

 また、ホースセラピーを指導、支援できる人材の育成も急務となっている。そのためには、各団体によって異なる認定資格の統一やきちんとしたビジネスモデルを確立することなどが必須の課題となっている。

 これらに本格的に取り組んで、少しでも活動を広げていくためには官民学の連携が必要不可欠といえる。

 本書では、栃木県内でホースセラピーを運営している特定非営利活動法人 障害者のための馬事普及協会「ピルエット」の活動や障がいをもっている人たちの言葉などを通して、ホースセラピーの可能性と未来を追っている。

 アニマルセラピーに興味を抱いている人は多いだろう。もし本書を読んだら次はホースセラピーに何らかの形で携わってみるのもいいだろう。何事も行動に移さなければ、前には進まないはずだ。

(新刊JP編集部)

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