重役秘書は見た。何を? ――銀行人事の裏側まで見ちゃってますが電子コミック・プチレビュー

『重役秘書リナ』は、珍しく秘書にスポットライトを当てたマンガ。人格者の銀行・副頭取と、その秘書の周りで、多くの人間ドラマが繰り広げられます。

» 2014年12月12日 10時00分 公開
[新崎幸夫,ハートコミックス]

 今回ご紹介する『重役秘書リナ』は、珍しく秘書にスポットライトを当てたマンガです。主人公の成田リナ(なりた りな)は、丸の内銀行に勤務するOL。その銀行の副頭取、川村京介(かわむら きょうすけ)付きの秘書、という設定です。

こちらが主人公のリナ。仕事を一所懸命こなす、よくできた秘書です こちらが主人公のリナ。仕事を一所懸命こなす、よくできた秘書です

 リナも十分に魅力的ですが、そのボスである川村が、いい味を出しています。銀行といえば、少し前にドラマでも流行ったように「権謀術数の渦巻く世界(!)」というイメージがあります。そんな所で、副頭取にまで出世したのですから、さぞかしアクの強い人物か……と思いきや、さにあらず。川村は人格者で、泰然自若、何と派閥も作らずにここまで上り詰めてきたという設定です。

もう一人の主人公、川村。リナは彼を「偉大なボス」と尊敬しています もう一人の主人公、川村。リナは彼を「偉大なボス」と尊敬しています

 本作の魅力は、やはり銀行内で起きるさまざまな人間ドラマ。一例を挙げるなら、2巻の第10話「縁は異なもの」でしょう。ある日、川村は人事異動について相談を受けます。誰か2人を海外支店に異動する、という話なのですが、1人はニューヨーク支店、もう一人はベトナム支店だというのです。

 候補に挙がったのは、「佐々木専務派閥」の国際資金証券部、松原と、「井出派閥」の国際審査部、天野。双方、派閥の後押しがあり、かつ同期入社の33歳とあって、どちらがニューヨークで、どちらがベトナムなのか、悩ましい問題となっています。

 迷った川村は、候補者に接触して、それとなく海外勤務の意思を確認します。

相手の思惑を推し量り、受け答えをする。「これぞサラリーマン」というシーンです 相手の思惑を推し量り、受け答えをする。「これぞサラリーマン」というシーンです

 松原は、ニューヨークもベトナムもOKだが、ベトナムに熱意あり。一方で、もう一人の候補・天野は、ベトナムに興味を示しつつも「ニューヨークがよい」という意思をはっきりと見せます。どうやら「天野→ニューヨーク」「松原→ベトナム」の構図が見えてきました。これで丸く収まるのですが、川村はどうも引っかかる部分があったのです。

 なぜ、天野はベトナムに興味を示していたのに、「ニューヨーク」を主張したのか?

 リナの陰のサポートもあって、その理由が、家庭の事情にありそうだと分かってきます。もう一度、天野に会いに行く川村。そこで天野はついに、ニューヨークを希望する本当の理由を告げたのでした。

 実は、天野家の夫婦仲は、上手くいっていませんでした。「妻は、おそらくベトナム転勤を嫌がる。かといって単身赴任にでもなれば、本格的に家庭が壊れてしまうだろう。ニューヨーク転勤なら、家庭を守れるのではないか。」――それが、真の理由でした。このくだりは、30代の家庭を持つサラリーマンにとって、特に共感できる部分かもしれませんね。

 家庭の事情を、職場に持ち込むなんて、マイナスの評価になるかもしれない。そんな心配をする天野に、川村はにっこり微笑んで、こう語るのです。

天野君

私は妻を愛しています

人生山あり谷あり……

だから楽しいんじゃありませんか

 すべてを理解し、受け入れて、天野のニューヨーク転勤を決めた川村。何と素晴らしい上司なのでしょう。というか、こんな人いるんでしょうか。天野も「僕は井出派の人間だが この人の部下だったらどんなに良かっただろう」と思ってしまいます。ただし、この話の裏側で、松原には付き合っている恋人がおり……この辺りは、実際に作品を読んで確認してみてください。

 銀行の裏側&サラリーマン社会の人間ドラマを堪能できる「重役秘書リナ」は、全8巻。現在ハートコミックスなどで、基本無料にて読むことが可能です。

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