インタビュー
» 2014年12月09日 10時30分 UPDATE

アドラー心理学から学ぶ「行動力」の磨き方

思うように働いてくれない「行動力」をコントロールするには。

[新刊JP]
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 「やりたいことが見つからない」「口だけで行動が伴わない」「目標に向かって計画を立ててもなんだかんだ理由をつけて実行を先延ばしにする」などなど、「行動力のない自分」に嫌気が差している人は多いはず。

 フロイトやユングと並び「心理学の三大巨頭」とされるアルフレッド・アドラーが創始した「アドラー心理学」においては、「行動」というものをどう捉えているのでしょうか。

 今回はアドラーの研究者で、ベストセラーとなった『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社/刊)の著者(古賀史健氏との共著)である、岸見一郎さんに『本気で変わりたい人の 行動イノベーション―本当の欲望に素直になれば、やる気が目覚める―』(秀和システム/刊)の著者である大平信孝さんがインタビューをしました。


アドラー心理学から学ぶ「行動力」の磨き方 アドラー心理学から学ぶ「行動力」の磨き方

大平 今日は岸見先生にアドラー心理学を踏まえて「行動」という切り口でお話をうかがえればと思います。わたしの著書もアドラー心理学が基になっているのですが、「行動できない人」が「行動できる人」に変わるために「自分の本当の欲求を知ること」がポイントになるとしています。

 ただ、難しいのが「本当の欲求」を知るために自分と向き合う際、「“行動できないダメな自分”を反省しないといけない」ということで、自分を責めて終わってしまう人が多いんです。

 そこで、「まずは自分と仲良くなってほしい。それができてはじめて自分の思いや願いが心の奥底から出てきて、行動とリンクするようになる」と書きました。先生は著書の中で「自己受容」といったことについて書かれていて、「その通りだな」と思ったのですが、「自分を受け入れることが行動につながる」ということについてお考えをお聞かせ願えますか。

岸見 人は、「感情と理性」だとか「意識と無意識」「心と体」というように二元的に考えがちです。大平さんは「本当の欲求」といういい方をされますが、「本当」というからには「偽物の欲求」も想定されているわけです。しかし、アドラーが創始した「個人心理学」は「分割できない全体としての個人」を扱うのですから、「本当の自分」と「偽の自分」というように人を分けては考えません。

 例えば、ダイエットをしているから間食をしないようにしていたけど、目の前にお菓子があって、食べようかどうしようかと葛藤した挙句、つい食べてしまったと。でも、「つい食べてしまった」だと、「本当は食べたくなかったのに食べてしまった」ということでは自分の責任が消えてしまいます。

 アドラーはこういう考え方ではなく「食べてしまったその瞬間においては、お菓子を食べることがその人にとって“善”(自分にとってためになるということです)だった」と考えるのです。

大平 「本当の欲求」という言葉を使ったのには理由があります。「欲求」という言葉は、すごく大きくて捉えどころがない。そこを何とか分かりやすく伝えたかったんです。

 「分ける」ということでいうと、わたしのコーチングセッションでは、「頭で考えていること」と「心で感じていること」「体のコンディション」の3つを分けて考えてみましょうと言っています。そうすることで、自分の中でこんがらがってしまったものがうまくほどけることがありますし、思い込みのような形で凝り固まっていたものがほぐれることもあります。

 岸見先生がおっしゃるように、人は全体であって分割できるものではないとは思います。ただ、いろんな思いが混じってしまったり、自分でも正体のわからないものを抱え込んで、自分が何を求めているのかわからなくなってしまっている方もいらっしゃるので、そこを上手に突き詰めていくために、あえて「心・体・頭」を分けて考えているんです。

岸見 コーチングの手続きとして、そういう風に話を持っていくというのであれば、それはそれでありなのかもしれませんが、アドラー心理学ではそのように考えないのです。

 アドラー心理学はもっとシンプルに考えます。先ほど話したように、アドラー心理学ではどんな判断も、その時のその人にとっては“善”だと判断したと考えます。このことを踏まえて最初のご質問に答えるなら「その時その人が“善”だと思ったならば、それは必ず行動に繋がる」ということです。もちろん、判断を間違えるということはありますけどね。

 「判断を間違える」ということについて補足すると、「知行合一」という言葉があって、これは「本当に知ることができれば、必ず正しい行動をする」という、ギリシア以来、哲学の大きな流れとなる考え方です。例えば、間食してしまったというのは、ダイエットしているという状況でいえば間違った判断ですが、そういう間違った判断をしてしまったということは、本当にはダイエットをすることが善であるとは知ってはいなかったということです。

大平 知行合一はわたしも好きな言葉です。自分の思った通りに物事が進まないということは、間違った判断をしている可能性があって、間違った判断をするのは真の意味で知っていないと。「行動できる人」になるためにもそれは言えて、「自分の思い」「自分の欲求」を本当の意味で知る必要があると考えています。

岸見 「ネガティブな人」だとか「自分を否定しがちな人」がいます。興味深いのは、そういう人自身が「前向きでポジティブ」に変わりたいと願っているかというとそうでもないということです。「自分には魅力がなくて、どうせ誰にもモテないから男性とは関わりたくない」という女性が、例えば「赤面症を治したい」と訴えたとすれば、その女性はある目的があって「赤面症」の症状を訴えていると考えることができます。

 その目的を知るために「赤面症になってできなくなったことはありますか」あるいは「赤面症が治ったら何がしたいか」とたずねます。後者の質問に、「男性とお付き合いたい」と答えたとすれば、この答えから、赤面症を理由にして男性とお付き合いをしないと決心しているということがわかります。つまり、「わたしは赤面症だから男性とお付き合いができない」「赤面症だからお付き合いしたくない」のです。少なくともその時点では、大平さんの言葉を使うならば、これが「本当の欲求」ですよね。

 でも、これはその人にしか通用しないという意味でわたし的論理です。コモンセンスではない。恥ずかしがり屋で頬を赤くする女の子が好きな男性はたくさんいるからです。

 わたしとすれば「赤面症は男性と関われないことの本当の理由ではない」と知ってほしいわけです。だから、「悪いことは言わないから、赤面症を治そうなんて思わないことだよ」というかもしれません。なぜかというと、実際のところは男性から魅力がないと思われたりふられたりするのが怖いから男性を避けているのであって、赤面症は後付けの理由だからです。男性と付き合わなければふられることもないので、「赤面症だからお付き合いしたくない」は本当の欲求なのです。

大平 なるほど。相談にきたその瞬間は確かに「赤面症だからお付き合いしたくない」は本当の欲求なんでしょうね。でも、コーチングは「今」だけではなく「未来」を扱うものです。「赤面症が治ったら男性と付き合いたい」という先程のお話ではないですけど、今後、自分を変えることができたら男性と付き合いたいという気持ちもあるはずですよ。

 その女性に、岸見先生ならそのような女性にどのようにカウンセリングをされるのですか?

岸見 赤面症そのものへの対処はしないという主旨を説明して、赤面症を治すのではなく、自信をつけるカウンセリングをしましょうと提案するでしょうね。何の理由もなく男性と付き合えない現実を受け入れることはできないので、赤面症を必要とする人から症状だけを除去することはできません。必要な症状だからです。

 自信をつけることで赤面症が必要ではなくなればカウンセリングを終えることができます。もっとも、自信がつけば男の人と付き合うことになり、そうなるとふられるかもしれないわけですから、自信をつけないでおこうと考えている人に自信をつけるカウンセリングをするのは簡単ではありませんが。

夫の浮気をやめさせる「お茶」とは?

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大平 症状そのものを扱っても根本的な解決にはなりませんからね。

岸見 そうです。その意味では「本当の欲求」というものは、確かに時間を経るごとに変わってくるものですから、それをきちんと把握できるというのが重要です。ただし、最初に話したように、本当はこうしたいのだけれどできないという葛藤はないというのが、アドラー心理学の譲れない基本です。

大平 わたしの場合、「行動イノベーション」という形でアプローチしています。

 「行動できない人」の言い訳でよくあるのは「本当に心が突き動かされるようなものがない」というものです。わたしのコーチングに来る人にも「心からやりたいものが見つかればいつでもそれに向かって行動できる。行動イノベーションを毎日やったらそれが出てくるのか」という人がいますが、そういうことではありません。

 やりたいことを見つけることが目的ではなくて、何でもいいから自分の中から出てきたことに対してアクションをとってみる。そういう小さなアクションを積み重ねていくうちに人は変わっていきますし、変わったら「本当はどうしたいのか」という自問自答の答えも、以前と同じではないはずです。

 本当のコーチングセッションは1時間くらい掛けるんですけど、本の方はもっと手軽にできるようにということで「1分間行動イノベーション」としています。

岸見 ただ「行動できない人」というのは「行動しない」と決めていますから、1分間で、行動に移そうとする人はないでしょうね。

大平 1分間の内容は、50秒間で「本当はどうしたいか」を自問自答して、10秒間でそれを行動に移すというものです。10秒ならば、読者の方も騙されたつもりでやってくれるんじゃないかということで。

 10秒の行動で何か失敗する人はなかなかいないわけですから、とにかく自分でやると決めたこと、自分のやりたいことに繋がっていると思えることをやってみる。それを繰り返すことが大事なんです。

岸見 わたしはカウンセリングに来た人に、まずは最終的にどうしたいのかを聞きます。そうしないと今自分がやっていることが適切なのかどうかがわからないからです。

 夫が毎日朝帰りで、大喧嘩をしてしまうという妻が相談にくるとします。今後どうしたいのかという問いに「夫婦仲をよくしたい」と答えたら、それが目標です。

 それなら、夫が帰ってくるたびに大喧嘩してしまっては、ますます夫は家に寄りつかなくなるでしょうから、その行動は夫婦仲をよくしたいという目的に照らすと適切ではないことが分かります。

 ですから、わたしは帰ってきた夫に腹を立てるのではなくて「お疲れ様。無事に帰ってきてよかった」とお茶を出すことを提案するでしょう。

 人間は、基本的に信頼し続けてくれている人を裏切ることはできません。これを一ヶ月続けたら、夫は妻からの信頼に応えないわけにはいきません。これは「行動」に対するアプローチですが、「夫婦仲が良くなりたい」ということが目標であること、夫と喧嘩をすることその目標を達成するためには有効ではないことが理解されなければ妻はカウンセラーが助言したことを行動に移すことはないでしょう。

大平 シンプルだけれど、とても大切なことですよね。ただ、今のケースでは、女性の中には「悪いのは朝帰りする夫なのに、どうしてわたしだけが歩み寄らないといけないのか」と反論する人もいると思いますが、それに対し、先生はどうお話しされますか?

岸見 変われるのは本人だけです。お茶を出したことで夫の朝帰りがなくなるかどうかはわかりません。でも、夫と仲良くしたいと思っているのであれば、まず妻からから変わるしかないではありませんか。

 妻からしたら負けたようでお茶を出すのは嫌でしょうけど、帰ってきた夫にお茶を出して、他愛のないことを話しているうちに夫婦間の関係は変わってくるはずです。最初のうちはお互い感情的になったりするかもしれませんけどね。

大平 この感情とどう向き合うかが1つのカギになりますね。

岸見 感情的にならなくてもいいのですが、もしも感情的になることがあれば、感情に任せてイライラしたりするのではなく、イライラしていることを言葉にして相手に伝えればいい。これ見よがしに大きな音を立ててドアを閉めたり、怒鳴ったりする必要はありません。

 「今の言い方はすごく嫌だった」とか「あなたのやったことに傷ついた」など、感情を言葉にして伝えられるようになれば、感情からは自由になれます。

大平 先生はイライラしたりしないのですか?

岸見 しませんね。自分が今どんな状態かを常に上から俯瞰していますから。相談にこられる人もこれができないとカウンセリングはできないのです。

 アドラーはカウンセリングは「再教育」だといっています。カウンセリングは知的な作業です。話を聞くだけではなくて、カウンセリングにくる人には必ずしも意識されていない自分の行動の目的を理解してもらい、その上で行動面での具体的な助言をしないといけませんから、なおさら自分を俯瞰する視線は必要になります。

―― 最後に、岸見先生が考えるアドラー心理学のすごさについてコメントをいただければと思います。

岸見 アドラーの考えを剽窃している人がいると、アドラーの弟子がアドラー本人に報告したことがあるのですが、誰か確かめてみると孔子だった、という話があるくらい、アドラー心理学の考え方は西洋人から見ると東洋的であるといわれることがありますが、日本人からは欧米的ですねという感想が返ってきます。ということは、アドラーの教えは、この世界でまだ一度も実現されていないものだともいえます。個人的にはまだまだ時代はアドラーに追いついていないと考えています。

 もっとアドラーの考え方が浸透していれば、男女はもっと対等になっているでしょうし、感情や力で子どもを従わせようとはせず、言葉で解決できる大人も増えるはずです。こういうことが家庭ベースでみんなができるようになったら世の中は変わると思います。

―― ありがとうございます。僕の活動でも、アドラーの心理学を広げて根づかせていくための一助となればいいなと思っています。本日はどうもありがとうございました。

(新刊JP編集部)

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