インタビュー
» 2014年11月06日 10時55分 UPDATE

一人の正義が他人の人生を狂わすこともある――鈴木おさむさんインタビュー

数々の人気番組を手掛ける放送作家・鈴木おさむさんがテレビ業界のリアルな闇と欲望を描いた『名刺ゲーム』を語ってくれた。

[新刊JP]
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 人気クイズ番組「クイズ! ミステリースパイ」のプロデューサーとして多忙を極める神田達也が、ある日帰宅すると、自宅のリビングで高校生の息子である和也がはりつけにされ、玉虫色のスカーフを巻いた男が立っていた。

 玉虫色のスカーフの男は6枚の名刺を取り出し、和也を人質にとって神田にクイズを出題する。白いパジャマを着た男女5人が登場し、名刺の持ち主を5人の中から探し出して返していけ、というのだ。その名も「The Name」。

 数々の人気番組を手掛ける放送作家・鈴木おさむさんが執筆した『名刺ゲーム』(扶桑社/刊)は、テレビ業界のリアルな闇と欲望を描いた小説だ。しかし、ここで書かれている“問題”は、テレビ業界だけに限ったことではなく、仕事をしているあまねくビジネスマンに突き刺さるものになっている。

 これは鈴木おさむさんの“暴露”なのか? それとも、“告白”なのか? 新刊JPは鈴木おさむさんに真意を聞いてきた。

(新刊JP編集部/金井元貴)

テレビ業界の裏側を描いた問題作が登場!

一人の正義が他人の人生を狂わすこともある――鈴木おさむさんインタビュー 一人の正義が他人の人生を狂わすこともある――鈴木おさむさんインタビュー

―― この『名刺ゲーム』はテレビ業界の暗部をえぐる衝撃作でありながら、ミステリーの要素が加わった非常に読み応えのある小説でした。もともとは同名の舞台が原作になりますが、小説化のいきさつから教えていただけますか?

鈴木おさむさん(以下敬称略) 今年はじめに角川書店から出版した『美幸』も同じように小説を出す前に舞台をやったのですが、この作品については舞台だけにしようと思っていて、まったく小説化を考えていなかったんです。でも、公演を観に来られた扶桑社の田中さん(編集者)に「この作品をぜひ小説にしてほしい」とお願いをされて、0から作り直すことになりました。

 テレビプロデューサーの神田達也に恨みを持っている白いパジャマを着た5人の男女たちが出てきますが、実は舞台では彼らの独り語りはなかったんです。だから、小説として書き直すときにはじめて、彼らはどのような感情なのか、どう思っているのかなどを作り込む必要が出てきて、意外と大変でした。

―― 主人公の神田達也という人物は、この作品では非常に際立った存在です。人気クイズ番組のプロデューサーですが、まるで振る舞いは独裁者そのもの。絵にかいたような「上司になってほしくない人物」ですが、この人物のモデルはいらっしゃるんですか?

鈴木 ある特定の個人をモデルにしているということはもちろんありません。ただ、僕自身がテレビ業界で仕事をしてきた中で、怒りや違和感などを抱くことはたくさんありました。そういった要素を、この神田達也という人物に収めたんです。ただ、この神田って、ただの悪い奴ではないですよね。ヒット番組を生み出せない時代も長く経験していたから、その分、仕事に一生懸命になりすぎるがゆえ傍若無人な振る舞いをしてしまっているところもある。

放送作家・鈴木おさむさん 放送作家・鈴木おさむさん

―― 最初はものすごく性格が悪いように思えるのですが、読み進めていくと、すごく弱い人物だということが分かってきます。

鈴木 先日、たまたま番組でSEKAI NO OWARIの「Dragon Night」という新曲を聞いたのですが、まさにあの曲の歌詞の通りで、自分が自分なりの正義をかざして戦っていても、相手はまた別の正義を持っていて、それをかざして向かってくる。

 神田達也は、面白い番組をつくることが自分の中の正義であり、目的であり、そのために突き進んでいます。けれども、実はそれが誰かを傷つけることになってしまう可能性もある。この『名刺ゲーム』に出てくる5人の登場人物は、まさに神田達也の正義によって被害を受けた人たちですよね。

 逆に、被害を受けた人たちが必ずしも正しいかというと、そういうわけでもありません。彼らには彼らなりの正義があるけれど、一方でどこかに駄目な部分や甘えている部分があるはずです。

―― 名刺ゲームでは、これまでテレビ業界で問題になってきた事件がモチーフとしてあらわれます。例えば、クイズ番組でのヤラセ実験ですとか……。テレビ業界の裏側をある意味、暴露するような内容になっています。

鈴木 暴露をしようと思って書いたわけではありません。クイズ番組の作り方や会議の仕方などは、かなりリアルに書いています。これまでもテレビ業界を扱った小説はありましたが、それらよりもリアリティのあるものになっていると思います。

 ヤラセ実験のくだりについては、「こういったことはよく聞くな」というところから組み立てていったのですが、ここで本当に描きたかったことは、ヤラセについてではなく、テレビ局と制作会社の主従関係なんですね。プロデューサーなどの力のある人間が「この画を撮ってこい」といえば、制作会社はそれに従うほかない。でも、その画を撮るには、ある程度の「ヤラセ」が必要不可避に思えるものもある。じゃあ、そのときにどうするのか。

 プロデューサーが欲しいのはその画ですから、もし撮れても「よく撮ってきた」とは言うかもしれないけれど、どう撮ってきたかは問わないんです。

―― 何か問題が起きたら制作会社の責任にする、と。そのケースはおうおうにして一般的なビジネスの現場でもある光景です。

鈴木 そうですよね。上は「売り上げをのばせ!」というけれど、結果的にのびたとき、どうやって上げたかはわざと聞かないとか、その不自然さを感じることはあります。

―― テレビ業界以外のビジネスマンが読んでも、すごく身に覚えのある話が詰まっていると思います。

鈴木 この物語に出てくる弁当屋の女主人のエピソードも、普通にある話なんです。例えば、大量注文していたお弁当屋の弁当が原因で、数人が体調不良になった。全員が食中毒になったわけではなく、本当にたまたま、事故みたいな出来事だった。そして、そのお弁当屋と取引をやめたら、お弁当屋はつぶれてしまったんですね。

 テレビ局からの弁当の注文って、毎週400個とかの規模なんですよ。売り上げの柱がなくなってしまうわけですから、つぶれてしまう。会社が一社つぶれるということは、経営者やその会社にいる人たちの人生も変わるわけです。さらにそれが、一個の弁当、一人の言葉がきっかけによって引き起こされることもある。もしかしたら自分自身も加害者になっているかもしれないんです。

 つまり、知らない間に他人の人生を変えてしまっているかもしれない。でも、神田達也は気づかなかったんです。数字を取らないといけないし、なりふり構っていられなかった。すると、今度は忙しくなってなかなか家に帰れなくなるわけですから、家庭と仕事のバランスが壊れていって、子どもの人生にも影響を与えていく。

―― 囚われの身である息子の和也が「パパの作った番組は初恋を終わらせ、彼女の人生も変えた。色んな人の人生を変えていく運命にあるのかもね、パパは」(136ページより)と独白するシーンはとても印象的でした。

鈴木 実は父親の仕事が子どもに与える影響は大きいですよね。僕の実家は自転車屋だったから、「おい、自転車屋!」といじられましたし、たまたま父親が小学校のPTA会長になったことがあって、もちろんそれでもいじられていました。なぜなら、PTA会長ってことあるごとに児童たちの前であいさつをするんですね。いじられるのは当然なんですが、親のちょっとした変化が子どもの立場を変えたり、影響を与えたりすることに気づいていない大人はたくさんいるんです。

 特にテレビ局に勤務する人など、テレビ業界の仕事をしているとうわさになりやすいと思います。エンドロールとかで名前が出ますからね。先日、知り合いのディレクターともその話になって、彼の6歳の子どもが小学校の休み時間ひとりで空を見上げているという話を聞いて、もしかしたら親がテレビ業界にいるということでいじられているんじゃないか、と。特に家族がいる身ですと、自分の人生だと思ってやっていたことが、子どもの人生を巻き込んでいたことに気づかないというケースも意外にあるように思うんです。

テレビ業界の視聴率は「絶対」。でも……

―― テレビ業界のことについてお聞きしたいのですが、やはり視聴率は絶対的なのですか?

鈴木 よく聞かれる質問なのですが、視聴率が悪いと番組が終わってしまいますから。それがすべてですね。絶対かそうではないかといわれると、絶対だと思います。どれだけ面白いといわれても、バラエティで視聴率4%だったら、番組は終わりますよね。

放送作家・鈴木おさむさん 放送作家・鈴木おさむさん

―― 視聴率が高い番組に共通する傾向や特徴を挙げるとすると何だと思いますか?

鈴木 もちろん視聴者のターゲットですとか、そういったものもあるんですが、何よりも作り手の熱意が重要だと思います。ある一人のキャプテンシーを持った人が番組を根性で引っ張るのはよくある話で、この『名刺ゲーム』にも書きましたけれど、恐怖政治だから番組が面白くなるということもあるんです。その人がいなくなってしまった途端に番組がつまらなくなっていく、悪だと思っていた人が実は番組の面白さを作っていたということは普通にあります。

 仕事がすごくできるけれど超ムカつく人の話はすごく面白いから、盛り上がりますね。もちろん被害者側からすればとんでもないことばかりです。でも、当事者じゃない人は「あの人は番組をヒットさせているじゃん」と思って聞いたりもします。

―― 人が寄ってくるといえば、神田達也の女性関係も読みどころの1つでした。女性芸能人ではなく、そのマネジャーの女性との関係が描かれていましたが、こういうことがあるのかと思わされました。

鈴木 神田達也という人物は、遊び人ではないし、実は勇気がないんです。小市民なんですよね。僕はこのキャラクターのそういったところが好きです。

―― ただ、実際には急に放蕩になってしまう人もいるのではないでしょうか。立場が人を変えてしまうというか。

鈴木 それはあると思いますね。

―― ヒット番組を生んで、急に他者からの視線が変わって、たくさんの人が寄ってきて……となると、正気でいられないような気がします。

鈴木 テレビ局はそういったものの縮図のような気がしますね。毎週視聴率が出て、それに一喜一憂して。もちろん、一般的なビジネスの世界もそうですが、さっきの話と矛盾してしまうかもしれないけれど、視聴率というのは絶対であることは間違いありません。しかし、その視聴率の実態は分からないものです。物が売れた数ならばあきらめがつくかもしれないけど、視聴率はそもそもどうやって測っているのか、あの数字が本当に正しいのかというのがあやふやなんです。その実態が分からないものに、自分の評価を委ねないといけないという不思議な世界がテレビ業界です。

 以前、視聴率を買って大問題になった人がいましたが(2003年の日本テレビ視聴率買収事件)、テレビ業界の人間たちが口をそろえて言うのは、「それはやっちゃダメだよ。でも、その人の気持ちは分かる」ということなんです。

―― なりふり構わなくなっていく、と。でも、神田達也だけでなく、玉虫色のスカーフの男も5人の白いパジャマを着た男女も、そして息子の和也も、全員生々しいですよね。

鈴木 そうですよね。どこかに薄くモデルがいて、それを重ねたり、僕がこれまでこの業界で見聞きしてきたことをつないでいって作ったのが、この登場人物たちです。

 よく考えれば、僕は会っている人間の数が半端じゃないんですよ。毎回会議に出席して、その都度10人、20人は出席者が入れ替わって、それが1時間ごとにあったりして……1日300人くらいに会っているんじゃないかな。そして、その300人にはそれぞれの人生があって、僕にとっては300分の1だけれど、一人ひとりに物語があって、そこで見せている顔とは別の顔があるかもしれない。名刺ゲームの登場人物の一人のように、他人にはいえない性癖を持っていたり、誰にも言えないことを抱えたりしながら生きている人もいる。そういう人たちのことを書きたいと思ったんですね。

―― 名刺ゲームの中で玉虫色のスカーフの男が、「仕事を勝ち取るには実力だけじゃダメ。ならば何が必要なんでしょう? 「賢さ」ですよ。それを「ズルさ」と呼ぶ人もいるかもしれない。ズルいことをして勝った人を負けた人が責めるのは単なる嫉妬でしかないですよ」(71ページより)と名刺の持ち主の一人に言いますよね。これは鈴木さんのお考えなのですか?

鈴木 そうですね。この本は、実は僕の中ではビジネス書なんです。裏ビジネス書というか。玉虫色のスカーフの男は、名刺の持ち主たちにも仕事やビジネスの本質を投げかけます。それは僕が必要だと思っていることを代弁しているんですね。

 例えば仕事のために女性が男性と寝るとする。それを入り口として、もし、その女性の才能が開花して、注目を浴びて、たくさんの人に勇気や希望を与えるような存在になったら、果たしてそれはズルいといえるのかということです。もちろん、寝ただけでチャンスを自分のものにできなければ意味はありません。

 でも、僕はそれを実行した人のことを実行しなかった人が責めるのは、単純にひがみなんじゃないかと思うんです。

―― それを結果に結びつけられるのであれば……。

鈴木 それをズルさと呼ぶのは、一概には違うんじゃないかと思います。もう一つ、僕が好きな問いかけがあって、例えば国民的な名曲が薬物を使った状態で作られていたら、それはどう思うかというものです。薬物は絶対にいけないことというのを前提として、その曲で本当に救われたという人もいるはずなんです。どう思いますか?

―― 僕自身は、やはり曲は曲として切り離して考えるべきだと思います。薬物はもちろんいけないことですが、薬物をやっている人が作った音楽が良くないというのは違うと思いますし、曲の素晴らしさそのものは否定できないのではないか、と考えますね。

鈴木 そう考えるのも正解。もちろん別の正解もあります。つまり、この問題は議論のしようがないんです。そうした議論にしようがないもどかしいことを、この小説の至るところに入れているんですね。だから、『名刺ゲーム』を読んだら、登場人物たちのことを話してくれたらいいな、と。この本の中でこの人物はこんなことを言っていたけれど、どう思う? みたいな感じで。

―― では、最後に本作の読みどころを教えてください。

鈴木 もともとは「名刺を返す」という行為を使ったゲームをバラエティ番組でできないかというところからアイデアを膨らませて、その設定を舞台や小説で使ったのがこの『名刺ゲーム』です。そういった背景もあり、クイズ番組をどのように作っていくかというところは丁寧に書いたつもりなので、その部分はぜひ楽しんで欲しいですね。

 また、僕にとって本書はサラリーマンの方々をはじめ、日々働いていて、いろいろな想いを持っている人のための“裏ビジネス書”ともいえるものです。ぜひ読んでもらって、自分が抱いている想いについて、向き合ってみてほしいですね。テレビ番組を見るつもりで、ページをめくってもらえるとうれしいです。

―― また、物語の結末も非常に驚きました。

鈴木 最初の展開からは想像できないですよね。結果的にそうなってしまいました(笑)

―― ありがとうございました!

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