インタビュー
» 2014年10月30日 12時43分 UPDATE

「躾」が「押しつけ」に 個性心理学の第一人者が警鐘を鳴らす親子問題

親子問題に対して個性心理学の第一人者が出す答えの1つとは。個性心理學研究所の所長である弦本將裕さんにお話を伺いました。

[新刊JP]
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 親と子の関係のありかたが大きく変わっているといわれている昨今、親子間で起こる悲惨な事件は、後を絶ちません。どうしてそうなってしまっているのでしょうか。

「躾」が「押しつけ」に 個性心理学の第一人者が警鐘を鳴らす親子問題 「躾」が「押しつけ」に 個性心理学の第一人者が警鐘を鳴らす親子問題

 その答えの1つが『個性心理學から生まれた絵本「杉の木の両親と松の木の子ども」[七田式]』(しちだ・教育研究所/刊)という絵本に書かれています。作者の弦本將裕さんは個性心理學研究所の所長で、大ブームとなった『動物キャラナビ』の著書などで知られている方です。

 そんな弦本さんが講演会で毎回最後に話すのが「杉の木の両親と松の木の子ども」という物語。杉の木の両親の間に松の木の子どもが生まれ、自分の思い通りに育ってくれない子どもに悩む親と、親から愛されずに苦しむ子どもの関係が描かれています。

 その衝撃的な結末は心を打たれますし、どうしてこの親子はこのような道を歩まなければいけなかったのか、誰しもが考えるはず。今回はその絵本について弦本さんにお話をうかがいました。

(新刊JP編集部/金井元貴)

あなたは子どもの「個性」を認めてあげていますか?

―― 『杉の木の両親と松の木の子ども』という絵本は、非常に衝撃的な結末に驚きを抱くとともに、強いメッセージ性を持っている作品だと感じました。まず、どのような想いからこの物語を作ったのでしょうか。

弦本さん(以下、敬称略) 普通、「絵本」というとかわいいものが多いですよね(笑)。でも、現在子育て中のお母さん方の話を聞くと、個性の違いから、わが子でありながら理解できないとか、子ども同士の中でえこひいきしてしまうという声が聞かれて、親子の関係がとても難しくなっているのを強く感じました。

 人間は、自分と異なる個性を受け入れるのは容易ではありません。それは、価値観が違うからなんですが、そこで、親子を杉の木と松の木というまったく異なる性質を持つ「木」に置き換えることで、個性の違いを訴えたかったんです。

―― 「木」というモチーフはどこからでてきたのですか?

弦本 なぜ「木」に例えたかというと、「親」という字にヒントがあります。この字は、「木」という字、「立」という字、そして「見」という3つの字から成り立っています。これをイメージ心理学で被せたんですね。こう考えると、深いでしょう?

―― すごく深いですね! この絵本は、杉の木の親の間に松の木の子どもが生まれ、その子どもは松の木らしくスクスクと育っているのに、杉の木の親はそれを認めようとせずに自分の意見と合う医者を探しまわり……という物語です。特に、医者を探しまわるシーンが印象的でしたが、どうして杉の木の親は自分の意見と合う木しか信じられなかったのでしょうか。

弦本 これは、アンデルセン童話にある「みにくいアヒルの子」の物語に共通していると思うのですが、自分と異なるモノ、これは風貌だったり考え方だったりいろいろですが、それを受け入れるのは容易ではありません。個性を考える時に、「みんな自分と同じように考えるはずだ」という間違った固定観念が「否定」を生みます。自分と他人は違うのだという前提に立たないと、コミュニケーションは成立しません。

 親は、最も身近な他人であるわが子と接する時に、自分の価値観を押し付けようとします。人はこれを「躾」と言いますが、実は丁寧に「お」が付いて「押しつけ」になってしまっていたのです。これは、組織などの人間関係にも当てはまりますから、子育てに限ったことではありませんが、自分という人間の器が大きくないと、他人を受け入れることはできないのです。

―― 弦本さんは「個性」を軸に心理学を展開されていらっしゃいますが、この絵本も「子どもの個性をいかに認めるか」というところが1つの大きなテーマになっています。どうして「個性」に着目されていらっしゃるのでしょうか?

弦本 わたしたち人間は、“多様な個性の集合体”であり、お互いの個性を受け入れることで、人間関係はスムーズになっていきます。異なる個性同士強く惹きつけ合うということは、恋愛などでも証明されていますよね。でも、その個性の違いから別れてしまうカップルが多いのも事実です。わたしたちが一番興味を持っている分野こそ、実は「個性」だったということに気がついたからなのです。

―― この絵本の中で描かれている「杉の木の親」は、子どもの「個性」を認められない親です。確かに、残酷な親のように見えるのですが、ただ、子どもが少しでも変だと思うと親は心配してしまうものだと思うんですね。

弦本 確かにそうです。でも、よく考えてみてください。どんな人も親に反抗して、反発しながら育ってきたはずです。なのに、自分のことを棚上げして、子どもに従うことを求めてしまっている。そして、それを続けると、親から怒られないように「いい子」を演じ続ける気持ち悪い子どもになっていまうんです。

 また、個性に「いい個性」も「悪い個性」もありません。いいか悪いかではなく、親の価値観と一致しているかどうかだけです。個性の中には「才能」も含まれています。

 わたしは親は、その才能を見つけ出して伸ばしてあげるのが使命だと思っているんですね。「Education」=教育の語源は、「いいところを引き出してあげる」というのが本当の意味なのですが、どうも教育現場でも勘違いされていて「たくさんの知識を詰め込む」という風にとらえられています。これでは、子どもたちが可哀想過ぎます。自分にとって「都合のいい」子どもが「いい子ども」であるはずがありません。そんな対応をしているから、子どもたちは親の前だけ「いい子」を演じてしまうのです。親は、子どもを無条件で信じてあげるべきだと思います。信じてあげるだけで、子どもたちはグレたりすることはなくなるのです。

人が幸福かどうかは人間関係で決まる

「人が幸福かどうかは人間関係で決まる」 「人が幸福かどうかは人間関係で決まる」

―― どうして親たちは、子どもを無条件で信じられなくなっているのでしょうか。

弦本 これは、大人の社会が愛欠乏症に陥ってしまっているからです。愛が満たされている人は、すべてに余裕があります。夫婦間で会話がないとか、3年間もエッチをしていないというような関係を続けていると、余裕はなくなっていきます。すると、子どもすら認められなくなってしまう。

―― しかも、子どもは弱い立場にありますよね。

弦本 そうなんです。ただ、それをずっと放置していると決壊したダムのようになってしまいます。

―― この『杉の木の両親と松の木の子ども』を作ったのは、いつごろのことなのですか?

弦本 個性心理學研究所を立ち上げた1997年ごろですね。それから、講演会の最後に必ずこの話をさせていただいています。

―― 会場からの反応はいかがですか?

弦本 お母さん方は涙して聞かれていて、もっとこの話を早く聞きたかったという声が多いです。アンケートでは「一番感動したのはこの物語だった」と書かれることが多くて、それまでの90分の講演はなんだったのだろうと(苦笑)でも、それぞれのご家庭でも、切実な問題になっているのだと思います。

―― この絵本では、絵本作家のつがねちかこさんが挿絵を描かれていらっしゃいます。弦本さんはこの挿絵についてはいかがですか?

弦本 いろんな人から、少し「怖い」という感想をもらいましたが、僕はこのくらいインパクトがあった方がいいと思います。表紙の松の木のイラストなど見ると、何だかいま「ゆるキャラ」として人気者になっている「ふなっしー」みたいで、なかなかかわいいでしょう(笑)? 何度も読み返してみると、この挿絵の素晴らしさが分かると思いますね。

――  一度読み終わった後にまた挿絵を見ると、最初とは少し違ったイメージがわいてきますね。

弦本 子どもが愛おしく見えますよね。それに、親も苦悩していることが分かります。親は杉の木なのだから、松の木の子どもの気持ちが分からないのも当然なんですよ。親も解決策が欲しいんです。

 実は、紀元前の中国春秋時代に生きた孔子の言行録である「論語」にも、同様のことが書かれています。この話も個性心理學の講義でよく話をするのですが、孔子は「和・礼・道・仁・楽」の5つの教えを説いていますが、これを分析してみるととても面白いのです。最初の「和」という教えで、孔子はこう言っています。「人が幸福であるかどうかは、すべて対人関係で決まる。親子・兄弟・友人・恋人・夫婦。今、すべての人間関係が、子どもの社会まで腐敗してしまっている」と。これは永遠のテーマなんですね。

 一番切ないのは、親子という最も身近な人間関係の破たんです。だからそのことに気づいてほしいややインパクトのあるイラストを挿絵にして、ハッピーエンドで終わらないようにしました。

―― 今回、この物語を「絵本」という形で出版したのはどうしてですか?

弦本 わたし自身46冊目の本になりますが、「絵本」ははじめてです。わたしの本の読者層は結構幅広いのですが、今回は、さらにこれまでと違った層の方々にも読んでもらいたいと思って絵本にしたのです。先ほど申し上げたように、実際、わたしの講演会などでいつも最後にこの物語をわたしからのプレゼントとしてお話しさせて頂いておりますが、こんな絵本があったらいいのにというお母さん方からの声もたくさん頂きました。そこで、今回、賛同頂いた七田厚先生とのコラボとして、この絵本が誕生したのです。

―― では、この絵本をどのような方に読んでほしいとお考えですか?

弦本 童話「みにくいアヒルの子」みたいに、世界中の人に読んで欲しいですね。付録としてアニメーションを収録したDVDがつくのですが、その中にイングリッシュバージョンをつけたり、英語の対訳をつけたりしたのは、親子の関係は国を越えた共通の悩みではないかと思ったからです。

 このDVDをどんどん幼稚園や保育園などで流して、親御さんにも見てほしいし、子どもと一緒に絵本を読んで欲しい。DVDをつけたのは僕の強い要望です。

 また、朗読については、女優の白石まるみさんが心よく引き受けてくださいました。彼女は、個性心理學を学んで認定講師・認定カウンセラーの資格も取っていますし、NHKの初代「ニャンちゅう」のお姉さんでもありますから、この役にはうってつけだと思います。これからは、全国の保育園や幼稚園でも読み聞かせなどで回っていきたいと思っています。

―― 確かに親御さんにも読んでほしい絵本です。

弦本 これは大人が読む「絵本」なんですよ。子育て中のすべてのお母さんやお父さん方に読んでもらいたいですし、かつて子育てをした経験のある方にもぜひ読んで欲しいと思います。そうすることで、親子の確執が消えるのです。

 学校の先生や教育現場に携わるすべての方にも、そして、行政や政治家の皆さんにも読んでもらいたいですね。

―― では、このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします。

弦本 大人が読む「絵本」として出版しましたが、ぜひお子さまにも読み聞かせて頂いて、親子で話し合うきっかけにしてもらいたいと思います。個性の違いを明らかに認めることで、親子関係は驚くほど良くなるでしょう。

 子育ても、何倍も楽しくなると思います。子どもには「取り扱い説明書」など付いていません。といって、試行錯誤する必要もないのです。温かく見守り、愛してあげてください。

 子育てをわたしはこう解釈しています。「育てる」のではなく「素」を立ててあげると。子どもの「素」が分からないと立ててあげられないのです。親という字も、木を立てて見せてあげると書きますよね。

 皆さまの子育てが、今日から楽しくキラキラと輝くことを願っております。

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