連載
» 2014年10月27日 17時00分 UPDATE

eBookマーケットリーダー:半年で2億円! ある上場ベンチャーに見る驚きの電子コミック売上

今回から始まる連載「eBookマーケットリーダー」。まず取り上げるのは、ベンチャー企業の株式会社イグニスだ。「全巻無料系」のアプリが叩き出した、驚くべき売上とは……?

[杉浦正武,ハートコミックス]

 今回から始まる連載「eBookマーケットリーダー」。電子書籍業界がどこに向かっているのか、さまざまな角度から読み解いてみたい。

 まず取り上げるのは、ベンチャー企業である株式会社イグニス。この会社、昨年あたりから業界関係者の間で、ひそかに(もしくは声高に?)面白い取組がある……と話題になっていた。「全巻無料系」アプリ、といえばお分かりになるだろうか。

イグニス代表取締役社長の銭氏と、代表取締役CTOの鈴木氏(同社ホームページより) イグニス代表取締役社長の銭氏と、代表取締役CTOの鈴木氏(同社ホームページより)

 同社は2013年11月、『サラリーマン金太郎』全30巻を読み放題とする電子コミックアプリをリリースしたのを皮切りに、同年12月には『魁!!男塾』『曉!!男塾 青年よ、大死を抱け』の全59巻をアプリ化。

 その勢いのままに、その後『まじかる☆タルるートくん』『ろくでなしBLUES』などなど、“聞いたことがある”人気コミックを続々とアプリに変えて、世に出している。ネームバリューのあるタイトルだけに、利用したユーザーも多かったのではないだろうか。

 この事業による売上、利益がどれほどのものか、外からは推し量るしかなかった。一般論として、電子コミック事業単体でのPLは、開示されていないことも多い。たいていは、聞こえのいい「累計ダウンロード数、○百万突破!」という数字だけが公開され、最も重要な指標と言える「何人がアクティブユーザーとして活動しているか」、その結果としてど「れだけの課金売上が発生しているか」は、見えないケースもある。

 だが、イグニスの場合は事情が違った。同社は2014年7月に、上場したのだ。

きれいな急成長のカーブ

 当然ながら、企業というものは上場すると情報開示が義務付けられる。早速IR資料をチェックしてみると、上場前の目論見書に、これまでの業績推移のグラフがあった。それが下画像だ。

tnfighc003.jpg

 まず驚くのは、売上の成長カーブ。綺麗に倍々ゲーム、それ以上で伸びている。2年目で8000万円の売り上げを立てたのもすごいが、そこから2億円、8.7億円と急成長して上場に至った。これは個人的な感想にすぎないが、順調すぎるほど順調だ。

 さらに面白いことに、電子書籍単体の売上も開示されていた。赤で塗りつぶされた「全巻無料型ハイブリッドアプリ」と記載された部分がそれだが、2四半期の累計期間だけで、なんと1.94億円を売り上げている。半期でこの数字ということは、通年では、単純に考えて倍。ベンチャー企業の成長スピードも加味して考えれば、それ以上……ということもあり得る。もはや、電子書籍コミックだけで、数億円の売り上げが立つビジネスになっていたのだ。

今後の課題は?

 順風満帆に見えるイグニスの電子コミック事業だが、今後の課題は何だろうか。

 あえて言えば、「継続性」ということかもしれない。全巻無料系アプリは通常、期間限定公開となっていることが多い。つまり、時間がたてばアプリは消えてしまう。理由は恐らく、限定にしてプレミアム感(今買わなくちゃ感)を高めることと、永遠に無料公開することに権利者側が難色を示したことのどちらか、あるいは、両方ではないか。ただ結果として、有名タイトルを出しては消し、出しては消しするので、会員数が“ざぶとん方式”で積みあがっていかない。ここは、じれったいところかもしれない。

 ただ、同社も対策は講じているようだ。8月6日の決算説明会資料を見ると、こんな文言が見える。「複数の人気作品を1アプリにまとめたモデルを開発中」「1作品1アプリのモデルを進化させ、収益性と継続率を強化」。さすがは勢いのあるベンチャー企業、というところだろうか。実際、9月には『海猿』『ブラックジャックによろしく』など4作品を1アプリにまとめたストア型アプリがリリースされている。

 同じ電子書籍業界人として、こうした新鋭企業が業界をかきまわすのは、ありがたく、興味深いこと。同社の今後のストーリーを、読み進めていきたい。

著者紹介:杉浦正武

電子コミックアプリ「ハートコミックス」の主担当者。ITmediaで5年間記者を務めた後、MBA留学(南カリフォルニア大学)、A.T.カーニー、DeNAを経てソフトバンクグループに復帰。新規事業であるハートコミックスを牽引する。


ハートコミックスのアプリはこちらから

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia Book Club会員登録がまだの方はこちら

電子書籍/紙を問わず、読書を愛する皆さまに向け、特別な情報提供、書籍の献本、著者や業界関係者との懇親会、執筆活動を検討されている方へのサポートなどを順次提供し、皆さまの読書を強力にバックアップします。

コンテンツパートナー

新刊JP
ラノコミ.com
hon.jp
新文化通信社
Good E-Reader Blog
ぶくまる