インタビュー
» 2014年10月16日 11時20分 UPDATE

あのストリート系雑誌6年ぶりに復活 山口一郎編集長に聞く“『Boon』復刊の理由”

6年ぶりに復刊した『Boon』。山口一郎編集長にその経緯を伺いました。

[新刊JP]
新刊JP

 「ヴィンテージ古着」「スニーカー」「ナイキ エアマックス」……90年代に青春を過ごした人たちにとって、これらのキーワードは耳になじむだろう。

 祥伝社から発行されていた雑誌『Boon』は、90年代ストリートカルチャーの発信源だった。ファッションだけでなく、カルチャーを深く掘り下げる企画で若い男性を中心に人気を博し、1996年に女優の広末涼子さんが表紙を飾った号では、65万部以上を売り上げたという。

 しかしその後、しばらくしてから低迷期に入り、2008年3月に休刊。それから6年が経った2014年10月9日、ついに『Boon』が復刊する。新生Boonのターゲットは30〜40代男性。そう、かつてのBoon読者だ。しかし、どうして今、復刊なのか?

 今回、新刊JPはBoon復刊について、山口一郎編集長に聞いた。

(新刊JP編集部/金井元貴)

なぜ今なのか? 『Boon』復刊の理由

―― いよいよ10月9日に『Boon』が6年ぶりに復刊されます。1990年代のストリートファッションブームを牽引し、「ナイキ エアマックス」などでスニーカーのブームを生みだした伝説的な雑誌ですが、どうして復刊されることになったのでしょうか。

山口編集長(以下山口) その前に、まずわたしの経歴からお話しできばと思います。1995年に祥伝社に入りまして、最初に配属になったのがBoon編集部でした。当時、ちょうどスニーカーとヴィンテージブームの前夜くらいで、そこから大変な盛り上がりをみせることになるのですが、そこに6年半在籍していました。その後、別部署を経てBoonに戻りまして、休刊となる2008年3月売りまでいました。

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―― 休刊時には副編集長をされていらっしゃったんですよね。

山口 そうですね。Boon編集部には通算で10年以上在籍していたことになります。一番良いときも、休刊という残念な結果になったときも編集部にいました。だから、ずっと個人的にBoonに対してやりきれない想いがあったのです。

 一方で、弊社が刊行している雑誌としては、『Zipper』という1993年創刊の、ティーン向け雑誌と、もう1つ『nina’s』という隔月刊のお子さんのいる女性をターゲットとした雑誌があるのですが、男性向けの雑誌がない状態がずっと続いていて、やはり男性誌もある方がバランスが良いのではという気持ちがありました。

 でも、皆さんご存じの通り、今は部数減など、雑誌には逆風といえる状況が続いてきました。特に2008年ごろはリーマンショックがあって日本経済全体が窄んでしまって、その影響をダイレクトに受けていたんですね。そんな中で、新しい雑誌を立ち上げるのは現実的ではありませんでした。

―― では、Boonの復刊は、その風向きが変わってきたというのが背景にあるのですか?

山口 そうなんです。昨年の暮れ辺りから、風向きが変わってきたという感触があります。雑誌の場合、女性誌よりも男性誌の方が先に部数に影響が出てしまい、女性誌も追随して減数になってきました。ただ、おととしくらいから、30代、40代向けの男性誌に希望の光があるように感じられました。その年代すべての雑誌というわけではなく、あくまで一部のということではあるのですが。

 そういうこともあり、30代や40代向けの男性誌が、今ならいけるのではないかと思いました。ちょうどその世代が、10代、20代だったころに全盛期だったのがBoonで、1997年の最盛期には実売で65万部売れていたんですね。ちなみにわたしは今年42歳になりますが、わたしより7、8才歳下の世代になると、Boonを読んでいたという人はぐっと少なくなります。

 ということで、特定の年齢層にはかなり強いブランド力があることは分かっていましたから、Boonという冠をつけて40代向けに雑誌をつくってみたらどうだろうかと。懐かしいと思って手にとってくれるかもしれないので、新しい雑誌を立ち上げるよりは、アドバンテージがあるだろうと考えたんですね。これはすごく短絡的な考え方なんですが(苦笑)。最初に話は戻りますが、わたし自身、Boonに対する思い入れもあったし、もし今のタイミングを外したらもう二度と(復刊)できないかもしれないという危機感もあったので、関係する部署の全担当者に集まってもらって、プレゼンテーションをしました。

―― では、山口さんが復刊への道をつくってきたのですね。

山口 そうですね。それとは別に、もう1つ「いける!」と思ったところがあります。ちょうど当時のBoon読者たちが、年齢を重ねて、現場の責任者になるなどして、物事を決める権限があったりするのですね。取材面で言えばショップやブランドのプレスであったり、広告面で言えば出稿担当者であったり。

―― なるほど。

山口 でも、もう少し年齢がいってしまうと、現場から離れてしまうので、今しかない! みたいな(笑)

―― Boonは1990年代の中ごろ、ストリート系に絶大な影響力がありましたよね。わたしはちょうどそのすぐ下の世代になるのですが、『ナイキ エアマックス』はものすごいブームで、持っているだけでヒーローみたいな感じがありました。

山口 プレミアがついて、「エアマックス狩り」という言葉が生まれましたからね。でも、僕らはプライドがあったので(笑)、定価より高いクレジットでは載せないと決めていました。

 当時はインターネットがまだ普及していなかった時代ですから、全国400件くらいのショップにファクスを毎日送って、在庫のリサーチをするんですが、定価以上の額で売っているお店もあるんですよ。そういう店は載せないようにしていました。定価が1万5800円であれば、ファクスに1万5800円と書かれたお店だけ。

―― 当時のBoon編集部の雰囲気はどんな感じだったのでしょうか。

山口 毎日がお祭りみたいでしたね。当時のBoon編集部はスタッフがみんな若くて、当時の編集長と副編集長を除けば、現場スタッフはみんな20代でした。外部スタッフも若かったです。また、ショップスタッフをやっていた人がライターになって原稿を書いたりとかがありましたね。

―― ショップの生の声をそのまま出すわけですね。

山口 そういう意味では、とてもリアルな雑誌でしたね。また、スタッフみんな独身だったから、家に帰る必要もない(笑)仕事もしていたけれど、ご飯食べにいったり、話し込んだり、部活みたいな感じでした。とにかく熱気はすごかったです。

―― 400件のショップにファクスを送って在庫の調査をしていたとおっしゃいましたが、そういったリサーチもすごく細かくやっていたのではないですか?

山口 リサーチはすごく細かかったです。全国のスニーカーショップを網羅して、毎号丁寧に調査しましたし、古着屋もそうでした。具体的な商品と状態、値段を一軒ごとに聞いていくんです。

―― 当時Boonは、ストリートファッション系雑誌として代表的な存在でしたが、自分たちがカルチャーをつくっているという感覚はあったのですか?

山口 わたしの感覚から言わせてもらうと、そういう感じではなかったですね。もともと「ナイキエアマックス95」がはじめて雑誌内で紹介したときも、すごく扱いは小さかったんです。ページを作った人間もあそこまで爆発的なブームになるとは思っていなかったでしょう。逆にその流れに自分たちがついていけないというか、途中からはコントロールしきれていなかったです。

『Boon』の“ごった煮感”を楽しんで欲しい

―― 山口さんご自身の中で、休刊前のBoonで最も印象深い企画は何ですか?

山口 うーん……いろいろありますけれど、盛り上がっていたころでいえば、モノクロ4ページの企画なんですけどね。それ以前から、デッドストックのスニーカーの価格を調べて安いところを掲載することはしていたのですが、それを特化してやってみよう、と。例えばデッドストックの「ナイキ ダンク」が安いショップ10傑みたいな。本当にデータしか載っていなくて、サイズ27センチ、1万9800円〜みたいな情報だけがずらっと書かれている。これがすごくウケたんです。

―― それはストイックな企画ですね。

山口 今でいうところの「価格.com」みたいな(笑)だから、今やっても通用しないと思いますけどね。

―― 復刊第一号の表紙は女優の広末涼子さんです。やはりBoonというと広末さんというイメージが強い方も多いと思います。

山口 そうみたいですね。実は今回の表紙、ギリギリまで決めることができなかったんです。Boonって単なるファッション誌ではなくて、カルチャーに強いところもウリなんです。コアなものを深掘りするとか、うんちくを詰め込むというようなところが、読者から支持を集めていた部分。だから、男性を起用すると、その人がファッションアイコンだと思い込まれてしまうし、それであれば物がメインのイメージカットでもいいのかなと思っていました。

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 ただ、当時のBoon読者をわしづかみにするのだったら、やはり女性タレントだろうと。そこで、今回のターゲットとなるアラフォーの方々に、Boonの表紙でイメージする人は誰ですか? と聞いたら、広末涼子さんの名前が一番出てきたんです。広末さんがはじめてBoonの表紙を飾ったのは1996年6月号なのですが、そのときの雑誌の売れ行きは本当にすごかったです。

―― 広末さんがデビューしたてのころですよね。

山口 1995年にクレアラシルのCMに出演されて、96年にドコモのCMに出て。ポケベルの時代ですよ。あのころのインパクトはやはりすごかったし、今でもBoonといえば広末さんという声が強い。だから、広末さんでいこうと。ただ、今後も同じように女性を表紙で起用し続けていくかは未定です。

 Boonの魅力というのは、面白いものを見つけてきて、それを深く掘るという“ごった煮感”です。スニーカー総特集の後に、風俗ネタが来て、さらにそこから「リーバイス501」を解説したページがあるというような。これは今の30、40代向けの雑誌にはあまりない色ですし、男心をくすぐるところがあるかなと。

―― 確かに男性は、そういったどうでもいいけれどもちょっと深いものが意外と好きだったりしますよね。

山口 男性の場合、スニーカーのデザインよりも、例えば甲の部分に付いているディスクを回すとどんな効果があるのか……みたいなところに注目したりしますね。Boonはまさしくそういったところを蓄積して成り立ってきた雑誌です。

 そんなBoonの色、何かの1つのことを深く掘っていくスタイルは復刊後も追求していきたいと思います。いたずらにファッションやお洒落といった方に振らないように。自分たちのアイデンティティーを大事にしたいですね。

―― 復刊第一号のメイン特集は「‘90s 即GET指令!」と「街のキーワード2014 秋冬」の2つです。どのような特集に仕上がっているのでしょうか。

山口 ヴィンテージやスニーカーなどをはじめ、今、ファッションでは90年代のリバイバルがきていますし、実はそれ以外のジャンルでも、90年代が背景にあるものが流行っていたりするんですね。

 そういったことを束ねていくと、1990年代というテーマはフックになる。そこで、第一巻頭特集では「‘90s 即GET指令!」と題して、面白くて新しい1990年代を写し出しました。「即GET」という言葉は昔のBoonでも使ったフレーズです。

 90年代モノの広がりとしては、90年代に流行したヴィンテージやスニーカーを集めているコレクターがいるんですよね。そういった人たちも取り上げています。これは結局、タイミングが合わなくて取材できなかったのですが、「ジョーダンブランド」のマニアが高じて、自分で博物館を作ってしまった人がいるんです。しかも非公認ですよ。写真を見せていただいたのですが、かなりクレイジーです(笑)。こういうノリがBoonなのかなと。

 第二特集では「街のキーワード」といって、第一特集にはカテゴライズできないけどバリューのあるネタを取り上げています。「脱法ハーブ」だったり、糸にこだわったスウェットであったり、新日本プロレスであったり。ジーンズの履き比べみたいなこともしています。

―― 確かにごった煮感がすごいですね。でも、すごくツボを抑えているラインアップだと思います。

山口 盛りたくさんですね(笑)。

―― 山口さんが考える今後の雑誌の可能性について聞かせていただきたいと思います。今は出版不況ということが声高に叫ばれていて、雑誌の休刊も相次いでいます。その中で雑誌とWebの融合みたいな話もありますけれど、雑誌の今後をどのように予測されていらっしゃるのか。

山口 その部分は難しいですね。ただ、ターゲットによって、あるべき雑誌の姿を変える必要はあると思います。

 例えば、ローティーンってコンテンツにお金を払わないと思うんです。それがデフォルトになっている中、どう彼ら、彼女らにアクセスいけばいいかというと、例えばSNSだけでコンテンツをアップしていくとかもあるでしょう。紙はフリーにしてネット媒体主体で広告費を稼ぐというやり方もありかたもしれません。

 一方で、市場として強くなっている団塊世代向けの雑誌、例えば介護専門誌などはこれからあり得るかもしれない。そういった世代には、SNSよりもやはり紙媒体の方がいいということになります。

 もちろん、ターゲットに振り回されているという批判は出てくると思いますが、やむを得ないことです。大切なのは、形ではありません。媒体を維持していくときに、どういう形態が必要なのかセットで考えていく必要があると思います。

―― Boonの復刊を待っていた人は多いと思います。そんな皆さまにメッセージをお願いします。

山口 インターネットでチェックをすると、復刊希望の声をあげてくださっている方が多くてすごくうれしいです。この復刊は、わたし自身も楽しみにしていました。今回はわたしたち自身がガチになって、1990年代半ばのスピリットと言いますか、マインドを再現しようと思って企画を立てました。そういう点では、期待を裏切らないものになっていると断言できます。ぜひ、手にとってBoonのスピリットを感じてほしいですね。

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