インタビュー
» 2014年09月09日 11時00分 UPDATE

「嫌われ松子」作者の新刊は傑作エンタメ

『百年法』『嫌われ松子の一生』など、印象的な作品を次々と世に送り出す山田宗樹さん。新刊『ギフテッド』誕生の秘密を山田さんに直撃。

[新刊JP]
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 出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。

 今回は、8月27日に新刊『ギフテッド』(幻冬舎/刊)を刊行した山田宗樹さんです。

 『百年法』『嫌われ松子の一生』など、印象的な作品を次々と世に出している山田さんですが、この『ギフテッド』もこれまでの作品以上に、私たちを引きつけてやまない極上のエンタメ長編。新たに発見された「未知の臓器」の謎と、その臓器を持つ子ども達<ギフテッド>の運命が、現在と過去を往復する物語の中で少しずつ明らかになっていきます。

 この大作がどのように生まれ、育っていったのか。『ギフテッド』誕生の秘密を山田さんに伺いました。

10年以上前の新聞記事がヒントになった新刊『ギフテッド』

―― 山田さんの新刊『ギフテッド』についてお話を伺えればと思います。山田さんといえば、日本推理作家協会賞を受賞した『百年法』のように、ある特殊な状況の中で人間がどのような行動を取るのかを書くのが得意だという印象があります。『ギフテッド』もそんな作品だと言えますが、この作品の最初のアイデアはどんなものだったのでしょうか。

山田 もう10年以上前のことなのですが、ある新聞でがんについての特集記事を読んだのがきっかけです。がんというのは確かに怖い病気ではあるのですが、その記事には、人類という種全体を見た時に、もしかしたらがんが元になって新しい未知の臓器につながる可能性があるというようなことが書いてありました。

 それを見て「未知の臓器」という言葉に引っかかるものがあったんです。興味深い考え方だと思いましたし、小説にしてみたいという気持ちにもなりました。

 でも、当時はプロットを考えてみても、どうしても面白いストーリーができませんでした。それで、これは自分には書けないな、ということでいったんボツにしたんです。

「嫌われ松子」作者の新刊は傑作エンタメ 「嫌われ松子」作者の新刊は傑作エンタメ

―― 「未知の臓器」というだけでは、アイデアのかけらのようなものですからね。

山田 そうです。「未知の臓器」を持った子どもが発見されて、研究対象として追いかけ回されて、というような話しか思いつかなくて、これではダメだ、となった。

 でも、さっき名前を挙げていただいた『百年法』のアイデアも、同じように一度ボツにしたネタなんです。それが、時間が経ったり様々な偶然が重なったことでああいう形で何とか書き上げることができました。それなら、こっちも何とかなるんじゃないか、あの時はダメだったけど今なら書けるかもしれないと思い直して、改めて着手したという流れです。

―― ボツになったアイデアが生き返るということはよくあるんですか?

山田 そのアイデアを思いついた時はうまく形にできなくても、時間が経ったことでまた別の切り口が見つかるということもありますからね。そういうことがあれば、ボツになったアイデアをまた使うこともあります。

―― 『ギフテッド』について、「未知の臓器」を持つ主人公たちが「ある脅威を持った社会の異物」として存在するという状況で、人間のどんな性質を浮かび上がらせようとされたのでしょうか。

山田 基本的に、僕は人間が持っている何かの性質を書こうという気持ちで小説を書くわけではありません。

 僕が小説を書く時に心していることは、いかに読者を引っ張っていくかというその一点だけです。その上で「社会の中の異物を排除しようとする人間の性質」を作中で扱うことで読者を引っ張ることができるならそうします。あくまで読者を楽しませることが第一です。小説のなかで自分の意見をアピールしようという気はありません。

―― 何かしらのメッセージが込められているわけはないんですね。

山田 そうですね。あるとすれば「一気読み」してほしいということくらいです。

―― 確かに、一気に読んでしまいました。エンターテインメント小説を書く上で一番大切にしていることはどんなことですか?

山田 読者を飽きさせないことがとにかく大事なので、余計な文章や余計な言葉を使わないように心掛けています。この作品にしてもかなり長いですから、途中で読者を疲れさせてしまうことは極力避けたいわけです。だから省ける展開は省いて、無駄な言葉も削ります。

 でもそれを書くことでより深く物語に入り込めると思ったのなら、それは書きます。そうやって捨てたり拾ったりしながら物語をできるだけタイトに前に進めようと思っています。

3、4日放っておくとアイデアが降ってくる?

―― 書いていて難しかったところがありましたら教えていただければと思います。

山田 これはもう、最初から全部です(笑)。構想とかプロットといったものは作らずに、とりあえず冒頭の、主人公の小学生時代のシーンを書くと、さっそく「さあ、次はどうしよう」となりました。それで、次にどんなシーンがきたら読者がついてくるだろうかというのをあれこれ考えて、シミュレーションして次のシーンを書いたのですが、最後までこの調子でしたね。

 にっちもさっちもいかなくて、もうダメだと思ったこともありましたし、どう考えても最後まで書けないんじゃないかと思ったことも何回もありました。そのたびに中断しながら、何とか書き上げたという感じですね。全体的な構想は結局作らずじまいでした。

―― 止まってしまった執筆がまた動き出す時にはどんなきっかけがあるものなのでしょうか。

山田 止まってしまったら、何かいいアイデアが降りてくるのをひたすら待つというのがいつものパターンです。いろいろ考えて先に進もうとはするんですけど、そういう時に出るアイデアってあんまりいいものがない。

 仕方ないから3日か4日放っておくと、何かの瞬間にうまいアイデアが降りてくることが多いですね。放っておいている間は全然違うことをやっていたりするのですが、不思議とその方がいい考えが浮かびやすいです。何がきっかけになっているのかはわからないのですが。

3、4日放っておくとアイデアが降ってくる? 3、4日放っておくとアイデアが降ってくる?

―― ご自身が一番気に入っているシーンはどのシーンですか?

山田 いろいろあるのですが、「ギフテッド」が入れられた学校で、仲間たちがみんなで超能力を試す場面は好きですね。いかにも子ども時代のいい思い出というシーンで。

―― 円陣を作って意識を集中させる場面ですね。一瞬各人の気持ちが一つに重なる瞬間があって、何か起こるのかと思いきや……

山田 あそこで何か起こってもね(笑)。もう少し先を楽しみにしていただきたいと思います。

―― 幅広いタイプの小説を書かれている山田さんですが、ご自身にとっての「理想の小説」はありますか?

山田 原体験ということでいうと、大沢在昌さんの「新宿鮫シリーズ」にある『屍蘭』かもしれません。というのも、読み始めると止まらなくなってしまったんです。「一気読み」の快感というものを初めて味わいました。これがエンタメ小説の醍醐味か、と思いましたね。

 自分も小説を書く以上、読者にあの感覚を味わわせるようなものを書きたい。僕が小説家として目指しているのはあの時の快感なんです。いまだにどうすればいいのかはわかりませんが。

―― 小説家をやっていてうれしい瞬間がありましたら教えていただければと思います。

山田 一番はやはり読者の方々の反応なのですが、プロである以上、自分の本の売り上げが数字として出てきた時もうれしいです。読者に対していいものを提供できたという意味でも、出版社からの期待に応えられたという意味でもよかったなと思います。特に私は売れない時期が長かったので。

新人研修のレポートがウケて作家を目指すことに

―― 作家になる前はまったく別の仕事をされていたそうですが、作家になろうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

山田 僕は大学院を卒業してある製薬会社に入ったんですけど、入社してすぐに2週間くらいの新人研修があったんです。その研修でレポートを書かされたんですよ。毎日レポートを書いて上司に提出しないといけなかったんですけど、普通に書いても面白くないと思って、ちょっとふざけてエッセイ風に書いて提出しました。

 だから、怒られるかなと思っていたんですけど、当時の上司ができた人で、怒るどころかそのレポートを面白がって、文章の才能があると言ってくれたんです。それでその気になってしまったところがありますね(笑)。「そうか、じゃあそっちの方を目指してみようかな」と。

―― 先見の明がある上司だったんですね。

山田 そうですよね。その一言がなければ小説を書こうとは思わなかったでしょうし。その上司は僕のレポートを読んだだけでなく、面白いから読んでみろということでみんなに回したらしいんですよね。回覧した人からも面白いと言われて余計に調子に乗ってしまいました。

ギフテッド ギフテッド

―― それ以前から小説や作家に関心はあったんですか?

山田 まったくありませんでしたね。10代のころはほとんど本を読んできませんでしたし。大学の後半から少し読むようになったのですが、作家になろうとは思っていませんでした。

―― 大学時代に読んでいた本はどんなものですか。

山田 それまで読書の蓄積がほとんどないのに、よりによってドストエフスキーに手を出してしまったんですよね。最初はわからなくて、素人が手を出すものじゃないなと(笑)。

 でも、繰り返し読んでいると、それなりに分かるようにはなりました。小説家になろうと思うようになってからは、日本のエンタメ小説を重点的に読んでいました。

―― 本格的に作家になろうとしたのはいつごろですか?

山田 小説を書きはじめたということでいえば、レポートの件があってから2年後くらいですかね。最初のうちは新人賞に応募しては落ちてというのを繰り返していましたが、書き始めて5年目にデビューはできました。うれしかったですね。

―― 当時の作品を読み返したりということはされますか?

山田 いやあ、読みたくないですね。文庫になる時などにゲラで読むことはあるんですけど、嫌な作業です(笑)。

 新人のころってとにかく自分の持っているものを全部作品に注ぎ込もうとして肩に力が入っているから、バランスが悪いんですよ。書かなくていいだろうということも書いているし、若かったなと思います。

―― 山田さんが人生に影響を受けた本を三冊ほどご紹介いただければと思います。

山田 10代のころほとんど本を読まなかったというお話をしましたけども、小学5年生の時に買った、夏目漱石の『坊っちゃん』だけは繰り返し読んでいたので、これを一冊目にします。

 いろいろと深読みしようと思ったらいくらでもできる作品だとは思うのですが、話の筋を見るとエンタメ小説と呼べなくもないんですよ。この作品のそういうエンタメ的な部分が面白くて、当時は暇さえあれば読んでいましたね。このあいだ久しぶりに読み返したら自分の文章とテンポが似ていて、意外にこの頃の読書から受けた影響が今でも残っているんだなと思いました。

 二冊目は、先程お話に出た、『屍蘭』です。これは「一気読み」の快感を教えてくれたということで、自分の作家としての方向性を決定づけられたところがあります。

 最後は塩野七生さんの『ローマ人の物語』にします。この作品に触れたことで、歴史に対する視点を得られたような気がしています。自分が小説を書くうえでもすごく助けられましたし、もしこの作品を読んでいなかったら『百年法』もああいう形では書けなかったはずです。

―― 最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。

山田 繰り返しになりますが「一気読み」してもらえる小説を書くということだけはブレないようにやっているので、やはり「一気に」楽しんでください、と言いたいですね。

(インタビュー・記事/山田洋介)

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