インタビュー
» 2014年09月02日 11時55分 UPDATE

人気作家が「平凡な人生」を書いた結果……

新刊『小森谷くんが決めたこと』が刊行、『デビクロくんの恋と魔法』を原作とした映画が公開予定の中村航さんにお話をうかがいました。

[新刊JP]
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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。今回は、7月に新刊『小森谷くんが決めたこと』(小学館/刊)を刊行、そして昨年発売された『デビクロくんの恋と魔法』が映画化と、ますます勢いに乗っている中村航さんです。

 『小森谷くんが決めたこと』は、実在する一般人「小森谷くん」に徹底取材、彼の半生をそのまま小説にするという、風変わりな小説。この奇妙な小説は一体どのように生まれ、書き上げられていったのか。映画版が11月公開予定の『デビクロくんの恋と魔法』の話も含めて、中村さんにお話を伺いました。

実在する一般人をモデルに書かれた小説

小森谷くんが決めたこと 小森谷くんが決めたこと

―― 新刊『小森谷くんが決めたこと』についてお話をうかがえればと思います。これは実在する人物「小森谷くん」に、中村さんがインタビューを重ね、半生をまるごと小説にするという一風変わった作品です。担当編集者の方との間で企画が持ち上がった時の印象はどのようなものでしたか?

中村 おもしろそうだな、という気持ちもありましたし、ちゃんと小説になるのかな?という不安もありました。自分にできるんだろうか、という半信半疑の状態でしたね。

―― それは、一般人の人生にドラマになるものがあるのかということですか?

中村 そういう部分もあるかもしれませんが、波瀾万丈であれば書きたくなる、ということでもない。自分の小説として書けるのかどうか分からなかった。正直、はじめて話を聞いた時点では、ちょっと厳しいかなと思っていました。

―― それでもやってみようと思えたポイントはどんなことだったのでしょうか。

中村 「男子の小説を書きましょう」という依頼が来て、それで「小森谷くん」に会わせてもらってお話を聞いたんですけど、それでもやはり厳しいなという印象だったんです。

 簡単にいうと、「小森谷くん」には医者から「余命2カ月」の宣告を受けて、そこから生還した過去があるんです。彼の小説を書くとしたら、その件が中心になると思っていたのですが、そこだけ書いてもいまいち納得できなかった。主人公、つまり小森谷くんの意識をどう描けばいいか掴めなかったんです。

―― なるほど。

中村 他にも大学時代や大学を卒業してからの話も聞いていたのですが、それぞれのエピソードが、最後に向かってどうもうまく繋がっていかないんです。個別のエピソードを繋げるものって、結局主人公の人間性だったり、ものの感じ方であったり、存在そのものですから。

 それに気がついて、「じゃあもう全部書いてしまおう」と思った時、はじめてやれそうな気がしました。そこからは「小中学生時代の話を聞かせてください」「幼稚園時代の話もお願いします」とどんどん年齢をさかのぼってインタビューをしていきましたね。

 そうなると、どんどん資料がたまっていくわけですが、それを眺めながらプロットを作っていきました。

 「小森谷くん」のこれまでの人生を全部書くといっても、いわゆる「伝記」のようにするのではなくて、小説にしたかった。そこで、以前に書いた「男子五編」という作品があるのですが、それと同じように「成長していく男子」といった捉え方で書いていくことにしました。

 そうやって書きはじめたものが、雑誌での連載開始から2年くらいかかってようやく完成したという流れです。

―― 「小森谷くん」に初めて会った時の印象はどのようなものでしたか?

中村 それが本当に普通の人で……(笑)。物腰のやわらかさが印象に残っていますね。本にも書きましたが映画の配給会社で働いていて、かっこよくも悪くもないという、普通の人です。

 でも、幼稚園のころから今までのあらゆる話を聞いて、それを小説として書いてから彼に再会したら、もう見え方がまったく変わっていて。立ち振る舞いがとても優しく感じられました。その日は仕事の日だったからスーツを着ていたんですけど、十年ぶりの友達に会うような気がしてグッとくるものがありました。

―― 彼は、この作品についてどのような感想を持ったのでしょうか。

中村 それが、まだ感想を聞いてないんですよ。でも、不思議と信頼感はあって、おもしろがってくれているんじゃないかとは思っています。

―― 連載が始まってから苦労した点はどんなところですか?

中村 単に半生を全部書こうとすると箇条書きのような小説になってしまうので、本人に聞いたエピソードを小説の中のワンシーンにしながら、なおかつシーンとシーンをうまくつなげようと試みました。それらを配置するのが難しくもあり、おもしろかった点でもあります。

―― 自分の人生ではないですからね。

中村 そうですね。ただ、小説を書くってそもそも人生を書くことですからね、そう考えると、普段書いている小説とさして違ったことをしたわけではないのかもしれません。

―― この小説は「小森谷くん」だから成立したのでしょうか? それとも、すべての人の人生は小説になり得るのでしょうか?

中村 「普通の人」「普通の人生」など、「普通」という言葉で丸められているものも、丹念に追いかけてみると、普通じゃない、おもしろいものが見えてくると僕は思っています。だから、「小森谷くん」じゃない別の人をモデルに小説を書けるかといったら、多分書けるのではないでしょうか。

 ただ、もちろん僕に全てできるわけではないと思います。人と人の相性もありますし、どうやって小説にするかも人によって変わってくるはずですから。

願わくば世界が少し優しく見えるような小説を書きたい

11月公開「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」原作者にインタビュー 中村航さん

―― 中村さんといえば、2013年に刊行した『デビクロくんの恋と魔法』の映画化も話題です。今年11月公開ということですが、もうできあがった映像はご覧になりましたか?

中村 まだ見てないんですよ。もう少ししたら見られるのではないかと思います。

―― キャスティングが原作のイメージにぴったりですね。

中村 そうですね。デビクロくん(主人公の分身)が生まれたのが12月24日なんですけど、その役の相葉雅紀さんも12月24日生まれなんですよね。偶然なのですが、面白かったです。

―― デビクロくんもそうですが、中村さんの小説には、優しくて、少し気弱な男性が主人公になっていることが多い気がします。

中村 男性を主人公にする時、丁寧でやさしそうな子を書くことは、確かに多いです。反対に、ロックンロール! みたいな人を書くこともある。『デビクロくんの恋と魔法』の主人公は、「デビクロくん」として活動する時は「闇の化身」、「書店員」として働いている時は子供に優しく、丁寧に生活することを心がけているような人、という極端な二面性があります。僕の小説を読んでくれている方にとっては、どちらも馴染みやすいキャラクターなのではないでしょうか。

―― 中村さんの小説は、読んだ後に心がすこしほぐれて温まったように感じられるのが特徴的です。ご自身にとっての小説の理想像がありましたら教えていただければと思います。

中村 読み終わった後に世界がクリアに見えるような作品ですかね。願わくば世界が少し優しく見えるような小説を書きたいと思っています。

仕事をやめて退路を断ち、小説家を目指す

11月公開「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」原作者にインタビュー 中村航さん

―― 小説を書き始めたきっかけがありましたら教えていただけますか?

中村 やることがなくなったから、というのが正直なところです。ずっとやっていたバンドが解散することになって、そうすると本当にやることがなかったんですよ。

 当時、友達がみんなアメリカに行くだの実家に帰るだの、アルバイトから正社員になるだのと、ちょうど変化の大きい時期でした。それとバンドの解散が重なって友達が散り散りになってしまうような時で、「俺これからどうしようかな?」という話を友達にしたら「小説を書いてみたら?」と言われたんです。半分冗談だったと思いますけどね。

 でも、その時に小説の新人賞というものがあるらしいという話を聞いたんですよ。当時27歳くらいだったのですが、新人賞を取れば小説家になれるんだと知って、じゃあやってみようかなと思ったのがきっかけです。

―― デビューしたのは河出書房新社の文藝賞ですから、かなり枚数を書かないといけません。初めて小説を書く人にとってはかなり大変だったのではないですか?

中村 本腰を入れて書くとなった時に、それまで勤めていた会社を辞めてしまったんですよ。そうやって、書かなきゃいけない状況に自分を追い込みました。

 最近、デビュー作も含めて昔の作品を読み返す機会があって、古いものから順に読んでいったんですけど、恥ずかしいというか何というか、すごく下手ですし、よく賞が取れたなと(笑)。

―― やはり今振り返ると下手に思えるものなのですね。

中村 まあ、そうなのかもしれないですね。ただ、何と言いますか、変な感じというか奇妙な雰囲気は出ているし、勢いというか、迸るものがある。今ではもう決して書くことができないのは確かです。小説の評価って難しいと思うのですが、『リレキショ』を選んでくれた人はすごいと思う。勇気もある(笑)。

―― 中村さんが人生に影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。

中村 まずは『あしたのジョー』です。小学5年生くらいの時に読んだのですが、ストーリーもので初めて熱中した漫画だったと思います。

 2つ目は下村湖人さんの『次郎物語』。これは第一部から第五部まであって、幼稚園の時の話から、小中学校、高校とだんだん次郎が成長していって、第五部で未完で終わっているのですが、これは『小森谷くんが決めたこと』の作り方にも繋がっています。やはり小学生時代に何度も読んだ本で、当時は自分の年齢と近い第一部と第二部がおもしろかったのですが、今読むとまた違った感想があると思いますね。

 最後は『哀愁の町に霧が降るのだ』です。これは椎名誠さんの自伝的小説で、現代のエッセイと青春時代の回想がいったりきたりするという、ちょっと変わった構成になっています。

 僕が高校2年生くらいのときにブルーハーツが出てきたんですけど、初めて聴いた時に「こんなんでいいんだ!」って思ったんです。簡単なコードを掻き鳴らしてシンプルなメロディを歌う。この本を読んだのは、ちょうど小説を書こうと思った時期だったのですが、パンクロックを初めて聴いた時の衝撃と似ていました。

 自分が面白かったことをそのまま書いているだけなのに、ものすごくおもしろい。「これなら俺にもできるかもしれない」と思えたんです。

―― 最後になりますが、中村さんのご本の読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。

中村 昔から僕の本を読んでくださっている方には感謝の言葉もありません。最近初めて読んでくださった方も、ありがとうございます。すごくうれしく思っています。

 いつも小説を書く時は、普段あまり本を読まない人にも読んでほしいと思っているのですが、小説って読んでみると意外とおもしろいんですよ。今回の『小森谷くんが決めたこと』も『デビクロくんの恋と魔法』も、みなさんが「小説の面白さってこのくらいでしょ?」と思っている、それよりももうちょっと面白いと思います(笑)。よかったら、ぜひ読んでみてください!

(インタビュー・記事/山田洋介)

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