本屋探訪記:南池袋「天狼院書店」は巻き込み型本屋さん

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は東京・南池袋にある「天狼院書店」を紹介。

» 2014年08月24日 09時00分 公開
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きっかけはブログから

 知ったのは1年前。チェーン書店を辞めて新しい本屋を創ろうと息巻いている人のブログがFacebook上でシェアされていた。

 これが凄かった。天狼院書店という名前のブログには今の出版業界に対する不満と、「自分ならこうする」という思いが吐露されていて、その熱量に僕は驚いた。

 書店員だった人が現状に不満を感じて自分の店を開くことはあるし、僕もそうした本屋を何店か知っている。ところが、その不満を言葉にして、十分な準備を行い、さまざまな人を巻き込み、出版界に一石を投じ、その過程をオープンにしていたことに驚いたのである。

 CAMPFIREというクラウドファンディングを利用したり、Twitterやブログを駆使したり、棚を貸したり一緒につくったり。Webとリアルをバランス良く利用して将来お客さんになる人を開店前から巻き込んでいる。「今、新刊書店をつくるならこうやる」というひとつのモデルケースになり得ると思うのだ。

 天狼院書店がある南池袋は通勤圏内だったこともあり、プレオープン時からグランドオープンまでの間に3回も足を運んだ。以下は2013年9月26日の記録である。

天狼院書店関連のリンク


お客さんといっしょにつくる本屋さん

 通常、新刊書店は棚を介してお客さんとコミュニケーションする。常連ともなれば話すこともあるだろうが、基本的にコミュニケーションは本棚を介してだ。どの本が売れた、どの本を立ち読みしていた、そういった情報から本屋はその土地に合った品ぞろえにチューンナップしていく。

 天狼院書店の面白いところはそれを前面に押し出していることだ。店主とお話させて頂いたとき「オススメの本や欲しい本を積極的に教えてほしい」と仰っていた。昔ながらの個人経営の本屋ならともかく、新しくできた本屋でこれは珍しい。店主の個性が全面に押し出されたセレクトショップ的品ぞろえではなく、開店時から「お客さんといっしょに」という本屋は珍しい。

天狼院書店の2つの柱

 そんな天狼院書店には大きく分けて2つの特徴がある。「READING LIFE」「貸し本棚」の2つである。ひとつずつ説明しよう。

 「READING LIFE」は、天狼員書店の店員がお客さんの読書ライフ(READING LIFE)に寄り添い本を紹介する活動。プレオープン時に好きな作家や雑誌を紙に書かされたのだが、それで購買情報を共有しつつお客さんのREADING LIFEをより充実したものにしようという活動である。これはいわゆる定番書籍を発見・提案していく活動で、開店前から各地の本屋さんで活動していたようだ。唯一の純粋なプッシュ型活動である。

 「貸し本棚」はCAMPFIREで1万円以上出資した人にロッカー式の本棚を3カ月間貸し出すサービス。面白いのは、使用方法が自由なこと。古本を売るのはもちろん、雑貨を置いたり、取り置き棚にしてもいい。物置に使っても良いのである。近くの本屋さんにこんなサービスがあれば良いと思っていた。素晴らしい!

空間の魅力

 天狼院書店は空間としての魅力も素晴らしい。

 まず店の壁半分がガラス張りで開放感があって居心地が良い。そしてカウンター席とソファ。ふらっと立ち寄ってコーヒーを飲みつつ本に囲まれながら作業するなんて夢のような時間を過ごせそうだ。

 入って目の前は「黒船来航」という平台。何と台の下に黒い船部分があるという作り込みようである。

天狼院書店で見つけた読みたい本6冊

 さて、肝心の本はというと実用書をメインに古典作品もしっかり。写真やアートの本も若干ながら揃えられているのがうれしい。そんな中からぼくが読みたいと思ったのは本がこれだ。

  • 『影響力の武器』
  • 『レ・ミゼラブル』
  • 『舟を編む』
  • 『売れる商品写真』
  • 『デザインフル・カンパニー』
  • 『スタンフォードの自分を変える教室』

一緒につくっていきたい本屋さん

 天狼院書店はまさに“巻き込み型本屋”なのだと思う。店側とお客さんが開店前・後でお店を一緒に作り上げていく。文化拠点として地域に必要とされながらその利益率の低さからなくなっていく本屋のこれからのやり方。そのひとつを天狼院書店は提示しているのだ。

 天狼院書店はまだ始まったばかりである。お客さんを巻き込みながらこれからどんどん変わっていく。グランドオープンには1日店長として木暮太一さんが来られていたし、天狼院ライブというイベントもやっていくようだ。

 自分も縁あって巻き込まれた。何かしら面白いことができればこれほど嬉しいことはない。ここに行けば何かしら面白いことが起きそうな気がする。小まめに通いたいお店である。

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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