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» 2014年08月19日 15時30分 UPDATE

あなたは知っていますか? 深くてゆるい「ご当地パイ」の世界

「うなぎパイ」を代表とする、日本全国のお土産物として販売されているご当地パイ。今回は、全国約の「ゆるパイ」を集めた書籍を出版した作家・エッセイストの藤井青銅さんにお話を伺いました。

[新刊JP]
新刊JP

 夏休みの旅行シーズンまっただ中。旅先で何をお土産にしようか悩んでしまったら、ちょっと注目してみてほしいお菓子がある。それはその土地の名産品とコラボした「パイ」――いわゆる「ご当地パイ」だ。

 ご当地パイといえば、浜松市の「うなぎパイ」を思い出す方も多いだろうが、実はこの手の「パイ」が日本のいたるところにある。その中には思わず「えっ」と思ってしまうパイや、まるで味が想像できないパイもあり、よく見てみるととっても「ゆるい」のだ。

『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』著者の藤井青銅さん 『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』著者の藤井青銅さん

 そんな、ゆるい「ご当地パイ」を一堂に集めたのが『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』(扶桑社/刊)だ。 作家・エッセイストの藤井青銅さんが日本全国から集めた「ご当地パイ」約200を掲載。そのうち、実際に120パイ弱を食べ、94パイを写真つきで紹介している。

 今回、新刊JPは「ゆるパイ」の第一人者ともいうべき藤井さんにお話をうかがうことができた。どんな「ゆるパイ」のエピソードが飛び出すのだろうか?

(新刊JP編集部/金井元貴)

全国に散らばる「ご当地パイ」、その数何と200!

―― まず驚くのが「ゆるパイ」というネーミングです。「ゆるキャラ」という言葉は広く定着しましたが、「ゆる」の波がまさか「パイ」に向かうとは思いませんでした。この「ゆるパイ」の定義から教えていただけますか?

藤井青銅さん(以下敬称略) 分かりやすく言うと、全国にある「うなぎパイ」(浜松市/春華堂/書籍14ページ)のようなパイですね。そのご当地の名産品を素材にしたお土産向けのパイ菓子と考えていいと思います。文字にしてしまうとちょっとニュアンスが伝わりにくくなるのですが。

―― この本には94種のパイ菓子が写真付きで、文字だけの紹介を含めると約200種のパイ菓子が網羅されています。まずその数に驚きましたし、その数のパイを集めてしまう藤井さんにも驚きです。

藤井 皆さん驚かれますね。何個かは知っているけれど、全国探すとこんなにあるのか、と。でも、何箇所かで発見したら、それは全国にも広がっていると考えられるし、人からお土産としてパイをもらうこともありましたから、何かにおうなと思うじゃないですか。そうして各地のパイを集め始めて、集めたら分類して、分析したくなる、さらに頼まれてもいないのに、提言をする。そこまでが僕のフルコースなので(笑)、自分の中では、それをやっただけという感じですね。

―― 約200種のパイの中で、実際に藤井さんが食べたのは……

藤井 だいたい120パイ弱ですね。でも、本のページ数の都合上で、全部入りきらず、さらにコラムも載せようという話もあったので、詰め込んで詰め込んで94パイという結果になりました(笑)。

 泣く泣く外したパイの中には、販売元から掲載許可が下りなかったものもありましたよ。

―― そんなパイもあるんですね(笑)

編集担当・新保 「うちのパイはゆるくないので」という理由で断られることもありました(笑)

藤井 そのパイを製造しているところは、地域では有名な老舗の会社でしたから、名前を聞くと「それは仕方ない」と思うはずですよ。

―― 一件一件、掲載許可を取っていかれたんですね。

藤井 そうなんです。編集の新保さんが各企業に連絡して「掲載してもいいですか?」と聞くのですが、その中にはものすごく小さな会社だったり、地元の洋菓子店さんが作っていたりするケースもあって、「お金を払わないといけないのですか?」と聞かれることもありました。

―― そのくらいローカルなパイも網羅しているということですね。

藤井 そういうことになりますね。

気になる「ゆるパイ」の味、どうなのですか?

―― 「ご当地パイ」と聞いて、最初に思い浮かぶのはやはり「うなぎパイ」。そして、本書の中で、数ある「ゆるパイ」のトップを飾るのも「うなぎパイ」でした。

藤井 これはもう、仁義を切らないといけないところでしょう。元祖ですからね。もし「うなぎパイ」の会社にNGを出されたら、この企画が成り立たなくなってしまいます(笑)

―― 巻頭では「うなぎパイ」を製造している工場の様子が紹介されていますね。

藤井 はい、見学に行ってきました。外から工場を見るだけなのかなと思っていたのですが、実際に中に入って、製造過程を間近で見せていただきました。非常によくしてもらいましたね。

―― 「うなぎパイ」に「秘伝のタレ」があることは初めて知りました。

藤井 そうなんですよね。しかもタレをつくるためのレシピを知っている人は、製造元の春華堂さんの中でも数人しかいないらしく、本当に「秘伝」なのだそうです。

―― 藤井さんが「うなぎパイ」以外で初めて見たパイはどれですか?

藤井 自分で見つけたのは、もう今から20年くらい前になりますけれど、名古屋の「きしめんパイ」(名古屋市/青柳総本家/書籍84ページ)です。人からいただいたものだと、秋田の「はたはたパイ」(横手市/木村屋商店/書籍25ページ)。この2つから新鮮な驚きを感じて、そんなパイがあるんだというのがずっと僕の中にあったんです。

 それから時が経って、4年前くらいから少しずつ集めはじめました。

―― 20年越しに完成した『ゆるパイ図鑑』だったわけですね。どのパイも食べてみたい! と思うのですが、実際に食べられてみて、味の総評はいかがでしょうか。

藤井 公式的には、もちろんすべておいしいし、すべてゆるい。ただ、本音を言うと、味について話すのは実は結構難しいんですよ(笑)。例えば、魚介系には「はも」(京都)、「さわら」(岡山)、「ふぐ」(下関市/長州ほがや/書籍23ページ)などのパイがありますが、もともと淡泊な味ですからね。“ききパイ”なんかをしたら、味だけでは意外と分からないかもしれない。

―― 確かにそうなるかもしれません(笑)

藤井 でも、そういったところも含めての「ゆるパイ」なんです。先日、あるラジオ番組に出演したときに、「松阪牛パイ」(鳥羽市/丸愛/書籍56ページ)を食べてもらって感想を聞いたのですが、「そこはかとなくビーフの味がするようなしないような……」と言われたんですね。そして、ここから話が盛り上がったんです。

 お土産は、まずその存在自体で盛り上がれますよね。そして食べてみて、おいしいと盛り上がるし、そんなに……というものでも盛り上がる。ものすごく不味くない限り、コミュニケーションのきっかけになるなら、味がしてもしなくてもいいとわたしは思うんです。

―― そうですよね。わたしもこの本を読んでいたときに、東京土産の「東京ばな奈」にパイがあるんだと思って、すぐ隣のデスクの同僚に「こんなのあるんだよ」と教えました。

藤井 それは「東京ばな奈パイ『見ぃつけたっ』」(杉並区/グレープストーン/書籍87ページ)ですね。菓子の中に菓子がある、いわゆる“菓子in菓子”。なおかつ、そもそも東京とバナナは何も関係がない。なぜ見つけてしまったのか。そう突っ込んでいくと、パイって何でもアリなんですよね。お菓子ですらパイにできるのですから。

ミュニケーションのツールに、地域活性化に……「ゆるパイ」の魅力とは!?

―― 8月3日まで「全国ゆるパイ展」という前代未聞の「ご当地パイ」展示会を渋谷ヒカリエで開催されていましたね。藤井さんはキュレーターをされていらっしゃいました。

藤井 10日間で10000人以上の方にお越し頂きまして、「そんなに日本人はパイが好きなのか」と思いました(笑)。そこでは、30種類くらいのパイを売っていたのですが、やはりちょっと変なパイから売り切れるんですね。「むつごろう入りパイ 干潟あそび」(佐賀県鹿島市/夢創庵中村屋/書籍26ページ)とか。バラ売りがすごく好評でしたね。

 また、「どじょうパイ」(松江市/中浦食品/書籍19ページ)も初日で売り切れました。このパイはいわくつきで、パッケージが「うなぎパイ」とよく似ているんです。

 このパイをつくっているメーカーは島根県内でも有名な菓子メーカーなのですが、ホームページには「どじょうパイ」が載っていないんです(*オンラインショップには掲載)。でも、今回の企画にご協力いただけましたし、すごく人気が高くて、売れ切れだと聞いてショック受ける方や、「どじょう好きなんですよね……」とおっしゃる方もいました。すごく不思議なパイです。

『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』著者の藤井青銅さん 『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』著者の藤井青銅さん

―― また、「全国ゆるパイ展」のトークイベントに、「ゆる」文化の研究をされている方がいらっしゃったそうですね。

藤井 そうなんですよ。宮崎国際大学で教授をされている米国の方なのですけれど、非常に日本語が堪能で、「ゆる」文化についての論文も書かれているそうです。その後、その方とメールをやり取りする中で「わび、さび、もえの次は“ゆる”ですか?」と書いてみたら、相手から「そのキャッチコピーをいただけますか?」と返信がきて(笑)。

 確かに「ゆる」という概念は面白いですよね。若者文化の中にも「ゆる」が根付いているように思いますし、エンターテインメント業界にも、昔ほどきちっと作っていなくてもいいというところで「ゆる」が浸透しているようにも思います。

 「ゆるさ」を笑えること、いじれることって、余裕がないとできないことですから、日本の文化が高くなっているということにもつながるのではないでしょうか。

―― 藤井さんが考える「ゆるパイ」の魅力について教えていただけますか?

藤井 まずはコミュニケーションのツールになりますよね。お土産として買ってきて、職場や友達に配って、食べてもらって、味がしてもしなくても盛り上がる。それに、パッケージを見ても盛り上がる。話題を提供してくれます。

 また、企業の視点でいえば、地方でありながらも全国制覇ができるツールです。僕はこれを「パイ・ドリーム」と呼んでいるのですが、「うなぎパイ」は浜松のご当地パイながら全国に名が知られていますよね。こうしたレベルのパイが日本にもう2つ、3つ登場すると、日本経済を支えられるのではないかと思います(笑)。九州北部か広島あたりに一箇所、あとは新潟か東北あたりに一箇所あってもいいですね。全国レベルでヒットしているパイがあって、そこで工場見学ができたり、楽しめる要素があれば、地域経済の活性化にもつながりますよ。

―― まさに「パイ・ドリーム」ですね(笑)

 少し話は変わるのですが、「日本ゆるパイ愛好学会」というFacebookページで、この本をつくっている段階からその本作りの過程を見せるという試みをされていましたね。すごく新鮮でした。

藤井 この本に限ったことではないのですが、打ち合わせがあった、デザインが決まった、というような出版の過程を皆さんに晒して、楽しんでもらいたいと思っているんです。

 それは、実はラジオでそういう作り方をしてきたところがあって、「こういう風になっています」と報告したり、「ハガキはまだ間に合います!」と呼びかけたりして、途中の過程を見せながら、双方向でコミュニケーションができるようにする。そうすると、リスナーが参加意識を持ってくれて、例えば番組からCDを出すときもそれを買ってくれるんです。自分たちも一緒に作ったという空気があるから。

 特に今はFacebookをはじめとしたSNSが出てきましたから、以前に比べてその過程を見せやすくなりましたね。

―― そういった面も含めて、藤井さんの発想はものすごく魅力的です。どうしてこんなに面白いことを見つけられるのだろうと思うのですが、普段気をつけていることはあるのでしょうか。

藤井 僕自身はそれが普通だと思っているから、意識していることはないですね。「ゆるパイ」についても、こうしたパイが2、3個あることを知り、「これは何かにおうぞ」と思って探してみたらたくさんあったということですから。

 実は結構面白いことって世の中にたくさんあるんです。ほとんどの人が「うなぎパイ」を知っているはずですし、ご当地パイも1つか2つは知っていると思いますが、そこから関連付けて膨らまそうとするところまではなかなかいかないですよね。それが大きな違いなのかもしれません。面白そうなことをつかんだら、ふくらましてみる。そう思いながら、キョロキョロと野次馬のように顔を出せば、面白いことが見つかるのではないかと思いますね。

―― 最後に、この本をどのようなときに読んでほしいですか?

藤井 これは夏休みの旅行のお供にしていただくと嬉しいですね(笑)。また、自由研究のネタにも使ってみてください(笑)

―― この本で気になったパイに会いにいくのもいいですよね。

藤井 そこまではしなくてもいいけれど(笑)、旅行のときに何かウケのいいお土産がないかなと思ったら、パッと開いて探してみるといいと思います。

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