本屋探訪記:新しい小商いをはじめよう 松陰神社前「nostos books」

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は東京・世田谷の松陰神社近くにある「nostos books」を紹介。

» 2014年08月02日 13時30分 公開
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nostos booksのリアル店舗が開店だって?

 驚くべきニュースはFacebookからやってきた。知人がFacebookページに「いいね!」をつけていたことで知ることになった「nostos books」。定期的に流れてくる入荷の投稿が面白かったので注目していたネット本屋だった。

 ある日、いつものようにFacebookのタイムラインを眺めているとnostos booksがリアル店舗を開店するという。これは行くしかない。行かなければ本屋好きとしての名が廃る。

 そういうわけでプレオープン日の8月11日にお邪魔することにした(以下は2013年8月11日の記録だ)。

"昔ながら"と若者が良い感じに混ざった商店街

 nostos booksがあるのは、世田谷・松陰神社近く。東急世田谷線の松陰神社前駅が最寄りとなる。

 店主のブログによると、ここの商店街の雰囲気が気に入ったのだという。昔ながらの八百屋さんがあったり、かと思えばオシャレなカフェがあったり。歩いてみると確かに良い雰囲気。こんな場所を見つけた店主に興味を引かれた。

下北沢カフェ的感性の古本屋

 そんな商店街の中にnostos booksはある。全面ガラス張りの入り口の向こう側に見えるのは古い町屋風のオシャレな店内。店舗の造作は本棚など難しい場所を除いて基本的に手作りだという。

 居心地が良いのは店主の愛情がこもっているからだろうか。下北沢辺りにありそうな小さいけれど落ち着けるカフェのような雰囲気だ。

ブックデザインをしたい店主の戦略

 取材の前にレジに購入本を持っていき挨拶をする。まるで久しぶりにあった知人のような反応。お知り合いでしたっけ? と思ったら店主が僕のサイトを知ってくれていた。これは本当に嬉しく、挨拶ついでに少しお話することに。

 話によるとデザイナーをやりながらネット本屋をやって1年。元からリアル店舗もやりたかったようでこの松陰神社の店舗はその念願を達成したものらしい。

 ここで面白いのがブックデザインをすることが店主の目標であること。本屋をやっているデザイナーとなればそういう依頼も来るだろうという狙いがあるのだ。何という戦略眼!

nostos booksで見つけた読みたい本6冊

 そんな店主だからさぞデザイン系の本が多いのだろうと思っていたら予想を裏切る幅広いラインアップ。話を聞いてみるともう一人。こちらもデザイナーの女性店主がいるらしい。幻想文学が好きだという彼女と二人での選書だからこそ過度に専門的にならず入りやすい品ぞろえとなっているのだろう。

 取材中も、いろいろ読んでみたい本、思わず手にとってしまった本などたくさんあったのだが、その中からオススメしたい6冊を紹介しよう。ここでは紹介していない写真集などビジュアル重視の本も多いのだが意外と読み物も多いのだ。

  • モーリス・センダック『かいじゅうたちのいるところ』
  • 佐野衛『書店の棚 本の気配』
  • 長田弘『本についての詩集』
  • 『花椿ト中條』
  • 『澁澤龍彦集成』
  • 稲垣足穂『一千一秒物語』

オシャレだけど商店街の雰囲気にマッチしたハイブリッド書店

 nostos booksに行って感じたことは「小商い」の考え方である。

 規模を追い求めず地に足のついた、でも、新しいやり方で生きていくための仕事。リトルトーキョーやグリーンズなど新しい働き方でキーワードになる考え方だ。

 実は足を運ぶ前まで、デザイナーが開いた古本屋だというから良くも悪くも尖った雰囲気と品ぞろえのお店だろうと思っていたのだが、全くそんなことはなく、確かにオシャレだが柔らかい雰囲気で商店街ともよくマッチしていた。当日はあいにくのゲリラ豪雨に見舞われたがそれでもたくさんの人がお店に来ていた。取材中にご近所のおじさんが店主と話していたほどである。

 「出会い系本屋」を標榜するスノウショベリングのようにここには出会いがある。若者が来たくなるような魅力と地元の人にも愛される気取らない雰囲気。もしかして「これからの街の本屋さん」のヒントはここにあるのではないだろうか。

 nostos booksの今後に期待したい。

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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