本屋探訪記:情熱でつくる自費出版物 都立大学「MOUNT ZINE shop」

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は東京・都立大学駅にある「MOUNT ZINE shop」を紹介。

» 2014年07月26日 13時00分 公開
[wakkyhr,eBook USER]

 6月23日に行った本屋巡りでは面白いところに行った。「SUNNYBOY BOOKS」や「リズム&ブックス」など、若い店主による個性的な、もしくは新しい街の本屋さんとでもいうような本屋さんを回った。

 今回紹介するのはその中でもとびきりの変わり種「MOUNT ZINE shop」である(以下は2013年6月23日の記録だ)。

そもそもジンとはなんぞや?

 「MOUNT ZINE shop」は“マウントジンショップ”と読むジンの専門店だ。

 え? ジンって何か分からないって?

 ジンとは個人による小規模の出版物である。全共闘世代に流行ったリトルマガジンとも違う自己表現の1つとしての出版物、それがジンである。名前の由来はマガジン(magazine)のジン(zine)。手軽な雑誌とイメージしてもらえば良いだろう。

 だから、猫が好きな人はひたすら猫のことを。ゴスロリが好きな人はゴスロリのことを。旅の記録を書く人だっている。形式だって自由だ。家庭のプリンターで印刷したものをホチキス留めしただけのものから、印刷所でしっかり印刷されたこだわりあふれるものまで。情熱と財布の相談によって生まれる紙媒体のケミストリー。それがジンなのである。

若い人ほど紙が好き

 そんなジンは5、6年前から密かなブームだったりする。出版業界がシュリンクし始めてから早20年。ネットで何でも手に入るからこそあえて「紙」で自己表現しようとする者が増えているのだ。

 興味深いのが、若い人ほど紙の本を魅力的だと思っていること。サンプル数が少なすぎるとか、偏りが強いとか、結果それ自体に関する批判はあるだろうが、国際ブックフェアに来るような本好きの若い人にそういう人が多いということは個人的に納得できる。

 僕の周りには紙本が好きな人、電子書籍が好きな人、両方が好きな人。そのどれもがいるが、若い人で「本好き」と言っているような人はおしなべて紙で読むことが好きな気がする。ページをめくるあの感覚が良いのだろうか。それとも手にとって見れることが良いのだろうか。電子雑誌に拙文を寄せ、モノ好きで古本屋を開業したいぼくからすると、どちらにもそれぞれの良さがあると思う。

 しかし、プロダクトとして紙の本を出版することの面白さは確かに存在すると思う。そう思うからこそ僕も「Cannes Lions2013の雑誌を作る夏プロジェクト」を企画したのだし、自費出版にも興味があるのだ。同じように思う人がたくさんいるからこそ「ジン」が人気なのだろう。情報を発信するだけならブログやSNSで事足りるのだから。

意外と少ないジン専門店

 ネットが浸透したからこそ注目されてきた紙出版という行為。では、その行為を下支えするような流通は存在するのだろうか。調べてみるとこれが意外と少ない。代官山蔦屋書店やUtrecht(ユトレヒト)のように幾つかジンが置かれている店はあるが、専門店はといえば、大阪にあり今はもう実店舗は閉じてしまった「Books DANTALION」と「MOUNT ZINE shop」くらいなのだ。

場所は都立大学駅から徒歩10分 閑静な住宅街の中

 数少ないジン専門店である「MOUNT ZINE shop」は、都立大学駅から徒歩10分の場所にある。雰囲気の良いカフェが点在し緩やかに人が歩いている居心地の良い土地だ。そんな中に古い民家を改装したような雰囲気のある建物が突如として出現する。そこが「MOUNT ZINE shop」だ。

Horta(オルタ)とはらぺこめがねとMOUNT ZINE shop

 中に入ると、アンティークの販売スペースや事務所も視界に入る。ジンの専門店なのだと思ったので驚いた。

 その後、メンバーに話を聞く機会があった。どうやらジンが「MOUNT ZINE shop」。アンティークが「Horta(オルタ)」。事務所が「はらぺこめがね」というイラストレイターのアトリエとなっており、3つのユニットが関わっているらしい。志を同じくする仲間が集まって維持しているひとつの場なのだ。ここは。

 さらに話を聞いてみると、MOUNT ZINEはプロジェクト名で、その固定店舗として「890」という場の一部にオープンしたのが都立大学駅にあるここなのだそうだ。

 場を必要と思った仲間がやり方は違えどひとつの場を協力して作りだし共有する。Web全盛の時代にあえてリアルな場をつくることの新たな可能性を感じた。

半年ごとに総入れ替えのジン

 先に「MOUNT ZINE」はプロジェクト名と書いたが、この890の一部を拠点にイベントやワークショップを企画して、ジンという文化を広げようとしているらしい。ジンを一緒に作ったり、海外に日本のジン文化を紹介したり。890の中の店舗はそのアンテナショップのような位置づけのようだ。

 MOUNT ZINE shopを訪れるにあたってひとつ注意しておきたいことがある。半年ごとに店の展示が変わるのだ。半年後に店を訪ねたら違うジンばかりになっているということである。ジンはただでさえ少部数。欲しいジンが見つかった人はぜひその場で買うことをお勧めしたい。

 この素敵空間で個人の情熱あふれる自費出版物=ジンを楽しんでほしい。そして、あなたも作ってみたらよいのだ。初期衝動のままにつくれる手軽さがジンの一番の魅力なのだから。

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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