DNPと凸版ブース、それぞれの最新展示をチェック東京国際ブックフェアリポート

東京ビッグサイトで開催中の「第21回 東京国際ブックフェア」。国内の2大印刷会社、大日本印刷と凸版印刷ブースで参考展示されているものとは。

» 2014年07月03日 21時00分 公開
[西尾泰三,eBook USER]

 7月2日から5日まで、東京ビッグサイトで開催されている「本」に関する見本市「第21回 東京国際ブックフェア」。

 今年の東京国際ブックフェアでは、国内の2大印刷会社、大日本印刷(DNP)と凸版印刷が、今回のブックフェアのテーマ国となっている「マレーシア」ブースを挟んで並び、さまざまな展示を行っている。ここではそんな両社のブースから目新しいものを中心にみていこう。

大日本印刷ブース

 DNPブースでハードウェア的に注目したいものは大きく2つ。1つは、昨年のブックフェアでも展示していた「honto pocket」だ。

honto pocket honto pocket

 honto pocketは、ドイツのtxtrが開発した低価格の小型電子書籍端末「txtr Beagle」をベースにしたもの。単三電池2本で動作する5インチの電子ペーパー端末だ。

honto pocket 操作はすべて物理ボタンで行う

 txtr Beagleは割り切ったユニークな仕様が登場時にちょっとした話題となり、昨年のブックフェアでhonto pocketとして展示された際も少し注目されたが、結果的にはこの1年リリースされることもなく、多くの人がその存在を忘れかけていた。

 しかし、今回展示されていたhonto pocketは、通信機能なども備えない極めてシンプルなもの(DNPが独自に開発したという)で、年内に発売予定だという。

 honto pocketは、あらかじめ電子書籍を入れた状態で販売される売りきりの商品となる見込み。全集などを入れて書店などで販売することが想定されているほか、災害時などでネットや電力が断たれた際に必要な情報を得られる“情報の救急箱”のような企画商品も展示されていた。

honto pocket honto pocketと救急用具などをセットにした「LIFE BEST」も参考展示されていた

 もう1つは、DNPがQuanta Computerと共同開発したカラーマネジメントLSI搭載のオリジナルタブレット。8インチと10インチのAndroid端末が参考出展されている。

 ノートパソコンやタブレット端末の製造受託大手であるQuanta ComputerとDNPがカラーマネジメント用LSIの共同開発を発表したのが約1年前の2013年6月。それが搭載されたタブレットがようやく出てきた格好だ。

 専用LSIの搭載により、色調やコントラストの調整、そしてブルーライトまでカットでき、これまでDNPが培ってきた「色」へのこだわりと技術が画面の見やすさとして反映されるという。これらの技術は電子書籍にとどまらず、デジタルサイネージ領域でも活用されるとみられる。

参考展示されていたQuanta Computerのタブレット。左が補正なし。右が補正あり。右の方が自然な色合いになっていることが分かる。専用LSIには英Apicalのダイナミックレンジ圧縮アルゴリズム(トーンマッピング)が搭載され、映像のコントラスト補正をリアルタイムに行うことも可能

 このほか、セイコーエプソンが発売するスマートグラス「MOVERIO BT-200」を使ったハンズフリーな読書デモも行われているが、こちらは楽天Koboが1月に発表しているものと大きな差はない。快適なユーザー体験が得られるようになるまではまだしばらく時間が掛かるだろう。

凸版印刷ブース

 一方、凸版印刷のブースでは、先日TSUTAYAとの戦略的パートナーシップに基本合意したBookLive!関連の展示をはじめ、幅広いソリューションが展示されている。

Wi-FiスポットからBookLive!の電子書籍などを楽しめる「BookLive! SPOT」のデモも

 BookLive!ブースではすでに発表されている以上の目新しい情報はなかったが、取り組みの一部として発表されているAirBookのイメージ動画が入手できたのでこちらで紹介しよう。

 電子書籍関連では、凸版印刷が電子媒体向けに新たに開発しているオリジナルの新書体「凸版文久体」が、すでにリリース済みの本文用明朝体(凸版文久明朝 R)に続き、細ゴシック体(凸版文久ゴシック R)が参考展示されていた。ほぼ予定通りの開発ペースとなっている。

 9月からはモリサワフォント製品として発売していくことも発表されており、これから本格的な利用が進みそうだ。

凸版文久ゴシック Rの展示(クリックで凸版文久ゴシック Rの拡大画像に)

 変わったところでは、専門書のリフロー型EPUB制作サービスも展示されている。これは、数式や化学式などの要素が多く、フィックス(固定レイアウト)型のEPUBで制作されることが多い専門書などでもリフロー型EPUBで提供しようとするもの。数式や化学式の部分は画像化された状態だが、小さな画面でも読みやすいようにするための制作側の整備も進みつつあるといえる。

 なお、凸版印刷は7月2日に楽天傘下で電子出版ソリューションを手掛ける仏Aquafadasと連携し、同社の電子出版システムである「Aquafadas Digital Pubulishing System」を活用したリッチコンテンツの制作サービスの提供も始めており、幅広い制作ニーズに応えようとしている。

 こうした制作支援のソリューションの一方で、同社の考えるマイクロコンテンツビジネスのプロトタイプも幾つか展示されている。昨年展示され、この3月にサービスインしている「中吊りアプリ」で同社はマイクロコンテンツの制作・配信ラインを社内に整備しているが、今回は、グラビア写真集のコンテンツを活用した「口説く写真集」なるものが参考出品されている(中吊りアプリ同様、バンダイナムコグループのVIBEとの共同企画)。

参考展示されているAndroidアプリ「口説く写真集」

 これは、雑誌のグラビアページやグラビア写真集などの素材を用い、アイドルとのチャットアプリ的なユーザーインタフェースの中で、それらのコンテンツを提供するもの。ボット(機械による自動発言システム)機能によりアイドルと会話している感覚で、ときに画像などがふいに送られてくるような仕掛けとなっている。グラビアページを持つ雑誌の出版社などとともに、こうしたマイクロコンテンツの活用を図りたい考えだ。

 ここでは目新しいものに絞ってお伝えしたが、両社ブースではこのほかにも電子図書館ソリューションをはじめ、さまざまな展示をみることができる。ブースに足を運んで両社の広範な取り組みをみてみるとよいだろう。

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