電子書籍の価格:無料の何が問題なのか?

» 2014年05月26日 11時28分 公開
[Mercy Pilkington,Good e-Reader Blog]
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 出版社が自社コンテンツの有力なビジネスモデルとして電子書籍を前向きにとらえ始めると、次の大きな議論はそれらの価格づけをどうするかというところに移った。価格に関連する消費者行動をつかむべく多くの研究と調査が行われ、結果として幾つかの論理的なガイドラインが示された。

 出版社と著者を激怒させているのは無料電子書籍のコンセプトだ。消費者が無料の価格づけについて考える場合、一般的な認識がネガティブな見方に傾く懸念がある。結局、著者が作品に対する金を欲しがらないとして、それがどれほど良くあり得るのか、ということではないだろうか。

 一方、価格づけに関して反対のスタンスを取る人の数も増えている。ある著者は、お気に入りの作品の著者が将来執筆するコンテンツに金を払う行動を挙げて、忠誠度の高いファンを増やす手段として無料コンテンツの読者への提供を長く支持してきた。

 Koboが実施した調査によると、読者が電子書籍貸し出しを利用してはじめてコンテンツに触れた場合、その後に発売された本や続きの話に金を払う可能性がより高くなる。Amazonの独占的なKDPセレクトといったプラットフォームも、限定された期間、無料での書籍提供により書籍を宣伝可能な機能で作者を引きつけている。

 しかし、今年のヒューゴー賞の投票者向け無料電子書籍パックに、所属する作者の小説を含めないという重大な決定についての興味深いブログポストの中で、Little, Brown and Coのレーベル、Orbitは作者に無料でのコンテンツ提供を求めるのはよいビジネスではないと説明している。

 「われわれは、読者に重要な賞への興味を持ってもらえるよう支援する試みに賛成しますし、読者が新たな著者を探せるよう支援する新たな方法を常に探しています」と発行者のティム・ホルマン氏。

 「しかし、投票者向けに提供する無料電子書籍パックの場合、作者と著作権者は作品がその中に含まれなければ、受賞には不利になると徐々に感じているところです。実際にそうかどうかを知るのは難しいのですが、どちらにせよ作者と著作権者が作品の無料化でプレッシャーを受けるべきではないと感じています。

 作品を無料提供するアイデアに対してはさまざまな態度がありますが、作者と著作権者は、自分たちの下した決定がネガティブな結果に終わるかもしれないと感じることなく、自らの選択ができるようになるべきであるということに、ほとんどの人が賛成するよう望んでいます」(ホルマン氏)

 興味深いことに、Orbitは今年のヒューゴー賞にノミネートされた3人の作者の作品について、その決定を下しており、作者とは対立しているようだ。

 セルフパブリッシングが持つ汚名の一部はありがたいことにぬぐい去られたが、価格づけ周辺で非常に不幸な汚名をいまだにそそぐことができていない。

 従来の業界価格で電子書籍を販売することを選択するインディーズ著者は、自らの作品を5大出版社から出版された作品と比較する神経を笑う消費者からの反発に直面するかもしれないが、大手出版社から本を出したThe New York Timesのベストセラー著者が自分の作品を無料、安価にすべきと発言することはできない。今や、さまざまな形で出版への認識は変わりつつあり、価格づけと印税への態度が次なるシフトであると望みたい。

グラフはSmashwords.comのブログより転載


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