インタビュー
» 2014年04月18日 11時00分 UPDATE

あの書店のスタッフに直撃:電子書店の中の人 14回目――eBookJapanの中の人

いつもお世話になっている電子書店。電子書籍を購入しているこの端末の向こうにだってスタッフがいる。「電子書店の中の人」にインタビューする本連載、今回はeBookJapanの中の人、戸田暁弓子さん。

[西尾泰三,eBook USER]

 電子書店、または電子書籍ストア――わたしたちはここ数年でその存在を少しずつ認知するようになった。

 とはいえ、書店と言えば、リアルの書店(実書店)を思い浮かべる方の方が圧倒的多数だろう。現時点で、わたしたちは電子書店のことをまだよく知らない。しかし、そこにはリアルの書店と同様、「人」が介在している。

 この連載は、“電子書店の中の人”にフォーカスし、どんな人が電子書店の運営に携わっているのかを紹介しながら、その電子書店の“雰囲気”を感じてもらうためのものだ。

 第14回目となる今回登場頂くのは、国内電子書店の中でも最初期から漫画に注力してきたeBookJapanの中の人、戸田暁弓子さん。創業からまもなく15年がたとうとしているイーブックイニシアティブジャパンの成長を支えてきた戸田さんに迫った。

イーブックイニシアティブジャパン 戸田暁弓子さん 戸田暁弓子さん

創業年の入社、当時はみんなで何でもやっていた

eBookJapan eBookJapan

―― eBookJapanは、国内電子書店の中でも最初期から漫画に注力してきた老舗として知られています。戸田さんは現在どういった業務に携わっているのですか?

戸田 わたしは今、“編集部”という名前の部署に在籍しています。出版社の編集部のように実際にコンテンツを制作したりするのではなくて、主にeBookJapan上での企画や特集などを考えるほか、出版社さんに対して紙で刊行されている書籍を電子で出しませんか、というご提案をして、その契約をまとめたりする部署です。

―― イーブックイニシアティブジャパンに入社されたのはいつごろだったんですか?

戸田 創業年(2000年)の入社ですね。当時は創業者で現会長の鈴木(編注:鈴木雄介氏)など、役職者を除くとスタッフが2人といった時代で、基本的にみんなで何でもやっていく感じでした。そこからだんだんスタッフが増えてきて、最近は、わたしが直接担当していた出版社さんの窓口業務も新しいスタッフに引き継ぐ形で、マネジメント業務が主になり始めた感じです。

―― 2000年ごろというと、衛星回線を通じて電子書籍の配信を行う大掛かりな実験プロジェクト「電子書籍コンソーシアム」が終了した時期ですね。当時は電子書籍という言葉すらまだほとんど一般には認知されていない時期でしたが、なぜその当時に入社を決めたのですか?

戸田 当時、大学を卒業後、PC関係の出版社で契約社員として仕事をしていたのですが、在籍していた編集部がなくなってしまったんです。それで、社内のほかの部署に移るかどうかを悩んでいたのですが、もともと漫画が好きだったこともあり、漫画に関連した仕事がしたいという希望があったんです。ちょうど在籍していた部署の編集長が鈴木と知り合いだった関係で、紹介していただいたんです。

 鈴木は元小学館で、eBookJapanを立ち上げたばかりだったのですが、当初から漫画を中心にサービスを展開していく方針が決まっていたので、手伝ってみたいな、ということで。まだまだ小さな会社でしたし、まさか自分がこんなに長く勤めることになるとは思ってもいませんでしたが(笑)。

―― 当時、一番苦労されたことは?

戸田 まだ、ブロードバンドという単語が出てきたばかりの時代でしたから、出版社さんに対して、そもそも電子書籍とはどんなものかをご説明する必要があったことでしょうか。やっぱり初期のころというのは、門前払いじゃないですけど、忙しくて構ってられない、みたいな版元さんも多かったです。

 当時は正直、「今日は本が10冊売れた」というような、本当にまだまだお金にならない状況でしたので、出版社さんの中に、お金にはならないのが分かった上で「面白そうだから実験的にやってみよう」という形で動いていただける方がいないとお話にならない、といった状況でしたね。

―― ちなみに、最初にご協力いただけたのはどの出版社だったんですか?

戸田 秋田書店さんや実業之日本社さん、リイド社さんなどが初期からコンテンツをご提供いただいた出版社さんです。多くの出版社さんでは、やはり社内調整に時間が掛かってしまうこともあり、時間が掛かりました。

 出版社さんに一通りご説明して回り、いよいよサイトオープンという段階で、そろっていた書籍の数は300冊、といった状況でしたから、つい先日20万冊を超えたということで、自分自身、驚くとともに感慨もひとしおなんです。

1社ずつ出版社を訪問していた創業期にはぐくまれたもの

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―― この10数年、電子書籍のビジネスに携わる中で、国内の電子書籍業界も大きく変化していくのを目の当たりにし、また体感してこられたのだろうと思います。この間の変化をどう感じていますか?

戸田 出版社や著者の先生方の理解が深まって、仕事はすごくしやすくなりました。先ほど言いました通り、そもそも電子書籍という言葉自体から説明をした上で、コピーされてしまうのではないか、紙の本が売れなくなるんじゃないか、そういった不安を1つ1つ解いていきながら、納得いただき、コンテンツを提供していただく、という状況でしたので。

―― 後からスタートされた電子書店だと、その辺りの説明が不要になっている部分もあるでしょうから、初期にそうした地道な営業を続けてこられたのはすばらしいですよね。現在は電子取次なども珍しくありませんが、当時はまた違いましたよね。

戸田 はい。当時は直接出版社さんを1社ずつ回ってご説明し、直接コンテンツをご提供いただいていました。当時契約させていただいた出版社さんとの関係は今でも良くさせていただいています。

―― 最近の作品ですと、ほとんどの電子書店で同時に発売するケースも増えてきました。eBookJapanのラインアップは、ほかの電子書店では取り扱っていない作品も数多く取りそろえられていて、差別化要素になっていますよね。これらの作品はどのように集められたのでしょうか。

戸田 10年以上の蓄積、というのが大きいのだと思います。創業当時、きちんとした売り上げが出版社さんに還元できる状況ではありませんでしたので、わたしたちの方から「この作品は売れるから、これを電子書籍でください」といえるような状況ではなかったんです。

 また、売れ筋の本だけ売っていこう、という風には会社としても考えていませんでした。一世を風靡(ふうび)したが今となってはあまり売れないものも、今人気絶頂の売れるものも、漫画は全部売っていこう、というスタンスでしたので、出版社さんには、「電子書籍にしていい作品はすべていただきたい」とお願いしていました。Web上では在庫になるわけではありませんから、いわゆるロングテール的な観点で、とにかく並べましょう、ということです。その結果、当時出版されていた作品が弊社ストアにだけ並んでいる、ということがあるのだと思います。

―― 創業当時から出版社との交渉なども担当されていたとのことで、eBookJapanに並んだときのことを印象深く覚えているような作品などはありますか。

戸田 弘兼憲史先生の『課長島耕作』でしょうか。講談社さんのコミックは配信冊数が1万冊を越えているのですが、最初に発売させていただいた作品でした。あとはやはり手塚プロダクションの作品です。“漫画の神様”といわれる手塚治虫先生の作品が電子書籍として一挙に販売されるということで、話題にもしていただきました。

―― eBookJapanは国内電子書籍サービスのまさに先駆者といえますが、ここ数年は海外事業者の参入などもあり競争も激しくなっています。ほかの電子書店と比べたとき、eBookJapanの特長は何でしょうか。

tnfigebj004.jpg こちらはeBookJapanで3000冊超を購入しているCironさんの本棚。圧巻です

戸田 やはり、とにかく漫画を中心に扱ってきた、ということですね。例えばビューワでは、漫画がより気持ちよく読んでいただけるように工夫を積み重ねてきたと思っています。どのようなディスプレイでもきれいに見えるように、拡大率によってモアレが出る、といったことがないように、ページのめくりにストレスがないように、などにこだわってきました。

 また、「背表紙」をつけるようにしています。こうした細かい工夫によって、同じ作品を、よりきれいな画面で、気持ちよく読んでいただけると思いますので、漫画が好きな方には、支持していただけるはずだと自信を持っています。

いずれ、すべての漫画作品を網羅したい

―― 読者を引き付けるには、いろいろな企画や特集も大切ですよね。最近力を入れていたり、注目を集めた企画はどんなものがありますか。

戸田 各雑誌の編集長がお勧めする漫画を紹介した企画などが挙げられます。多くの出版社さんにご協力いただき、100誌近い雑誌の編集長に参加していただくことができました。また、編集部さんと一緒に企画した、新人漫画家さんの作品をサイトで人気投票する企画も漫画が好きな方には注目いただけたと思います。

―― 漫画に対する深い愛情を語っていただいていますが、これまで読んだ中で、戸田さんにとって最も印象深い作品は何ですか?

戸田 わたしの両親はあまり漫画を買ってくれる人ではなかったので、小学生のころは友人に借りて漫画を読んでいたのですが、王道少女漫画の『ベルサイユのばら』に強く引かれました。作品自体は今から40年も前に発表された作品ですが、きらびやかな世界やストーリーの面白さに引き込まれたんです。それ以降、名作といわれるような作品を読むようになりましたね。

―― 最後に、今後の目標をお伺いできますか。

戸田 わたしたちは創業当時から、漫画に注力してビジネスを展開してきまして、現在も電子書籍での漫画の取り扱い数では国内ナンバーワンの数を誇っています。漫画というのはコンテンツの歴史そのものがそれほど長いものではありません。現在漫画のラインアップは9万冊くらいですが、いずれ、すべての漫画作品を網羅したいと思っています。

 もちろん、すでに作家さんが亡くなられていたり、あるいは著作者の方が、もう世の中に出したくない作品、というのもあったりしますので、すべてというのは現実的ではないのですが、その心構えで、今後も提供する作品の数を増やし、業界をリードしていきたいです。

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