感情を持たない少年の、歪でせつない物語――『魔法使いの弟子が笑う時。』

感情を持たない少年が「魔法使い」を目指す理由とは。少年がせつない笑顔を見せる『魔法使いの弟子が笑う時。』1巻レビュー。

» 2014年03月27日 19時32分 公開
[ラノコミどっとこむ]
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 これは、『生江 桜歌』という少年が 感情を手に入れるまでのお話です―――…

魔法使いの弟子が笑う時。

 テレビでホラー特集を見ていると、“ないはずのものがある”という場面が多く見受けられる。写るはずのない角度から人の顔が見えたりする、心霊写真などによくみられる現象だ。

 それを見て人々は驚き、「ああ、怖いね」なんて言いながら、談笑したりするものだ。

 では逆に、“あるはずのものがない”というのは、どういう状態なのだろうか。例えば、どんな人間にも存在するもの、“感情”がない人間がいたとしたら、それはいったいどんな人間なのだろうか。

 何を考えて、生きているのだろう。

 どうやって、いままでの日々を過ごしてきたのだろう。

 今から紹介する物語―――『魔法使いの弟子が笑う時。』(ガンガンコミックス) は、歪でせつない物語。感情を持たない、生江 桜歌(なまえおうか)という少年の物語だ。

 桜歌は、師匠である拝島 先(はいじま さき)の下で修行中の、魔法使いの弟子。魔法使いとは、魔物という生き物を使役している、強大な力を持つ人種のことをいう。

 桜歌はなぜ、魔法使いになろうとしているのか。それには深い理由があった。

ある人が記してくれた ぼくのやるべき事
“大切な人をつくって 感情を手に入れる”

ぼくは 悲しいとか 嬉しいという
そういう感情が 物心ついた頃からよくわからなかった
そのある人は 生きる意味のなかったぼくに
感情を手に入れる方法を示した
その方法が 魔法使いになる事と、大切な人をつくる事

 桜歌には感情がない。その代わり、目的がある。彼は、感情のある生活を送り、悲しい想いをたくさんするために、世界を滅亡させようとする。

 殴られても眉1つ動かさない、感情がない桜歌。しかし、この第1巻において、彼は一度だけ笑顔を見せる瞬間がある。それも、心からの笑顔を見せるのだ。

 わたしは、人の笑顔というものは、誰が見ても幸せになれるものだと思っていた。赤ちゃんの笑った顔を見ていると、自然と皆が笑顔になれるように、皆が幸せになれるものだと疑わずにいた。

 だが、そんなことはなかった。桜歌が一時的に見せたその笑顔には、大きな代償を払う必要があったのだ。

 桜歌の見せた笑顔は、わたしに幸せをもたらさなかった。わたしは、間違いなく、桜歌が怖かった。彼の笑顔に恐怖を感じた。一方で、それと同時に切なさを感じている自分がいた。相いれない感情が入り混じり、胸が軋んだのだ。感情のない桜歌には、きっと理解できないであろう複雑な感情が、わたしの中を駆けめぐっていった。

 もしかしたら、この物語の終わりに待ち受けているのは、ハッピーエンドには程遠いものなのかもしれない。

 魔法使いの弟子が笑う時。

 貴方が感じるものはどんなものだろうか。

(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)

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