インタビュー
» 2014年03月12日 11時00分 公開

作家と活字とエージェント――作家・椎名誠が電子書籍で「完全版」提供のワケ (2/2)

[池田園子,eBook USER]
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活字は別物――モノクロ映画のように

椎名誠氏 椎名誠氏。2月16日にC&R社で椎名誠氏と目黒考二氏の対談で電子書籍の刊行イベントが開催され、全国から70名以上のファンが来場した

―― 作家の視点から見て、昨今の電子書籍市場にどのような印象を持っていますか。

椎名 長年活字の世界で生きていると、保守的になってしまう作家も少なくありません。僕自身は電子書籍というシステムを完全に理解することはできないながらも、自分の分かる範囲で仕組みを理解して、試してみたいと思うタイプです。今回C&R社からいただいたお話も、新しい時代の新しいシステムなので、分からないからといって拒絶することはないなと思いました。

 一方で、電子書籍に戸惑っていたり、始めるかどうするか判断しかねていたり、周りの様子をうかがっていたりする作家もいます。パーティーなどで顔を合わせると「電子書籍ってどうなの?」といった話になることもありますね。

 僕としては、良いパートナーと出会えるかどうかがカギだと感じています。刊行記念トークイベントのようなリアルイベントの開催も含め、C&R社にはすばらしい取り組みをしてもらいました。

―― これから先、電子書籍はどう発展していくと思いますか。

椎名 電子書籍が活字に取って代わると主張する人もいますが、活字は活字でまったく異なるものとして残ると考えています。

 例えば、写真も昔はモノクロしかありませんでしたよね。そこにカラーが登場し、モノクロはすべて滅びると一部では言われていました。しかし、結果的にカラーもモノクロも両方残っています。カラーが主流になった映画でも、数こそ減りましたがモノクロはいまだに残っていますよね。たぶん両者はまったく違う世界に共存しているんです。電子書籍も紙の書籍も共存し続けるでしょう。

―― 今回まずは5冊刊行されましたが、今後はどのような作品を選んでいく予定ですか。

椎名 今回の5冊も思い入れのある作品ばかりですが、僕が選んだわけではなく、皆さんに選定をお任せしました。「これは良い作品に仕上がったはずだ」という自信作でも、読者からは「椎名本の中で一番ダメだ」といった厳しい意見をいただくこともありますから。自分の意見よりも周囲の信頼できる人からの意見が参考になると思うので、これからも品ぞろえは僕が選ぶのではなく、皆さんに選んでいただきたいですね。

―― 今後新作を電子書籍で刊行される考えなどはいかがでしょう。

椎名 未発表の作品を電子書籍化することも考えています。ただ、電子書籍に向くジャンル、向かないジャンルはあると思います。SF作品は電子書籍に合っているのではと感じるので、近い将来挑戦してみたいです。

―― 最後に、今回刊行された5冊に関して、見どころとなる表紙のイラストと、巻末の長い振り返りである「あとがき」を書かれたときのエピソードを教えてください。

椎名 イラストは下描きせずにいきなり描き出して、描き直しもしないのでイタズラ書きのようなものです(笑)。5冊分一気に、1時間掛けずに描きましたね。

 昔から絵を描くことは好きですし、自分が書いた本のエッセンスを絵にするわけですから楽しいんです。さまざまな連載を抱えていて、スケジュールが立て込んでいるときは朝昼晩の時間に関係なく、書けるところまで書いて疲れたら眠る……という動物的な生活になってしまいます。そんなときに挿絵を描く瞬間は、余暇を利用したレクリエーションのような幸せな時間になるんです。

 “新しい”あとがき原稿も、目次をパラパラ眺めながら、「当時自分はどんな思いで書いていたのか」と振り返る作業となって、今の足元を確かめる意味でも面白かったです。次に刊行する電子書籍作品についても、過去を振り返る時間を大切にしながら向き合っていきたいですね。

作家プロフィール:椎名 誠(しいな まこと)

1944年生まれ、東京都出身。1979年から作家活動をスタートし、1988年には『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞を受賞。現在までの著書は200冊を超える。文筆業の他にも映画監督、写真家としても幅広く活躍。中学二年生の教科書に書いた作品が反響を得て書籍化された最新刊『アイスプラネット』(講談社)が好評発売中。


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