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» 2014年03月07日 15時00分 UPDATE

本屋探訪記:南青山にある「古書 日月堂」は古書店の何たるかを教えてくれた

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は表参道の「古書日月堂」を紹介。

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 東京芸術学舎の講義「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」。全5回の講義の最終回で講師として登壇したのが「古書日月堂」店主の佐藤真砂先生だ。講義の模様は以下のリンクからご覧になって頂くとして、ここでは講義前に「古書日月堂」を訪ねたときの記録を書いていきたい(以下は2013年3月9日の記録だ)。

ドアの中は真っ赤な異世界

 東京・表参道駅。A5出口から地上に出てブランドショップが立ち並ぶ豪勢なエリアを下っていく。途中、以前紹介したUtrecht(ユトレヒト)もある。坂を下りきって根津美術館が見えてきたころ右手にあるマンション。その2階にあるのが「古書日月堂」だ。

 恐る恐るマンションの中に入り、階段を上る。左手に店の明かり。中に入ると目の前にパッと広がる真っ赤な異世界。古書日月堂の什器はすべて真っ赤。濃紺の壁に真っ赤な什器である。古書店とは思えないオシャレさだ。本が積み重なって今にも崩れそうなクラシックな古書店も好きだが、南青山という立地からみれば完全にマッチしているように思える。

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あのケルムコット・プレスを手にとって見れる!

 古書日月堂はその名の通り古書を扱っている。古本ではなく、古書。戦前、または戦後間もないころに出版された本ばかりである。和本ではなく洋装をメインとした品ぞろえなのだ。まさか南青山で文字を右から読むような本を見ることができるとは思わなかった。

 芸術学舎の講義の件もあるので、店主にいろいろお話し頂きながら見ていたのだが(佐藤さん、ありがとうございます!)、特に驚いたのがあのケルムコット・プレスを手にとって見ることができることだ。

 ご存じだろうか。ケルムコット・プレスとは、アーツアンドクラフツ運動の中心として活躍したウィリアム・モリス氏によるプライベートプレス(今でいう自費出版)のことである。

 ちなみにアーツアンドクラフツ運動とは、産業革命が起こり比較的安価な工業製品が出回り始めた時代に「そんな粗悪なものではなくて昔ながらの職人のハイクオリティ製品を愛でようぜ!」という崇高な目的の運動だったのだが、いかんせん、作られる製品が高価だったため普及せずに終わってしまった。とはいえウィリアム・モリスが作った本はやはり素晴らしく、本好き羨望の逸品なのだ。

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 美術館などでガラスケース越しにしかお目にかかれないようなケルムコット・プレス。古書日月堂はそのケルムコット・プレスのうちの一冊を手にとって見ることができるのだ。それを知ったときの様子を一部再現してみよう。

ぼく あーこれ素敵ですねー。ケルムコット・プレスに似ているんですねえ。

佐藤店主 それ本物だよ

ぼく 「……!!!!!!」

 そのまま本に見入ってしまったのは言うまでもない。佐藤店主によると神保町ではこういった貴重な本が場合によっては手にとってみれるようになっており、それは案外知られていないという。神保町の古書店もやはり凄い! 古書店に行けば美術館では味わえないような体験ができるかもしれないのだ。奥が深いぜ、古書業界!

絵葉書、古雑誌、古グラシン紙など紙モノ

 奥の平台には大きなバインダーが拡げられている。店主に聞くと、酒瓶のキャップに付いているシールを集めたコレクションらしい。凄い数だ。

 店主によると、古書市場で仕入れをしているとき、その市場の隅っこで見つけたのだという。「バインダーはダサいが、表紙を取って見せれば食いつく人は必ずいるだろう」と。見事に狙い通りの反応してしまったようだ。

 このほかにも古い絵葉書や古雑誌、古グラシン紙(古書店の本にかかっているペラペラのブックカバーのような紙のこと)など、「これから無くなっていくであろう紙モノは必ずコレクターが生まれるから集めて売るようにしている」と店主。非常に参考になる言葉が嬉しかった。

 ちなみに古いグラシン紙はここでしか手に入らないそうなので、気になる方はぜひ足を運んでみるとよい。

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レイアウト

 ここからはテンポアップしていこう。まずはレイアウトから。

 店に入るとまず狭い通路。その通路を抜けると右側に四角形の空間が広がる。真正面は一面の窓。マンションの部屋なのでベランダだろう。正面突き当りにはレジカウンター。壁はすべて本棚で、空間の真ん中には幾つかの平台がある。

 前述のとおり店内は紺の壁と赤の什器が調和し、洗練された印象を受ける。BGMもないので静かに先人たちの仕事を垣間見ることができる。何と贅沢な時間だろう。

本棚の紹介

  • 通路の両側と左の壁棚

 では、本棚をざっと紹介していこう。狭い通路の左側には古い洋雑誌とマッチラベル、絵葉書、ハンコが並ぶ。少し進んだ右手の本棚は、下段が『美しきライフの伝説』『新青年の頃』『ベンヤミンの問い』『シュルレアリスム』などアート関係の本、上段には古雑貨が並ぶ。

 振り返った左側の壁棚には古書日月堂の中では比較的新しめの本が並ぶ。そういった本はこの通路周辺だけらしい。本棚は4本分。一番手前は文庫でほかはハードカバー。『古書巡礼』や『印刷はどこに行くのか』『本・そして本』など本の本、『寺山修司 全シナリオ』『人外境通信』などの近代文学である。

 その次の棚からは映画とアート、音楽、写真の本が並ぶ。『2001年映画の旅』『わが心の残像』『現代美術の感情』『ムンクの時代』『デザインの未来像』『演歌の明治大正史』『ワイマル共和国史』『書物の狩人』『怪奇小説の世紀』『ブルー・ブラッド』などだ。

  • ベランダ前の本棚

 突き当ってレジまで着いたのでこのままベランダ前の本棚を見ていく。しゃがまないと見えないような低めの本棚。ここは大判本の棚で、ほとんどが図録。バウハウスや未来派、アヴァンギャルドなどの文字が気になった。棚の上にも紙モノがある。

 そのまま右奥に進んで突き当ると店舗の角に少し背の高い本棚がある.

ここも図録が中心で、ウォーホールや『版画の歴史とコレクション』などがある。

  • 四角形の手前の辺

 絵が飾られている奥の辺を通りすぎるとまた壁一面の本棚。一部の復刻版を除きほぼすべてが戦前の本なのだという。目を引くのはやはりケルムコット・プレスだ。

 活版印刷が普及し始めたころのヨーロッパでは印刷技術を競う賞があったそうだ。本棚上段には、その賞作品をまとめた本もあった。当時の活版技術を知るための貴重な資料。もちろん眺めて何となく良い気分になるだけでも良い。それになんてったってカッコイイ。

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  • 通路右側本棚の裏

 壁沿いに行けば入口に戻れるかと思いきや本棚が立ちふさがった。ここは初めに見た通路右側本棚の裏に当たるようだ。

 ここも戦前の本。『検閲年報』『ナチス』『ソヴィエト演劇史』、夢二『凧』、ピチグリリ『貞操帯』、ヨハン・ホーネル『開拓者』、ARS『最新科学図鑑』など名も知らない古書である。好奇心が押さえきれなくなる。

  • 真ん中の平台

 最後に真ん中の平台。真っ赤な台の上にはさまざまなアルコール飲料のボトルトップ・コレクション(詳細は先に書いた通り)や版画、ポショワールのプレートが乗っている。

 台をよく見ると引き出しが付いている。中には、古い洋新聞や古い裂(きれ)を和紙に貼り付けたもの、手刷りの京唐紙、戦前の名刺コレクションなど。古い洋新聞はコラージュの画材として使う方も多いのだという。紙モノの世界は本当に奥が深そうだ。

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「ここにしかないもの」を売る

 興奮しっぱなしであった。ケルムコット・プレスに始まり古い洋新聞、絵葉書、さらには戦前の名刺コレクション。たくさんの戦前の本。

 佐藤店主は講義でこう仰っていた。「ウチに来ないと買えないものをそろえないとダメだ」と。確かに古書日月堂ではほかでは見られないものばかりが置いてある。しかも、質問すれば佐藤店主は親身になっていろいろと答えてくれる。週3しか開いていないがそこにしかない物と人の両方がそろっている類まれな古書店だった。

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著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営む。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、NPO団体「ツブヤ大学」に本に関するイベントの企画班として参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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