本屋探訪記:演劇人の発想が大阪文の里に「居留守文庫」をつくった

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は大阪文の里にある「居留守文庫」を紹介する。

» 2014年02月28日 15時00分 公開
[wakkyhr,eBook USER]

 所用で大阪にやってきた。ところが、時間が空いたので寄りたい本屋を気の向くままにツイートしていたところ、あるお方からオススメ本屋のリプライが飛んできた。それが今回の本屋探訪記で訪ねた「居留守文庫」である(以下は2013年4月13日の記録だ)。

 どんな本屋かというと、Webサイトにある自己紹介文を見てもらうと分かりやすいと思うので引用する。

小さな木箱に本が詰まっています。ジャンル、テーマ、キーワード、著者、出版社…いろんな分類方法で、本を小分けしています。木箱は時には整然と、時には変な形に、思いのままに積み重ねることができます。探索するのが楽しくなるような空間で、本との素敵な出会いと発見、そしてくつろぎの時間を提供します。
居留守文庫では古本の買取・販売だけでなく、アーティストやお店のオーナーさんから一般の方まで出品できる委託販売やギャラリー展示などにも取り組んでいます。

大阪文の里駅から徒歩4分

 驚くのが立地である。文の里というから本の街かと思いきや本屋は見当たらず、あるのは学校と寂れた商店街のみである。

 その商店街を抜け学校の横を抜けた先の住宅街。ふいにほのかな杉の香りが漂ってくる。一体何だろうと思ったらそこにあったのが居留守文庫。こんな場所でどうやってやっていくのだろうか。心配になりながら店内に入った。

杉の香りと自転車と

 中に入ると外からは「ほのか」程度だった杉の香りが確かな存在感を持ち始める。リラックスできるいい香りだ。店内に流れているのは癒し系のBGM。住宅街の一角にこんな素敵スペースを作りだすだなんて凄いぞ居留守文庫!

 初めに目についたのが自転車である。恐らく店主のものだろうが、ここまで堂々と鎮座されているとインテリアの一種として飾っているのかと考えてしまう。

変幻自在の「箱馬」本棚

 居留守文庫の一番の特徴はその本棚にある。木箱が積み重なっているだけの本棚。だから、縦に積むのも横に積むの自由自在。椅子にもできるし、壁一面に不規則に積めば目を楽しませてくれる面白本棚だ。サイトにでは以下のように紹介されている。

無数の「セル」と呼ばれる可動式の箱がある。セルに本を入れるとそれは本棚になる。座れば椅子になる。積み重ねて、その上で勉強を始めればそれは机ということになる。セルを高く積み重ねれば間仕切壁になり、個室を作ることだってできる。(居留守文庫サイト コンセプトより

 演劇の小道具に「箱馬」というものがあるそうだ。舞台のちょっとした足場とかに使われる箱馬は、縦横に組み合わせて使うことで変幻自在に舞台を演出する。この「変幻自在で組み合わせ自由」を本棚でやるとどうなるか。それを体現するのが居留守文庫の本棚なのだ。木工所で木をカットしてもらって後は自分で組み立てたらしい。このDIY感。堪らない! 「BOOK TRUCK」の三田修平さんも同じような本棚を使っていたことを思い出す。意外な繋がりを感じて内心ニヤッとしてしまった。

ギャラリーとイベントと委託販売と

 そんな変幻自在の本棚を作るくらいだから店主の頭も柔軟なのだろう。ギャラリーやイベントも行い、本棚の一部を委託販売用に貸してもいる。しかも、その比率がその時々で変化する。これは凄い。業態までも変幻自在なのだろうか。

 僕が行ったときはギャラリーの展示があったが、これが終われば次の展示までしばらく間があるので委託販売中の本棚をもっと目立たせるように模様替えを行うと店主が楽しそうに話していた。

レイアウト

 居留守文庫のレイアウトを紹介しておこう。とはいえ箱馬本棚である。もしかすると明日には既に違うレイアウトになっているかもしれない。だから、「僕が行ったときはこうだった」と考えてほしい。

 店舗は奥に広い長方形で、入口から入ってすぐは少し狭い通路(とは言っても自転車が置いてあるくらいなので3人は通れるくらいの広さ)。その両側の壁は本棚だ。左手の壁の上半分が途中でなくなってレジカウンターとなっていて、中には店主の岸昆虫さんが作業されている。もちろん下半分は本棚だ。

 奥に広がる空間は天井も高く気持ちが良い。入口すぐ右側の腰から下くらいの位置までの壁棚がそのまま続いている。突き当りは作業部屋のような中庭のような場所。ドアを開けると急に緑があったので驚いた。

 空間の中心には段ボールの上に木のテーブルを置いた平台。箱馬もそうだが不格好でも自分の手で作り出そうとしているところに好意を抱く。素晴らしい。

 左奥の壁には一面の箱馬壁棚がある。縦横自由自在に組み上げられた本棚はまさしく圧巻だ。一通りレイアウトを見て入口に戻ろうとすると天井まで届く箱馬柱。これもまた面白い。

箱馬ごとでテーマを分ける

 一部(入口から入ってす左手の壁棚と平台)を除きほぼ箱馬本棚の居留守文庫。ひとつひとつの箱馬でテーマが違うらしい。どの箱馬がどんなテーマになっているのか考えながら本棚を見るのも面白いだろう。

小さな木箱に本が詰まっています。ジャンル、テーマ、キーワード、著者、出版社…いろんな分類方法で、本を小分けしています。木箱は時には整然と、時には変な形に、思いのままに積み重ねることができます。探索するのが楽しくなるような空間で、本との素敵な出会いと発見、そしてくつろぎの時間を提供します。
居留守文庫Webサイトより

入ってすぐ左手の壁棚とレジ周り

 では、軽く本棚を紹介していこう。もちろんこの紹介もレイアウトと同じでいつ変わるか分からない。さらに、居留守文庫は古本屋である。だから、いつもより軽めに紹介する。

 入ってすぐ左手の壁棚から。面陳棚のここには洋書やデザイン書が飾られている。『遊びの美術』や『ブリューゲルさかさまの世界』などだ。レジ周りには文章読本や本屋関係の本などが置かれている。

右の壁棚、テーブル平台、奥の壁一面箱馬本棚、途中の箱馬柱

 では箱馬を見ていこう。箱馬に関しては全体感だけ書いていく。

  • 入ってすぐ右の壁棚

 ここは、文芸からアートなど何でもそろっている。東野圭吾、家、子供向け、食、ユーモア、児童書、動物、心理、文房具、旅、マンガ、雑誌など。

  • 壁一面の箱馬本棚

 アートや写真系が多い場所だ。『本橋成一の屠場』『ジョセフクーデルカのプラハ侵攻1968』などだ。図版、展覧会目録、画集、『ボリス・ヴィアン全集』や『河出世界文学全集』などの全集もある。一番左奥にはコミックも置かれていた。

  • 途中の箱馬柱とその周辺

 ここには東野圭吾や村上春樹、武田泰淳や武田百合子、江戸川乱歩、司馬遼太郎、三島由紀夫などの文芸のほか、思想系が並ぶ。さらに柱のレジの影にあたる部分には雑誌が並べられている。『東京人』『現代思想』『ユリイカ』『スタジオボイス』『一枚の檜』『コヨーテ』『風の旅人』『DDD』『インパクション』などだ。

テーマが合えば大きさなんて関係ない

 最近の独立系の本屋にはよくあることだが、文庫も大判本も単行本も新書も区別なく置かれているのは居留守文庫も同じだ。それぞれの箱馬のテーマに沿ったものを詰め込んでいる印象を受ける。箱馬ごとに25冊前後なので見ていても負担にならないのが凄い。

幅広い品ぞろえ

 全体の割合はアート2割、漫画2割、社会哲学ルポ3割、読み物エッセイ1割、雑誌と演劇合わせて1割くらい。店主が演劇出身の割には演劇の本が少なくアート系を中心に幅広い品ぞろえだと感じた。古本屋でありながら「街の本屋さん」としても使いやすそうである。

居留守文庫は新しいDIY本屋さんだ

 本棚も自作。販売するのは集めてきた古本。ギャラリーにもなり、イベント会場にもなり、委託販売(レンタル本棚)も行っている。DIYと言えば「何もかも自分でやる」といったように受け取られる方もいるかと思うが、居留守文庫は違う。自分でできることは自分でやり、同時に外からの風も受け入れる。風通しの良いDIY本屋なのだ。

 店内には階段があったので2階も店舗なのか聞いてみると、2階は住居でここに住んでいるという。店舗兼住居であれば昼夜関係なく作業ができる。「生きる様に働く」という言葉がある。本屋に住みながら働くということは本当に幸せなことであるかのように僕には思えた。というかこんな本屋さんやりたいよ!

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営む。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、NPO団体「ツブヤ大学」に本に関するイベントの企画班として参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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