マンガ業界を盛り上げたい――コミックスマートの取り組み(2/2 ページ)

» 2014年02月24日 13時00分 公開
[渡辺まりか,eBook USER]
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描きたい――しかし紙媒体には限界があると感じた持ち込み時代

ミリオンドール ミリオンドール

―― 次に、GANMA!で『ミリオンドール』という作品を連載しているマンガ家の藍さんから話を聞きます。マンガ家になりたいという夢を、なぜここに託そうと思ったのですか。

『ミリオンドール』作者・藍さん(以下、藍) 上京して、仕事をしながらマンガを描き、いろいろな出版社に持ち込んでいましたが、断られていました。実際、紙媒体は枠が決まっているため、新人が入り込むのはよほどのことがないと難しいんですよね。発行部数が減っている中、ページ数を無尽蔵に増やすわけにもいきませんし。コンテストなどもありますが、やはり数に限りがあります。

 そういった限界を感じていたとき、スマートフォンが急速に普及してきました。前職でスマートフォンに接する機会が多かったこともあり、「これからはスマートフォンで本を読む時代だ」という直感がありました。それならば、描きたいマンガを新しい媒体で表現できないだろうか、と考えていたところ、コミックスマートでマンガ家を募集していることを知り、すぐに応募しました。

―― 応募から採用までの期間はどれほどでしたか。

 何回か面接があり、連載決定までは2カ月ほどでした。社長との企画ミーティングでは、わたしの企画をヒアリングした社長自ら「いいね、それでいこう」と言ってくださいました。

―― その企画が現在連載中の『ミリオンドール』(※)のことですか。
 ※アイドルを応援する「アイドルヲタ」と応援されるアイドルたちを描いた作品。アイドルヲタ側は「現場ヲタ」と「在宅ヲタ」を、アイドル側は3人組の地方アイドルとソロ活動中のライブアイドルを描いている。

 はい。紙の媒体なら「群像ものは流行らない」と落とされてしまうところですけど。

―― 絵柄の可愛らしさもさることながら、ストーリーも、それぞれの側がしっかり描かれており、読み応えがあると感じました。ところで藍さんは制作スタジオにどのくらいの頻度で通っているんですか?

 週に3回くらいです。来ても、今日のようにほかのマンガ家さんたちとおしゃべりしていることもありますけど(笑)。

編注:取材日は2月14日ということもあり、プリンを食べながら女子だけのバレンタインを楽しんでいた。

―― 和気あいあいとしていますよね(笑)。

 特有ですよね。紙であれば、お互い「いつ打ち切りになるか」と疑心暗鬼になりギスギスしがちですが、ここではみんなで切磋琢磨して良いものを作っていこう、という意識があるんです。だから、役立つ情報はできるだけみんなで共有するようにしています。例えば、GANMA!の場合、作品をスマートフォンで表示させるため、あまり細かいと読みづらくなるから、セリフのフォントの大きさは何ポイントがいいよ、といった具合です。

読むのも描くのもスマートフォン

 そういえば余談になりますが、スマートフォンでネームを描くようになってから、サイズ感がぜんぜん違うな、ということに気づくようになりました。

―― スマートフォンで描いているんですか?

 はい。GALAXY Noteを買ってから、ネームはすべてこれで描いています。ここで描いたものをGoogle Driveに保存し、拡大印刷してトレースしています。最終的にペン入れしたものをスキャンしてデジタル処理して入稿、という流れです。

 紙の原稿に描いていたときと比べ、サイズ感がつかめ、より読者目線で制作できるようになりましたし、それによってつかめたコツや勘などを共有できる楽しみもあります。

ネーム ネームはスマートフォンで作成する
印刷物とペン入れ原稿 右が拡大印刷したもの。左はペン入れ後の原稿
トレース台の上に乗せてペン入れ トレース台に乗せてペン入れをする

―― 最後になりますが、Route MやGANMA!を通して、何を目指したいと考えていますか。

 実際に作品で描いているようなアイドルのライブに行って、そこで知り合った人の中には、いままでマンガを読んだことがない、という人たちがかなりの数いました。小さいころから塾や習い事で時間がなく、マンガを読む機会もなくて、その面白さを知らない人や、限られたお小遣いをケータイ代やファッションのために使ったら、面白いかどうかも分からないマンガ雑誌を買う余裕もない人がいると思うんです。

 でも、GANMA!なら無料でマンガを読んでもらえます。無料だから「ちょっとダウンロードして読んでみてよ」と草の根営業もできます(笑)。そうやってマンガの面白さに気づいてもらえて、GANMA!だけではなく、紙のマンガ雑誌も買ってもらえるようになれば、マンガ業界全体が盛り上がるんじゃないでしょうか。そんなことを目指す一助になれれば、と考えています。

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