本屋探訪記:東京表参道にあるUtrecht(ユトレヒト)では国境を越えたアートの繋がりを感じられる

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は表参道にある「Utrecht(ユトレヒト)」を紹介する。

» 2014年02月14日 15時00分 公開
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 実は本屋探訪記を書き始めたころからなのでもう2年くらい前から知っている。「行かなければ!」と大阪のタコ焼きのような月が浮かぶ夜空の下で期待と願望を募らせていたのだが、この本屋は予想を裏切りながらもそれを補って余りある楽しみをぼくに与えてくれたのであった。

 今回の本屋探訪記は表参道にある小さな本屋「Utrecht(ユトレヒト)」(以下は2012年12月22日の記録だ)。


あえて原宿から向かう

 本来なら表参道駅が最寄りだが、副都心線明治神宮前駅(原宿)で降りてみた。表参道ヒルズの方角を進むと東京メトロ表参道駅が見えてくるので、さらに246号線を越えて根津美術館方面に歩く。街並みが少しずつ上品になってきた。ほどなく見えてくる学校は青南小学校。その学校の前、レンガ風の外観をしたマンションの2階にあるのが今回の目的地「Utrecht」だ。

独立系本屋さんの筆頭

 2年前から知っていたと書いたが、Utrechtは本屋好きを自称するならば知っていなければモグリと言われても仕方のないほどの有名店である。

 アートに特化し通常の流通には乗らないようなzine(自費出版の小冊子のこと。ジンと呼ぶ)も多く集め、ギャラリーまである店内はまるでワンダーランドだ。マンションの一室のため店舗としては大きくないが、知らない本にたくさん出会える。アートに興味があるのなら楽しめること間違いなしだ。

店同士がつながった驚きのレイアウト

 では、店内の説明をしていこう。木製のドアを開けるとはじめは通路となっている。右手に大きくスペースをとってレジカウンターがあり、左手の壁にあるコルクボードには落書きのような作品が描かれている。

 さほど長くない通路を進むと横長の空間が広がった。通路はそのまま目の前のベランダに繋がっているが、通路を挟んで両側に長テーブルが3つ(左側に2つ右側に1つ)。本は平積みをメインにしながらもブックエンドを利用したリズムある配置だ。

 長方形の空間の右辺の棚には古本が、左辺の棚には絵本が、そしてベランダの対辺にある棚は面陳棚となっている。

 アメリカンなロックをBGMにしながら左手を真っ直ぐ行くと別店舗のショップとなる。驚きだ。店舗同士が繋がっているだなんて。しかもショップにも一本の本棚があってUTRECHTの本を売っている。どういう経緯でこうなったのか。聞いてみたいところだ。

 訪問時は雨上がりだったので誰も利用していなかったが、正面のベランダには自由に出ることができ、そこには大きな木のテーブルとメニュー。実はカフェでもあるのだ。さらにカフェのすぐ横には小屋がある。何かと思えば中はギャラリーだ。不思議なつくりだ。

入口から左辺の本棚まで

 さて、本棚を紹介していこう。入口から壁沿いに左に回ることにする。

 入口通路の壁側から。ここには小さなテーブルがあり、『AVEC』『here and there』『その森の子供』などがさらりと置かれている。

 ホンマタカシが入口すぐにあるのはさすが有名人だなと思いつつ顔を上げると前述したコルクボードに落書き風のイラストが書かれている。近くにあるポストカードの横にはPOPで吉楽洋平とあった。きっとこの方によるものなのだろう。

 通路が終わり左に折れると壁沿いに海外のジンが多く並ぶ。というかジンばかりだ。食い入るように見ていると面陳用の棚を店員さんがおもむろに開けた。実はドアになっていて在庫が入っているらしい。狭い店舗を有効に使う知恵である。

絵本棚と古本棚

 ショップには行かずに左辺にある本棚を見る。品ぞろえは『ぐるぐるちょん』『チョコレート工場の秘密』など子ども向けの絵本が中心。中には写真集など絵本ではない大判本もあった。ちなみにどれも古本である。

 本棚から目を離して右辺に行こうと思ったら目のはしに妙なモノが映った。何だ、これは。謎の青い毛の化物。カワイイと言えばカワイイが僕としてはそうでもない。見なかったことにして右辺に向かう。あれは何だったのだろう。

 右辺の本棚は古本が中心だ。春山行夫や植草甚一、つげ義春に混じって洋書。さらにポストカードも販売している。

右のテーブル 真ん中のテーブル 左のテーブル

 振り返ると入口から見て右側のテーブルだ。ここにはピカソに関する本が数冊、そのほか『OSSU』『tokyo boy alone』、吉楽洋平『BIRDS』(ここにもあった!)。『物物』など新刊本もあるようだ。『物物』はB&BにもSPBSにもある。それほど刷っていなさそうな本だが人気なのだろうか。

 左側1つ目のテーブルには『WILDER』『apartment』『warehouse』『フィリップ・ワイズベッカー作品集』など。2つ目のテーブルには『green soccer journal』『nikukyu issue』『D.I.Y.DEPT.』など。左側のテーブルには平積みでジンばかりだ。中には写真雑誌『IMA』もあったし、僕が知らないだけでISBNのついた本もあったかもしれないが、少なくとも僕が見た中では『IMA』以外このテーブルにはなかった。

レジカウンター周り

 次はレジカウンター周り。腰から下の部分は面陳で洋書が、カウンターの上は日本語書籍だ。『耳かき仕事人 サミュエル』や『青春うるはし! うるし部』『アメリカンガールズハンディブック』、二階堂和美の『しゃべったり書いたり』などがあり、合間合間に雑貨も置かれている。花が一輪挿しで飾ってあるのを見たときには思わず心を打たれてしまった。

満を持してのベランダ

 前述したベランダに満を持して出る。雨上がりの寒空だったこともありカフェには誰もいなかったが、晴れた春の日の午後に訪れたら最高な気分になれそうな空間だった。

 カフェのすぐそばにある小屋は一見、鳥小屋のようだが中はギャラリーとなっている。落ち葉が敷き詰められた中に写真の展示。吉楽洋平のBIRDS展だそうだ。なるほど。鳥小屋演出に納得である。ちなみに、展示中のプリントは購入できた。1枚5250円也(なお2013年10月時点で小屋は取り払われいた)。

マンションの一室は本のワンダーランドだった

 Utrechtは有名店だ。マンションの一室に展開するワンダーランド。

 『ブックショップはワンダーランド』という永江朗氏の本がある。そこでは魅力的な本屋さんが永江朗氏の素晴らしい文章で紹介されているが、Utrechtはそのどの店とも違った独特の世界を構築している。

 まず、大型書店に置かれているような本が少ない。というか通常の流通に乗っている本自体が少ない。さらにカフェやギャラリーもあり、とてもマンションの一室とは思えない奥深い世界が広がっている。Webサイトを見てみると海外のジンは直接作家から仕入れているものもあるようだ。そういったコミュニティーが形成されているからこそUtrechtは表参道という一等地において今でも有名店であり得るのだろう。独立系書店の1つの理想を見た気がした。

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営む。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、NPO団体「ツブヤ大学」に本に関するイベントの企画班として参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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