BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は新宿マルイアネックスの地階にある「Brooklyn Parlor」を紹介する。
今回の本屋探訪記は新宿マルイアネックスのB1にあるブックカフェ「Brooklyn Parlor(ブルックリンパーラー)」(以下は2012年9月16日時点の記録だ)。
あるとき誰かに何となく教えてもらったのだが、ここはトテツモナイ。
カフェと言いながらも半分くらいがバーで、都心のど真ん中のはずなのにかなりのスペースがあり、何より考え抜いたであろうオリジナルのジャンル構成・雑貨との境界があいまいな本棚が最高なのだ!
本がメインではないような雰囲気だが、品ぞろえは驚異である。しかも全部売り物・座り読み可のブックカフェだ。ここまでの広さと品ぞろえを持ったブックカフェは見たことがない(スタンダードブックストアは本屋がメインなのでここには含めない)。
残念だったのは、人気店のため並ばなければ入れなかったことと騒がしいこと。それと読書するには照明が暗かったこと。本好きとしては、せっかくの品ぞろえなのだから本をもっと押し出したら良いのに、と思ってしまう。
しかし、冷静になって周囲を見てみると意外に読書中の方は少ない。もしかすると「本もあるオシャレなカフェ」くらいのイメージで来ているお客さんが多いのかもしれない。となると本がある必然性は少ないように思えるし、それであの棚のクオリティとなると……マルイが趣味で作ったのかと勘ぐりたくなる。飲食と本の売上構成比が気になるところだ(後で確認したところBLUE NOTE JAPANがプロデュースしたお店とのことだ)。
本棚もさることながら、この店はメニューも豊富である。足を運んだときはチョコケーキとコーヒー、紅茶しか飲まなかったが、どれも美味かった。クラフトビールも置いてあることだし、しっかり夕食でも食べにきたいと思うほどだ。
Brooklyn Parlorはこれだけで終わらない。何と毎週火曜日の夜にはDJライブあるのだ。しかも入場無料である! どれだけ凄いんだ?
本がある必然性がどんどん薄くなっている気がするがきっと気のせいだろう。「本は最高のインテリア」という言葉もあるくらいだ。読まなくても本がある意味はきっとあるのだ。
驚きのあまり長い前置きになったが、いつものように店内の説明に入る。まずはレイアウトから。
大広間のような広さの店内は奥に広い長方形。その中で本がある棚は大きく分けて5つある。
それが、1.店舗右辺レジ横の雑貨+本のコーナー。2.その先のずらりと並ぶ壁棚。3.店内一番奥にあるガラスケース。4.店内奥の左手にあり席の境目にもなっている雑誌コーナー。そして、5.柱の横や店内中央のソファ側、店内奥の出口側にあるような独立棚の5つだ。
もちろんどの棚の側には席がある。カウンター席、テーブル席、ソファ席。いったい何席あるのか分からないが、この広さで数組とはいえ行列ができるのは凄いことである。
それでは、本棚の説明に入っていこう。まずは1.レジ横の雑貨+本のコーナーからだ。
このコーナーでは、本と雑貨が分けられることなく混在で置かれている。最近新しくできた本屋では珍しくない。品ぞろえは、海外文化と食とちょっぴり科学だ。
Tシャツや象の置物のすぐ横に『オンザロード』『冷血』『スローターハウス5』『裸のランチ』など海外文学と『帽子の文化史』『めがねを買いに』『拡張するファッション』など文科系の本があったり。
食系の本では、『きのこる』『世界で一番おいしい野菜』『世界のビール図鑑』『食の終焉』『花のズボラ飯』(テキスト本と漫画の区別もない!)などのすぐ横にビールグラスやカトラリー、ジャムやジンジャーオイルが置かれていたりする。
突き当たって少し左に行ったところから店内奥まで続く壁棚になるのだが、レンガ風の壁に囲まれた角には本の置物や生物の置物、虫眼鏡などちょっぴり科学的なものがある。
ちなみにこのコーナーのど真ん中に書見台があり、謎の大判本が置かれている。見るからに高そうだが何の本だろうか。そもそも売り物なのか。落とすのが怖くて調べられなかったのが悔やまれる。
雑貨コーナーが終われば後は奥まで続く壁棚である。ここから魅力的で独特でゆるふわなジャンル分けがある。手前から選書一冊とともに挙げよう。
いやいやいや見たことがない分け方である。「本の本」や「映画について」はまだ分かるとして、「グラフィカルな」って形容詞かよ! 「動物好きでして」知らねえよ! 「運動しよう」提案されたよ! ……何というジャンル分け! こんなのもアリなのかと驚き、感動し、参考にしたくなること請け合いなのである。
店内一番奥は2段の階段を上った少し高い場所にある。心なしか席と席の間のスペースも広めだ。店内で落ち着けそうなこの空間には壁一面にガラスケースがある。洋書がメインだが見るからに高そうな大判本や『世界大博物図鑑』など普段ではお目にかかれない本が展示されている。やはりインテリアとしても本は一級品である。
階段を降りて壁沿いに進もうとしたら邪魔な棚がある。ここは雑誌コーナーだ。店舗入口すぐ左手のキッチンの手前まで長く伸びた棚には面陳で雑誌が飾られている。その種類の多いこと。
『ナショナル ジオグラフィック』や『ニュートン』『スウィッチ』『ナンバー』『クーリエジャポン』『トランジット』『ターンズ』『料理王国』『エレ・デコレーション』『ブルータス』『サファリ』『ヒュージ』『ボーグ』『装苑』『シュプール』などなどなど。
読み逃した雑誌があればここに来てゆっくり読むのも良いだろう。そういえば、この棚を超えた店舗左辺の壁向きカウンター席では、雑誌を一人で読んでいる方が多くいた。入ったときには気づかなかったが読書しやすい場所もあったのだ。
雑誌棚を見終えて振り返るとソファ席が2組あるが、その背中側にも面陳棚がある。ここはアート系や写真集が多い。ソファ席のどちらにも本がある両面のこの棚にあるのは、日本の写真集や雑誌、大判本、雑誌『スペクテイター』、斎藤陽道『感動』、百百新『対岸』、『神様のいる場所』『スモーキーマウンテン』『ラ・スーパー・グランデ』、鈴木陽介『カレーライス』、雑誌『エレクトマガジン』などだ。
さらに、店舗右辺の側に顔を向けると柱に隠れてもう1つ棚がある。ちょうど店舗右辺壁棚の目の前だ。ここもジャンルが凄い。「いろいろ考えてる」「働こうかな」「家族と私」とゆるふわ感がハンパない。書名はバンクシー写真集や『哲学大図鑑』『感性の限界』『就職しないで生きるには』『ワークシフト』『若草物語』『クレヨンしんちゃん大全』などだ。
どれがどのジャンルかはぜひ一度行って確かめてほしい。溢れ出る好奇心を止められなくなるから。
そのまま店内奥にもう一度行ってみると、店舗右辺の壁棚奥にもう1つ棚があった。何てことだ。見逃すところだった。せっかく来たというのに見逃した棚があったとあれば台無しだ。何より本屋好きの名が廃る!
気を取り直して棚を見ると洋書の写真集がメイン。だが、左下の方に手塚治虫『火の鳥』があった。それも大判本である。こんなものがあったとは知らなかった。不勉強を恥じる限りである。それはそうと『火の鳥』と並べられる洋書とはどんなものだろうか。英語が読めたらと本気で思ったことは言うまでもない。
これですべての本棚を見終わったわけだが、何だろう、この満足感は。
ケーキもお茶も美味いわ棚は素晴らしいわ内装はカッコいいわ(もちろん本が果たしている役割が大きい)。しかも新宿である。これは行きつけか? 行きつけなのか? 美味い楽しいカッコいいと三拍子揃ったこの店。少しお高いがそんなことは気にならなくなるくらいイイ店である。
まだ1回目なので、並び具合やケーキやお茶以外のご飯の美味しさ。長時間読書をしても大丈夫か。火曜日のDJライブはどうなのか。など興味は尽きず、通い詰めたいと思わせてくれるお店である。
願わくばもう少し本が中心だったら嬉しかったのだがそれは贅沢というものだろう。いろいろな楽しみ方ができる店である。ぜひ行ってみてほしい。
本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、本を贈る文化をつくる活動「贈本計画」に参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。ネット書店を近日中に開店予定。
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