“非常に薄いが意外に頑丈”A4サイズのデジタルペーパーが狙う市場教育ソリューションフォーラム2013リポート

「本のデジタル化」ではなく「紙のデジタル化」――ソニーのデジタルペーパー「DPT-S1」はそんなポジションを担っている。果たしてどんな分野でこの製品は注目されているのだろうか。

» 2013年11月13日 09時00分 公開
[鷹野 凌,eBook USER]
デジタルペーパー「DPT-S1」 デジタルペーパー「DPT-S1」

 ソニービジネスソリューションは11月8日、「教育ソリューションフォーラム2013」を都内で開催した。副題に「大学におけるデジタルペーパーの効用とその期待について」とあるように、早稲田大学、立命館大学、法政大学などで行われているデジタルペーパーの実証実験に関する最新情報や、ソニーが12月3日から発売するデジタルペーパー「DPT-S1」を体験できるとあって、多くの教育関係者が来場していた。

「デジタルペーパー」は紙を代替し、PCやタブレットと併用するもの

 同フォーラムの冒頭を飾ったのが、ソニー V&M事業本部 デジタルリーディング事業部 事業部長 野口不二夫氏。野口氏はDPT-S1を、Readerのような電子書籍リーダー端末による「本のデジタル化」と違い、「紙のデジタル化」という位置付けだと紹介。企業や学校教育の現場で現在も大量に消費されている紙を代替し、デジタルデータとして配布、保存、共有、解析、そしてコンテンツ価値の向上といったソリューションを提供していきたいとした。


野口不二夫氏 ソニー V&M事業本部 デジタルリーディング事業部 事業部長 野口不二夫氏
デジタルペーパーの特長 デジタルペーパーの特長は、読みやすい、A4サイズ、薄くて軽い、書き込み保存、長時間利用、大容量

 野口氏は、デジタルペーパーのポイントを3つ挙げる。1つは、フレキシブル デジタルペーパーを使ったモバイル商品の量産化が世界初であること。DPT-S1はディスプレイに「E INK Mobius」を採用しているが、これは同サイズのガラスパネルと比べ、100グラム以上軽く、割れにくく、手書き入力時に重要な視差ズレが少ないという。

 2つ目は、デジタルペーパーは紙の置き換えであり、タブレットやPCと競合せず共存できるということ。端末の機能はPDFの閲覧・書き込みに絞り込まれ、タブレットやPCと一緒に使うことで価値が高められるという。

 そして3つ目は、学習の質向上を目指せる点だ。同製品とネットワークの利用により、大人数でも課題解決型の講義を双方向性を高めつつ行えること、また、デジタルペーパーに書いたものを共有、蓄積、集計・分析することで、新たな気付きをフィードバックできるとした。


E INK Mobiusを採用し軽量化 E INK Mobiusを採用しガラスパネル比100グラムの軽量化
模式図 デジタルペーパーソリューションの模式図

法政、早稲田、立命館大学での実証実験報告

法政大学 情報メディア教育研究センター 教授 常盤祐司氏 法政大学 情報メディア教育研究センター 教授 常盤祐司氏

 法政大学 情報メディア教育研究センター教授 常盤祐司氏は、DPT-S1(検証機)での実証実験について報告。使い方として、デジタルペーパーに参考資料を表示し、PCの横に置くようなもが多かったという。紙と違い、管理も容易で軽いため、海外出張では非常に重宝したと常盤氏。

 大学での使用事例としては、学生からの相談を受ける際に、それまで印刷していた無駄が省けたことが挙げられた。また、これまで、数式をPC上で書くのは困難だったため、採点用に、学生から提出されたものを印刷していたが、今後は手書き機能とネットワーク機能を利用して、デジタルペーパー上で「提出」「採点・赤入れ」「返却」まで行いたいという。


 早稲田大学 人間科学学術院 教授 畠山卓朗氏は、3つの観点からデジタルペーパーに言及。1つ目は、これまで印刷した方が良いとされていた文章校正の場面などでも、紙に近い特性を持つデジタルペーパーなら紙に代わり得ること、2つ目は周囲へのアンケートで、「見やすさ」「大きさ」「重さ」など全ての項目で好評価であり、「使ってみたい」という回答も90%と反応が良かったこと、3つ目は書類が山積みになっている教員の机の上をペーパーレス化によりスッキリさせるなどの用途が考えられるとした。アラン・ケイが1972年に描いた未来図のように、複数のデジタルペーパーで共同作業ができるようにしてほしいと要望で締めくくった。


畠山卓朗氏 早稲田大学 人間科学学術院 教授 畠山卓朗氏
実証実験の概要 思考ツール、研究計画シート、原稿推敲、卒業研究論文指導、過去卒論閲覧といった実証実験

 教育における「手書き」の効用を再認識するというテーマで実証実験を報告したのは、立命館大学 政策科学部 准教授 森隆知氏。同氏は「書き方の個性」というデータに着目。フリーハンドで書き込まれるこのデータには、ユーザーが重要だと感じる部分の強調方法の違いや、同じ内容を表現するのに文章とイラストのどちらを用いるかなどに差異があり、それがそのままデジタルデータとして保存、共有されることへの可能性を話した。教材(PDF)に直接書き込みできるのは、学生にとても好評だったそうだ。ただ、デバイスの反応速度は、より素早い追従を、との要望も挙げられた。


森隆知氏 立命館大学 政策科学部 准教授 森隆知氏
手書きレポートの事例 学生に提出させたデジタルペーパーによる手書きレポートの事例

非常に薄いが意外に頑丈、A4サイズのデジタルペーパー

 体験会では、DPT-S1をじっくり触ることができた。A4サイズながら約358グラムという重さは軽く感じられ、紙をはさむバインダーくらいの感覚で持つことができる。非常に薄いが意外に頑丈で、左手で持ったまま書き込みをするため右手をパネルに押し付けても、曲がったり捻れたりすることはない。下部のホームボタンなどは、フラットな場所を押し込むスイッチ式。設定メニューで用いられているアイコンは、Reader端末で見慣れたものだった。


デジタルペーパー「DPT-S1」のホーム画面 デジタルペーパー「DPT-S1」のホーム画面
設定画面のアイコン 設定画面は、Reader端末で見慣れたアイコンが用いられている
PDFファイルを開いた状態 PDFファイルを開いた状態。フリーに書き込みをしたり、付箋メモを付けたり、マーカーを引いたりできる

 付属のスタイラスペンの書き心地は、紙に書くというよりは「机に書くような感覚」。ペンを持つ手がディスプレイに押し付けられたままでも書き込むことができる。メニュー選択などは指でも操作可能だ。

 ピンチアウトで拡大、ピンチインで複数ページ表示。付箋メモはキーボード入力とフリーハンドが選べる。線の太さは2種類、色も赤と青の2種類。ペンのボタンを押しながら文字をなぞると、マーカーが引かれる。PDFファイルに書き込んだ内容は特別な操作なしに自動保存され、メニューの[注釈一覧]から一覧できる。


拡大 ピンチアウトで拡大できる
複数ページ表示 ピンチインで縮小すると複数ページ表示になる
下部右のメニューボタンを押した状態 下部右のメニューボタンを押した状態

 画面解像度は1200×1600ドット(150dpi)で、底部にはmicroUSB端子があり、PCなどと接続できる。本体容量は4Gバイトで、microSDカードで最大32Gバイトまで増設できる。表示できるファイル形式は、いまのところPDFのみ。フル充電から約3週間(Wi-Fiオフ、1ページあたり2分で1日60分の閲覧と、1ページ当たり10秒手書き入力時)使用できるという。


microUSB端子 底部にmicroUSB端子がある
microSDカードスロット 背面にmicroSDカードスロットがある

 13.3インチのDPT-S1を6インチのディスプレイを持つKindle Paperwhiteと比較すると以下のようになる。13.3インチという大きさ、そして、Kindle Paperwhiteの8.1ミリを上回る6.8ミリという薄さがお分かりいただけると思う。


Kindle Paperwhite(6インチ)とDPT-S1(13.3インチ)の大きさ比較 Kindle Paperwhite(6インチ)とDPT-S1(13.3インチ)の大きさ比較
Kindle Paperwhite(8.1ミリ)とDPT-S1(6.8ミリ)の厚さ比較 Kindle Paperwhite(8.1ミリ)とDPT-S1(6.8ミリ)の厚さ比較

 DPT-S1は、企業や大学向けのソリューションとともに提供・展開予定で、現時点では個人向けの販売は予定されていない。「読書端末」としてのReaderとは異なり、「閲覧および手書き入力端末」として紙の代替をしていくという方向性は、コスト減や業務の効率化、エコという観点からも興味深い。いまだに書類の山に埋もれている学校や企業も多いことを思うと、大きな可能性があるかもしれない。

著者プロフィール:鷹野 凌

鷹野 凌

 フリーライター。「日本独立作家同盟」呼びかけ人。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチ電子ナビ、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。ブログ「見て歩く者」で、電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆。自己出版で『これもうきっとGoogle+ガイドブック』を1〜3巻まで配信中。

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