時は昭和のはじめ 2人の少年が迷信と出会う『迷信話集うつつのほとり』

古い風習の残る田舎へとやってきた主人公が出会ったのは、「天狗」だと嫌われる娼年でした。正反対の2人の交流を描いた物語、草間さかえ『迷信話集うつつのほとり』を紹介します。

» 2013年11月05日 11時57分 公開
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 嫌われ者の弥七(やしち)と箱入り坊ちゃんの敬(たかし)。昭和初期の田舎で出会った正反対の2人の交流を描いた物語、草間さかえさん作、『迷信話集うつつのほとり』(リブレ出版/クロフネコミックス)をご紹介します。

迷信話集うつつのほとり

 病気の母親の静養のために、東京から山がちな村へとやってきた敬は、田舎ならではの迷信や風習に目を輝かせる中で、弥七という少年に出会う。

化七だ

山の和尚の所にいる狐よ

俺のお父は天狗の何かだって

カラスと話してた

その前は袂に血がべっとり

 周囲になじまず、孤独をまとっている弥七の様子は、敬の心を惹きつけ、2人は交流を持つようになる。やがて敬は、村の人々と弥七、どちらとも仲良くなっていく中で、1つの疑問を抱くようになっていく。

…弥七だって
青い梅が毒だって教えてくれた ぐみもあけびもおいしいって教えてくれた
僕も弥七もみんなと同じなのに お化けなんかじゃないのに
みんな遊べば幸せになれるのにな

 物語の中心にあるのは、田舎ならではの情緒溢れる四季折々の風景と、そして幾つかの迷信。田舎特有の長閑な様子や、敬と弥七の交流にはほっこりする半面、閉鎖的で古い考えに囚われた村の人々にもどかしい気持ちを抱いてしまうのも事実だ。

どうして どうして
どうして誰も止めないんだろう
キツネだとか 天狗だとか そんなわけないのに
化け者なんていないのに

 神隠しを信じる村の大人たちは、自分たちとはどこか違う雰囲気を持った弥七の存在を異ように怖がり、排除し、かかわらないようにする。村の子どもたちは、親からそう教わった。だから弥七をいじめる。一方敬は、母に弥七を友達だと紹介し、だから母も優しい笑顔で受け入れた。

…そう 大変だったのね
でも大丈夫よ あなたは聡明な子だわ
敬はここに来てから強くなったもの
色んな所に行って 色んな物を見て
きっとあなたのお陰ね だから皆にもゆっくり分かってもらえばいい
私も手伝うわ 敬の大事なお友達だもの”

 子は親に似る。親のまねをして成長していく生き物だ。異形の存在を恐れるのはいつだって大人で、それらを離れた立場で客観的に見れば、誰だっておかしいことに気付く。だが、その渦中にいて囚われたままの人々には、それこそが迷信なのだと気付くことすらできないのだ。

 この物語の結末は決して悲観的ではない。皮肉のようだが、この村の人々は良くも悪くも迷信に囚われている。純粋な敬と母、そして弥七。村の外からやってきた新しい風がやがてこの村へと駆けめぐり、悪い迷信は良い迷信に変わっていく。

みーんな 幸せになればいいのよ

 そう、敬の母親が言ったように。田舎の良いところも悪いところもすべてひっくるめて、成長していけばいいのだ。

(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)

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