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» 2013年10月16日 10時00分 UPDATE

KDDIと幻冬舎がコラボ:作家・三崎亜記氏が新作小説『イマジナリー・ライフレポート』をブックパスで独占配信

『となり町戦争』『玉磨き』などの作品で知られる三崎亜記さんがKDDIの電子書店「ブックパス」に新作小説を独占配信。「(電子書籍について)自分では語るまいと思っていた」と話す三崎氏の目には電子書籍はどう映っているのか。

[西尾泰三,ITmedia]

 KDDIと幻冬舎は10月16日、KDDIの電子書店「ブックパス」で“ブックパス with 幻冬舎”としたコラボレーションを開始、オリジナル小説の独占配信を開始した。KDDIと幻冬舎は、2009年に10代限定の小説新人賞「蒼き賞」を共同で実施した実績も持つ。

ブックパスをおさらい

 ブックパスは、読み放題のプランを取り入れた数少ない電子書店。月額590円で読み放題となるプランと、一般的な電子書店と同様、一冊ごとに購入できるプラン(アラカルト)との二階建てのサービスとなっている。ストアに関する目新しい情報としては、読み放題プランが7000冊超となっていること、提供出版社が130社以上であること、利用ユーザーの属性は男女比がほぼ半々で、男女ともに30代、40代の利用が中心であることなどが紹介された(最も利用しているのは30代女性)。

三崎亜記氏の新作小説と有名作家8名の恋愛アンソロジーを独占配信

三崎亜記氏の新作小説『イマジナリー・ライフレポート』 三崎亜記氏の新作小説『イマジナリー・ライフレポート』

 今回の取り組みは、大きく2つ。1つは、作家・三崎亜記氏の新作小説『イマジナリー・ライフレポート』を配信すること。もう1つは、有名作家8名による恋愛アンソロジーを独占配信することだ。いずれもブックパスの読み放題プランで配信される。

 イマジナリー・ライフレポートは6編から成り、各編が上下に分けられた全12回が毎月上旬に配信される。10月16日から配信が始まったのは、『正義の味方(上)』。この作品はもともと、幻冬舎から隔月で刊行されている文芸カルチャー誌『パピルス』で2編が描き下ろされていた(正義の味方もこちらに掲載されていた)が、今回の発表により、第3編以降はブックパスでのみ読むことができるようになる。なお、連載終了(2014年12月予定)後は、幻冬舎から紙の本でも刊行予定だという。

 また、従来はアラカルトでのみ提供されていた三崎氏の『玉磨き』が読み放題プランに登場するほか、auスマートパス会員向けに、『玉磨き』から表題作「玉磨き」が無料公開され、ブックパスを利用していなくてもブラウザ上で読むことができる。

 有名作家8名による恋愛アンソロジーの配信は、具体的なテーマを「auスマパス総会」で決定するのも特徴。auスマパス総会は、ユーザーの投票で物事を決定するユーザー参加型のサービスで、2013年6月にスタートしており、これを作品制作に生かす考え。10月16日から11月6日までが議決日程となっており、「きゅんきゅん系」「ドロドロ系」のどちらが読みたいか投票を受け付けている。実際の作品配信は2014年1月からの予定。これらの内容や進行状況は「ブックパス幻冬舎企画特設サイト」で確認できる。

電子書籍について自分では語るまいと思っていた(三崎氏)

三崎亜記氏 三崎亜記氏

 自身が20年来のauユーザーであるという三崎氏。電子書籍については、「自分では語るまいと思っていた」と明かす。それは、発言したことが、20年後、30年後に恥ずかしいことになるだろうという気がしたからだという。

 「それこそ明治のころに鉄道が敷かれたら宿の客が減るとか、田んぼの育ちが悪くなるとか、そんな感じで反対していた人たちと同じようになりそうだと思っていた」(三崎氏)

 そして、今回の取り組みに参加したのは、日常的にスマホなどで本を読めるようになることの一助になればという思いからだとし、次のように説明した。

 「例えば今、スマホでニュースを見るのは当たり前のことになっている。そこにおいて、誰も(紙の)新聞との比較はしない。スマホでみるニュースはそうしたものとして受け入れられている。本の場合は、(紙の)書籍で見る本とスマホで見る本は“比較の対象になっている”という段階。スマホで見る本が普通のことのようになるためにも、これから先、作家がいろいろ考えていかなければならないと思う。その意味で今回の取り組みはその一歩になるのではないか」(三崎氏)

 電子書籍が普及していく中で、作家としてはそれをどうとらえているかを聞くと、三崎氏は次のように答えた。

 「スマホ(あるいは電子書籍)の特異性——例えば悲しい場面で悲しい音楽が流れるといったような——はあるかもしれませんが、『こういうメディアだからこういうやり方が効果的だろう』といった“押しつけがましいやり方”は(ユーザーに)かえって敬遠されるのではないかと思います。今の感度の高い消費者は、そうした押しつけを嫌い、自分で探したい、というのがあるのではないかというのを、今までの法則ではヒットしないと思われていたものがヒットしたテレビドラマの状況などをみても感じます。真摯に創りたいものを創って、それを届けるしかないのかなと思います」(三崎氏)


『玉磨き』 『玉磨き』

 三崎氏といえば、多くの読者は氏のデビュー作にして、小説すばる新人賞受賞作品の『となり町戦争』を思い出すかもしれない。しかし、イマジナリー・ライフレポートは、2013年に幻冬舎から刊行された『玉磨き』の流れをくむものだといえる。

 『玉磨き』は、本文から引用すれば、「失われても気にもされないもの。かつてそこに存在したことすら、誰にも思い出されないもの——」を追った作品。集落に伝わる伝統産業「玉磨き」の唯一の担い手、通勤用観覧車の企画設計から設置運用までを請け負う只見通観株式会社など6つの「仕事」をルポタージュという形態でまとめたものだ。

 これら6編は、読者を夢とうつつのあわいにいざなうような不思議な読後感で包み込む。これを「三崎ワールド」と表現するのは簡単だが、そうした言葉の枠では収まりきらないレトリックの心地よさを十二分に味わえる作品だ。

 玉磨き同様、ルポタージュとして書かれるイマジナリー・ライフレポートについて、三崎氏の言葉で表現すれば、「仕事ではなく、人」にフォーカスした内容。三崎氏はこの作品を、「評価の定まってしまった人を別の視点からみてみたいというのもあるし、当人が思ってもないような状況がある個人を、当人がどう認識しているのかみたいなものを掘り下げたいと思いました。例えば、“ドミノの駒”ってありますよね。でも今やドミノ倒しにしか使われていなくて、ドミノがどんな遊びか知らないですよね。そんなドミノの駒を人間に置き換えたような」ものとしている。最初に配信される「正義の味方」を読めば、こうした言葉の真意が読み取れるだろう。

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