インタビュー
» 2013年10月07日 08時00分 UPDATE

まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト:スタートから1年、出版デジタル機構の現状と次なる構想を聞く (1/2)

2013年、電子書籍は新たな局面に直面していた。そんな変化の最前線を行く人々にその知恵と情熱を聞くこの連載。今回は、スタートから1年余りが経ち、最近では電子書籍取次大手ビットウェイを買収・統合し注目を集めている出版デジタル機構の野副正行代表取締役社長に出版デジタル機構の「今」を聞く。

[まつもとあつし,eBook USER]

 出版デジタル機構が展開する書籍の電子化事業「パブリッジ」。半官半民の産業革新機構と、大手・中堅出版社15社以上からの出資を受け、5月には凸版印刷グループとの間で電子書籍取次大手ビットウェイの買収を発表、10月1日付けでそのビットウェイを合併により統合し注目を集めている。

 一方で、その機構が昨年関わった経済産業省の『コンテンツ緊急電子化事業』、通称緊デジの成果には疑問の声も上がる。スタートから1年余り、外からはその概要が掴みにくいこの事業について、再び野副正行代表取締役社長に話を聞いた。

進む電子化とKindle未供給の理由

出版デジタル機構 野副正行代表取締役社長 複雑な業界の構造を分かりやすく語ってくれた出版デジタル機構の野副正行代表取締役社長

―― まず、パブリッジ事業の現状を聞かせてください。

野副 事業開始時からの外部環境の変化として、電子書籍を巡る環境は非常に整ってきたと思います。楽天kobo、Amazon Kindle、Apple iBookstoreなどの電子書籍サービスが続々と登場し、電子書籍端末だけでなく、スマホで読書する環境も整いました。そんな中、われわれも約1万6000点のタイトルをお預かりし、電子書籍化を代行しマーケットに送り出しています。

―― しかし、電子書店の中でも最も大きなインパクトがあったKindleには、パブリッジからのタイトルが供給されていませんね?

野副 緊デジで当初出てきたものはフィックス型が多かったのです。1万強がフィックス型で、リフロー型の方が少なかった。ご存じのとおり、アマゾンはKindleで販売する電子書籍は一律EPUBのリフロー型で納品するように、という条件を設けています。

 しかし、緊デジで扱った作品には、講談や落語の速記本のように、むしろフィックス型であることに意味があるような本もたくさん入っていましたし、われわれとしてもそうした作品を電子化したいと考えていました。何十万人という読者が読みたい、というものではないですが、それを読んで勉強したり楽しんだりする方が必ずいる。実際、当時の書き込みが紙面に残っていたりして、それが専門家の方からも評判だったりもしました。

 こういう体験はリフロー型だと提供できないわけです。かつ(紙面をスキャンして電子化する)フィックス型であれば、現時点ではリフロー型に比べ素早く低コストで作品を提供できます。

―― 前回のインタビューで、当初は懐疑的だったフィックス型のメリットを沢辺さん(編注:スタジオ・ポット代表取締役の沢辺均氏)が見出す過程をお話しいただきました。Amazonについては特に排除するものではないとも野副さんはおっしゃっていて、パブリッジとしてはその方針に変わりはない、ということですね。

野副 その通りです。AmazonとしてはEPUBのリフロー型がお客様に対して一番いいサービスだと考えているはずで、それは尊重してわれわれも対応していこうと。しかし、その条件で出せるのは4000タイトルくらいなので、追々お出ししますよということで最終契約まで至っていなかったのです。

 しかし、この後お話しするビットウェイの買収構想は当時からありましたので、パブリッジとして最終契約までいかなくても、ビットウェイの取り扱いタイトルからは供給できることになるとは考えていました。

―― なるほど、ビットウェイは既にアマゾンKindleと取引があるから、そちらで、ということですね。

野副 そうです。

緊デジへの批判をどう捉えるか?

―― ここまでのお話の中でも、緊デジが何度か登場しました。緊デジの成果に対しては否定的な意見もたくさんあります。

野副 「本当の意味で東北復興予算だったのか」などさまざまな意見がありますね。いろいろな意見があって良いと私は思っています。ただ、大きな意味でいうと、東北にラインも組んで実際に制作をしてくださった大日本印刷さんや凸版印刷さんなど多くの関係者がおられます。そういう方々の苦労も見てほしいと思います。もちろん、そうした多くの人々にとってはじめての事業ですし、人間が取り組むことですから、100点満点という訳にはいかないとは思いますが。

 ただし、当初の目標に対しては、官民一体で一所懸命やれたんではないかと私は思います。例えば、お預かりした約1万6000点の中身を見ると、大手出版社の方々からいただいたものは、3000〜4000点くらいです。残りの1万点以上はそれこそ、地方新聞社や中小規模の出版社から、タイトルは数点程度という出版社もたくさんいらっしゃいました。それはそれで意味があることだと思うのです。

 フォーマットという技術的な問題もありましたし、著者の許諾を得ることが初めてという方も多かったはずです。EPUBであれば何でもOKというわけでもなく、電子書店ごとに差異があることも分かりました。書誌データもバラバラ、変換がある程度自動化できても、校正・校閲には人の目が欠かせません。予想以上に負担があったはずです。

 われわれとしては、「みなさん、いいと思ったタイトルは何でもお持ちください」とオープンにしたんです。まずはやってみる。電子書籍を作って売るという世界に多くの人に入って来てもらい、一緒にさまざまな苦労を経験する。それは今後の展開を考える際にとても意味があることだったと思うのです。われわれがビットウェイと一緒になろう、と決心したのも、緊デジで経験した困難に対する答えが見いだせるのではないか、という期待があってのことです。

―― ただ一般には、そういったノウハウはできるだけ内部化して、競争力、差別化要因にしようということになります。今のお話では、ノウハウを皆で共有することに意義があるということですが、そうすると、パブリッジの強み・存在意義はどこにあるのでしょうか?

野副 われわれには、産業革新機構というファンドに加え、大手・中堅出版社、大日本印刷・凸版印刷という印刷大手に株主として参加していただいています。そういった関係者には、まずは広い意味で「豊かな電子書籍の文化」を作るという大きな目標があります。言い換えれば、読者数やマーケットを、紙の書籍と同じように大きくしなければならない、ということです。

 大型書店に行くと、50万点くらいの本や雑誌が、所狭しと並べられていて、それを眺めているだけでも楽しいじゃないですか。そういう世界を電子でも作らなくてはいけない。さらに言えば、本来最も人間の想像力をかき立てる魅力的なコンテンツであるはずの「本」の存在感を、スマホやタブレットのような電子の世界でも確立しなければならないということですね。

―― まずは、外部の制作体制も含めてその環境作りをする、ということですね。

野副 まずはそこからですね。全体として市場が大きくなれば、われわれの存在意義も高まるはずです。作品を版元さんからお預かりし、コンテンツとして電子書店に並べてもらう、その流れが太くなれば価値は自然と生まれてくるだろうと考えています。まずは試行錯誤してその流れを作った。これからそれを太くするためのさまざまなインフラ作りに積極的に動いていこうとしているのが現在の段階です。

―― 緊デジ批判の背景には、「国がなぜお金(税金)を入れる必要があるのか」という部分も大きいと思います。デジタル化の波にさらされているのは、書籍に限らず、音楽や映像なども含まれますが、その必然性はどこにありますか?

野副 まず誤解が多いのが、出版デジタル機構に国から直接お金が入っている訳ではありません。民間からの出資も加わった産業革新機構に加え、出版・印刷業界からの出資も受けている、あくまで民間企業です。

 音楽や映像の世界は「標準化」に向けた連携が書籍に比べ圧倒的に早かったのです。それは、各社が基本的に開発から販売まで垂直統合の仕組みを持っていて、規格に依らず各社が自社のコアな強みでもって市場で競争することができたからです。

 出版業界はそうではなく、分業され、横割りになっている。これはいい面もあって、参入障壁が低いので、垂直統合の仕組みを整えるような大きな資本を持っていなくても、良い企画があれば出版社として本を作ることができた。結果として多様な本の世界を築き上げられた要因となっていたわけです。

 しかし電子の時代にはその方法は通用しない。取次がキャッシュフローを支えてくれることはなく、ダウンロードされなければお金は一切入ってこない。制作からマーケティングまでを全部自分でやろうとすると、コストも手間も大変なことになってしまう。

 だから、われわれのような、「電子化」「マーケティング」、そして今後は「標準化」と「流通インフラ」を担うような機能が存在する必要があり、その成立を国として促進するために産業革新機構も出資を行っているのです。

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