PFU SV600開発秘話・ここだけの話・そしてこれからスタパ齋藤突撃インタビュー(1/3 ページ)

7月12日発売されたPFU SV600は、「非破壊型・非接触型スキャナー」として大いに注目を集めた。その開発にまつわる話をスタパ齋藤がズギャッと聞いた。

» 2013年09月11日 11時00分 公開
[スタパ齋藤,ITmedia]

 6月13日、PFUがパーソナルドキュメントスキャナ「ScanSnap」シリーズの新モデル「ScanSnap SV600」を発表した。このスキャナは今までのシートフィード方式のスキャナとは違い、スキャン対象を裁断することなく、フラットベッドスキャナのように読み取り面に押し付ける必要もない、いわば「非接触・非破壊型」のスキャナ。これまでも、この類のスキャナは業務用では用意されていたが、その価格は一般の人が手にできるような価格帯ではなかった。それを5万円台後半で販売するということで、話題性も充分、ガジェット好きを自認する人達の間でも大いに盛り上がった。

 ガジェット好きといえば、この人――そう、スタパ齋藤氏のことを忘れてはいけない。

 そこで今回、eBook USERでは、スタパ氏をインタビュアーに擁立し、PFUに突撃、商品企画部・宮内康範氏とパーソナルビジネス営業部・松本秀樹氏に開発時の苦労話、また今後のバージョンアップの予定などについて尋ねた。

「自炊」という言葉が生まれる前から

スタパ齋藤氏

スタパ齋藤氏(以下スタパ) この製品の私の最初の感想は「サイバーだしカッコイイ!」というものでしたが、自炊(自分の蔵書をスキャンして電子化すること。多くはスキャンしやすいように裁断している。)系の人たちからすれば「これで持っている書籍の電子化がはかどるぞ!」という感じだったようですね。その反面、すべての蔵書をこれで自炊するのは厳しいぞ、という意見もありました。

宮内康範氏(以下宮内) 実際は、これで手持ちの書籍すべてを自炊するのは難しいと思います。

松本秀樹氏(以下松本) 「非破壊」だから、というところで、自炊なさる方たちは飛びつかれたみたいですけどね。

宮内 そもそも開発に着手したのがいまから5年前、2008年からで、そのころはまだ「自炊」なんて言葉は登場していませんでした。iPadが発売されたのも2010年ですしね。

スタパ では、この製品、一体どういう人を対象にして作られたんでしょう。

宮内康範氏

宮内 われわれはいままで、ScanSnapとしてADF(オートドキュメントフィーダー)タイプのスキャナを作ってきましたが、世の中にはオートシートフィーダを通せない紙がまだまだたくさんあるんですよね。捨てるには惜しい、でも思い出として残しておきたいお子さんの作品ですとか、新聞・雑誌やメモ、それから契約書などですね。そのようなものを保存しておきたいご家庭での利用を想定してました。ドキュメントスキャナですから、企業も想定していましたけれどね。

スタパ これまでそういう要望はあったんでしょうか。

宮内 いいえありません。そもそもそういう人は、デジカメで撮影したり、オーバーヘッド型スキャナを利用するなどの代替法を考えていましたから。ただ、そういうもので撮影すると、画質が悪かったり歪んだり、電灯が映り込んだりしてしまい、せっかくの思い出の品なのに、ドキュメントとして「後から見たい」と思えるものになっていなかったんです。

 それで、われわれが今まで提供してきたADFのように綺麗な画質で簡単に保存できるものを作りたい、と思ったのがきっかけです。

高被写界深度レンズとライン型CCDセンサー

スタパ さすが、ScanSnapのPFUさん。画質へのこだわりが違いますな。最も開発に苦労したところ、となると、やはり、この部分になるんでしょうか。

宮内 そうですね、ここですね。ここにレンズが付いていて、その奥のところにCCDが付いていて。デジカメのように面で読み込むのではなく、フラットベッドタイプのコピー機の読取りヘッドが移動しながらスキャンするように、ラインで読み取っています。ただ、この場合、スキャンし始め(操作者の奥側)と終わり(手前側)とでは距離が違います。それでもピントが合って鮮明な画像が出るような技術を投入しています。単焦点なんだけども、焦点の合う距離が深い――被写界深度っていいますけど、それが深い。この短い距離ではこれだけ被写界深度を深くして、上下左右、余す所なく鮮明にする、というのは難しかったですね。あとは、ソフトウェアですかね。

スタパ その、レンズ部分は、非球面レンズみたいな。その辺りは秘密の技術なんでしょうか?

宮内 企業秘密というか、見ても分からないと思いますので。レンズだけ、というわけではないですから。

松本秀樹氏

松本 まあ、カメラでも短い距離で深い被写界深度というのはできなくはないですが、奥から手前までこれだけ綺麗な画質が得られる、というのは難しいですよね。それから光の強さ、ヘッドの動くスピードなどを微妙に調整しているんですよ。

スタパ スピードもですか!

宮内 はい、距離が変わってきますからね。距離が離れればその分ヘッドの動くスピードも遅くしないと、画像が乱れてしまいます。

スタパ そうですよねぇ、その距離のためか、若干手前が「ざらつく」感じがあるんですが……

宮内 えっ? そうですか?

スタパ あ、いえ、そんなにってほどではないんですけど、気になるほどではないんですけど、自分はちょっと気になるかなぁっていう程度でして、若干……

宮内・松本 (ひそひそ)これはちょっと改善しないといけませんねぇ。

スタパ あ、いや……で、でも、ほとんど気にならない程度まで、奥から手前までピントが合う、というのは高い技術を要するのではないかと……。

宮内 そうなんですよ! この業界の人にとってみれば、手前から奥まででは対象物との距離が違うにもかかわらず、こんなに綺麗な画質でスキャンできるのは驚きなんですよ。

スタパ ですよね〜。細かいところまで作りこまれているんですなぁ。ところで、購入した人、また、これから購入する人には気になるところだと思うんですけど、メンテナンスはどうしたら良いんでしょうか。あと、消耗品の販売予定とかはありますか?

宮内 いえ、ありませんよ。というより、不要です。もしレンズを触ってしまって指紋がついたり、この白いシートの部分が汚れたりしたら拭いていただくだけで良いですし、消耗するものなどはありませんし。

スタパ おお、それは心強いですねぇ。ところで、この白いシートの部分は何ですか?

明るさセンサー

宮内 これは、明るさセンサーです。

スタパ 部屋の明るさを感知して、照射する光の強さを変化させているっていうことでしょうか?

宮内 いえ、本機は、部屋の明るさは関係ないですし。照射する光の明るさだけを確認している、といったところですね。

スタパ ほう、どんな調整がなされているんでしょうか?

宮内 それは企業秘密です。

スタパ あ、そうですよね。じゃあ、ここのセンサー部をこう、ちょっと、手で隠したりしたら、もっと明るく照射したりとか……。

宮内 しません。

スタパ あ……そうなんですね(汗)。それで、今のところ、どのような人が購入している、または予定している感じなんでしょうか。

松本 まだ発売されて日が浅いので何とも言えないのですが、個人でもアーリーアダプターと呼ばれる人たちが買ってくださっているようですね。ScanSnapのファンの方たちですとか。さっそくブログに上げていただいたりして。また、考えていたより企業で購入いただいているケースが多いようです。裁断したくない契約書やちょっとしたものをデジタル化するのにお使いいただいているようですね。

 また、アーティストがご自分の作品の譜面をiPadに入れておくために手軽に使える、ということで、重宝してくださっているようです。

宮内 デザイナーさんがテキスタイルを撮ったりするのに使ってみたい、製造業の方が不良品の基板が出たときに、それを撮るのに使ってみたい、というお問い合わせもいただいています。

松本 コンシューマー向けとして出した製品ではありますが、業務用途として広がりを見せているようです。

宮内 ほかに変わった所では、医療系がありますね。

スタパ 医療系ですか?

松本 取り出した臓器をスキャンするのに使えないか? という要望も受けています。そういう時は両手がふさがっていたり、スキャナを直接触れることができない場合が多いと思いますので、フットペダルなどと組み合わせて、ノータッチでスキャンできれば、更に重宝されると思います。3センチまでの厚みであれば、立体物でも撮影できますし。

スタパ そ、それは……(苦笑)。立体物といえば、私は記事を書くのに立体物の撮影をけっこーやるんですが、「もしかしてこれで撮れたら、超絶楽なのでは?!」と思ってキーボードの撮影に挑戦したんですよ。モノによっては割合きれいに撮れたのですが、Appleの外付けキーボードになると、キートップが白いからか、明るすぎてあまりリアルな立体物に見えない画像になってしまいました。

宮内 そうですね、立体物だと底面からの高さがある分、より光源に近くなって、明るく撮れてしまうのかもしれませんね。

スタパ なるほど。

宮内 もともとの解像度が300dpiでソフトにスキャンできているところをソフト側で調整して、白を強調したはっきりとした画質にしているんです。そういうのも影響しているのかもしれないですね。

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