子どもたちと過ごす時間が少しだけ増える夏休み。今年の夏は、いつもより尊敬されるお父さんになるべく、こんな本を手にとってみてはいかが?
夏休み直前。異常なほどの暑さのため、寝苦しい夜が続いている。そんな夜は、無理やり寝ないで、家族みんなで集まって、「怪談会」はいかがだろうか。明かりを消せば、涼しさ満点。「お父さん、一緒に寝よう」という声も聞こえてくるかもしれない。
「夏休みこそいいとこ見せたい見てみたい!」特集第二弾は、そんな話のネタになる本をご紹介する。ただし、演出はほどほどに。
ライブ活動を中心に、まさに「旬」で「生」の怪談にこだわっている、ファンキー中村氏。現在はライブ、TV、ラジオで精力的に活躍中だ。そして、他の追従を許さない、ネットラジオ「不安奇異夜話(ふぁんきーやわー)」は、怪談ラジオでは、そのリスナー数からお化け番組として知られる。
そんな同氏の渾身の一冊が、今回ご紹介する『不安奇異夜話 不明門の間』(竹書房)だ。
同氏の怪談で、特筆すべきは、体験に基づく怪談がほとんどであるということ。日常の、そして、身近な状況から繰り出される、摩訶不思議な怪異は、他にはない、はじめて聞く怪談ばかりでオリジナリティに溢れている。
自身の体験に基づく実話怪談なので、その情景描写は詳細で、読者にとっては身近な日常が連鎖的な恐怖へと変わる、そんな作品が集まっている。
ファンキー中村氏と言えば、大ネタが有名だ。ライブで、一話一時間超というネタも沢山あるが、この『不安奇異夜話 不明門の間』は、読みやすいサイズの身近な怪談が集められている。短いからと侮るなかれ。短いからこそ、あと引くものなのだ。
ここでは、本書から特におすすめの話を紹介しよう。
それは、知人である山吹の新築の家に訪れるところから始まる。
やっと購入した新居。そこに招かれたファンキー中村氏。しかし、家主はその新居を自慢したいがために、彼を呼んだわけではなかった……。夜になると、庭に置かれた子供用のプールを誰かが訪れる。一体誰が? そこで何が起きていたのか。
家や土地に何かが有るのではなく、意外なものと、そして、何よりも、家主・山吹の職業が絡み、引き起こされる恐怖。
子供用のプールのように楽しげなものから始まる恐怖は読後も、ねっとりとした恐怖感を抱かせ続ける。
これは非常に短い短い怪談であるにもかかわらず、その情景描写により脳裏に描かれる恐怖の光景は、まるで自分がそこにいるかのようである。
果たして、聞こえてくる声はどこからのものなのか、飼い犬が目で追っているものは一体何なのか。ぜひとも、体感するかのように読んでほしいストーリーだ。
「怪談は怖い話」という概念を覆す、涙の溢れてくる逸話がこの作品だ。日本を支えてきた農村の歴史は日本の歴史でもある。だが、その生活はガラリと変化した。しかし、長く受け継がれている伝承もある。
中村氏のもとに現れた子どもたちは何を伝えたかったのだろうか。彼らはどこへ行ってしまうのだろうか。
切なく、そして、いまわたしたちがどれだけ幸せであるかを再確認できる感動作。是非、親子で、この話をかみしめてほしい。
本書が出ると決まったころ、ファンキー中村氏から直接聞いていた話なので、選者の思い入れの強い作品。
仕事や学校の行き帰りなど、だれにでもある普段の生活の中で起きる恐怖のため自分の身にも起きそうな、そんな感覚を覚える話だ。
ファンキー中村氏がお気に入りだった飲み屋の帰りに出会った喪服姿の男。彼は誰で、一体何のために氏に会いに来たのだろうか。なぜ氏を選んだのか。飛んできて体にまとわりついた「あれ」は何だったのだろうか。
そして彼は、「橋を無事に渡った」と告げに来た。あれは夢かうつつか。
謎の男が自宅の寝室で繰り広げる恐怖は、読みながら戦慄を覚える。ぜひとも文章から溢れ出る恐怖を体感してほしい。
株式会社SPPS 取締役副社長兼最高技術責任者。ソフトウエアのテスト、品質保証、マネージメント専門家。
ITの世界にどっぷりと浸かっているが、自身の怪異体験から、怪異の存在を認めざるを得ないでいる、怪異懐疑派。怪異現象については、分析、解説を行なうのが悪い癖。
北海道富良野「FMラジオふらの」の「不安奇異夜話富良野之怪ラジヲ変」を中心にネット怪談番組に出演中。
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