SV600で、読み取り可能な原稿の厚みは30ミリまでだ。これは主光学系のピントが合う範囲(被写界深度)が、付属マットの表面から30ミリ分あるということ。専用の光学系を採用することで、付属マットの中央から端まで、きっちりピントの合った像が得られる。
実際に本を読み取らせてみよう。原稿厚30ミリといえば、紙の厚みにもよるが、一般的な単行本ならば約500ページ分。美術書などでは約200〜300ページ分となる。本を開いてページが閉じないように指で両端を抑え、読み取り開始ボタンを押す。直後に読み取りヘッドの照明が点灯し、スキャンが始まるのだが、手を戻すだけの時間の余裕はある。
スキャンの光が端まで達したら、読み取りヘッドが元の位置に戻る時間を利用してページをめくりふたたび、ボタンを押す。それを繰り返していけばよいわけだ。
慣れてくれば、ScanSnap Managerの設定により、指定秒数間隔をあけての連続スキャン、ページめくりを検出しての自動スキャンなども使ってみよう。読み取り開始ボタンを押す手間が省ける。
もっとも、あまりにページ数が多いと、さすがに読み取り作業に時間が掛かる。高速に処理できる高性能なPCにつなぎ、PC側での待ち時間がなく連続してスキャンできるとしても1回のスキャン動作に5秒。見開き単位で読み込むとしても、500ページの本で250回。単純計算で最短20分間は、連続してページをめくり、本の両端を指で適切に抑えていなければならない。この作業が思いのほか面倒で飽きがきてしまう。部屋の照明などの条件、本の紙質の違いにもよるが、ページめくりの検出がうまくいかないことがあり、連続スキャンで読み取らせるにはページめくり作業への集中力が必要なためだ。
また、SV600からPCへのデータ転送、PC側での原稿種認識や自動成型処理に時間が掛かる。SV600の動作環境(スペック)は以下のようになっており、そこそこの処理能力が要求される。試しにWindows XP環境のモバイル普及機でも動かしてみたが、スキャン後の処理にかなりの時間を要し、さらにはメモリ不足でScanSnap Managerがハングアップすることもあった。
CPU:Intel Core i5 2.5GHz以上
メモリ容量:32ビットOS 1Gバイト以上(推奨4Gバイト以上)、64ビットOS 2Gバイト以上(推奨4Gバイト以上)
ScanSnap Managerに読み込まれたデータは、読み取ったままの(鳥瞰図の)状態で保存するか、本や雑誌などの見開きイメージのゆがみを補正して(平面図にして)保存するかが選べる。本を見開いたときの紙の湾曲を補正し、平面にする。これこそがSV600のキモともいえる部分だ。
補正ビューアを用い、ページの上下左右の角、見開きの綴じ目(ノド)の上下の8点を指定すると紙の反りによって生じる本の上下の曲線も、イメージの明暗に沿って認識されピタッと合う。
また、ページを抑えている指(手)に関しても対応が考えられている。補正ビューアには、写り込んだ指の範囲を自動認識し、そこを周囲の明るさや色で塗りつぶす機能がある。修正後のイメージからは、手で抑えていたことは微塵も感じさせない。ただ、この機能も、読み取ったページごとに「ここが指ですよ」と指示しなければならないため、ページ数が増すと手間が掛かる作業となる。
SV600の価格は、PFUダイレクトで5万9800円。通販などの実勢価格は最安で5万4000円前後である。シート原稿の読み取りに特化したScanSnapシリーズのフラグシップと称されるScanSnap iX500よりも実勢価格で1万5000円ほど高額だ。その背景には独自のオーバヘッドセンサーの構造や光学系、スキャン動作やPCに送る前の(光学系に起因するゆがみを補正する)画像処理エンジンなど、商品化に伴う開発コストの問題があるのだろう。
今回の試用でさまざまな原稿をスキャンした結果、SV600の活躍シーンがある程度見えてきた。
SV600を定位置に設置し、ネットワーク接続された専用PCにつないでスキャンステーションとする。多彩なドキュメント、例えば数ページのカタログや書籍の任意のページ、書類、画像などを資料として参照・引用するためにスキャンして共有する。
アルバムに入ったままの写真やポラロイド写真(台紙部に厚みがある)などをデジタル化したいときに、さっとSV600を取り出して使う。あるいは、比較的ページ数の少ない希少本や写真集・画集などを傷つけずに精緻にデジタル化したいときに使う。
A4以上A3未満の大判の原稿に加え、ある程度の厚みがありフラットベッドタイプのスキャナでは影が出てしまうもの、あるいは、抑えつけると壊れてしまうようなものを、細部まできっちりデジタルイメージ化したい特殊なニーズ、例えば手芸作品や植物標本などの記録にも有効である。
ScanSnap SV600は、発表直後からいわゆる自炊ユーザーに大層注目されたが、単行本などを丸ごと一冊デジタル化するのは、ゆがみ補正や指のスポット修正など後処理の手間が掛かるため効率的ではない。また残念なことに、『非破壊で本を自炊できるScanSnap SV600の登場により、不正行為が増長する』などの声も一部で挙がっていたが、それも無用な心配である。オーバーヘッド走査によるスキャナとして登場したScanSnap SV600、ハードウェアのユニークなところはほかに類を見ない。この斬新な製品を生かすサポートソフトの拡充にも期待したい。
1963年生まれ。IT系雑誌・Web媒体への企画および執筆、天文・生物など科学分野の取材記事などを手がけるフリーランスライター。デジイチ散歩で空・月・猫を撮る日常。理科好き大人向け雑誌「RikaTan」編集委員。主な著書に『失敗の科学』、『光る生き物』(技術評論社)、『〜科学を遊ぶ達人が選んだ〜科学実験キット&グッズ大研究』(東京書籍)、『やっぱり安心水道水―正しい水のお話』(水道産業新聞社)などがある。
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