ブックフェア/電子出版EXPOでにぎやかだったブースたち東京国際ブックフェアリポート

東京ビッグサイトで開催中の「第20回東京国際ブックフェア」。ボイジャーや楽天Koboのブースを紹介する。

» 2013年07月05日 22時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
BookLiveブースより。7月4日には第3期(2012年4月1日〜2013年3月31日)の決算公告も出ており、これによると売上は約12.3億円、当期純損失は約40.8億円。これだけを見れば厳しい数字に映るが、当初の計画ではオープンから3年間は投資フェーズと位置づけられており、これ自体は特に驚きはない

 7月3日から東京ビッグサイトで開催中の「第20回東京国際ブックフェア」。別記事「東京国際ブックフェア、今年は何が新しかったか」で取り上げていない注目のブースを以下で紹介しよう。

次を見据えて動くボイジャー

ボイジャーブースはブース内で行っていたセミナーも大盛況

 7月2日に米国でクラウドパブリッシング事業を手掛ける「Aerbook」との技術提携を発表したボイジャーのブースは、業界の著名人を数多く招いたブース内セミナーなども盛況だった。

 同社ブースで展示されていたBinBは、EPUBのほか、.book、PDFなどに対応するいわゆるブラウザビューワ。BookLiveやYahoo!ブックストア、講談社や集英社、ハーレクイン ライブラリなどがBinBを採用している。

 こうしたブラウザビューワを自社開発するところもあり、また、ここ1カ月ほどでさまざまなEPUB対応ブラウザビューワも登場しているが、実績では頭一つ抜けている印象があるのがBinBだ。最新版では、関連コンテンツなどを表示するサイドメニューなども実装した。

BinB最新バージョン(1.4)ではサイドメニューも BinB最新バージョン(1.4)ではサイドメニューも

 今回ボイジャーが展示しているものの中で注目されるのはEPUB 3ファイルを専門的な知識なしに作ることができるASPサービス「EPUB 3メーカー」。同サービスは素材をアップロードすれば、Kindle、iBooks、Google、Koboなどそれぞれの電子書店向けに適切なメタデータを追加したEPUBを数クリックで簡単に制作できる。リフロー、フィックスの両方に対応し、Microsoft Wordファイルからの変換にも対応。プレビューツールには上述のBinBが使われている。

 以前から同社のdotBook Builder契約者向けに提供されているこのツールと同様のツールには「でんでんコンバーター」などもあるが、効率よく高品質なEPUB 3データを作成できるツールとして順調に進化している。

楽天Kobo

kobo aura HDも参考展示

 昨年の電子出版EXPOで「読書革命」を掲げ、国内市場への参入を果たした楽天Kobo。今年はブックフェアにブースを出展し、こちらも多くの来場者でにぎわっている。

 書籍コンテンツを、電子と紙の両軸でしっかりカバーしていく姿勢を見せている楽天Kobo。日本で未発売の電子書籍リーダー端末「kobo aura HD」とタブレット端末「kobo arc」も参考展示されていたが、国内市場への投入は慎重な姿勢。楽天イーブック事業経営企画部部長の白石翼氏は、以下のように話している。


 「海外ではこうした専用端末からの購入意欲がアプリのそれを上回っている国も多いが、日本では必ずしもそうではない。実際、KoboのiOS/Androidアプリをリリースして以降、電子書籍の売り上げは素晴らしく伸びた」(白石氏)

 楽天パッケージメディア事業 イーブックジャパン事業の担当役員、舟木徹氏が7月3日に語った言葉から引用すれば「月次の流通総額はここ半年ほど前月比20%増」で推移する状況。専用端末の需要を否定するものではなく、投入する考えはあるが、その優先度は高くない。むしろ、アプリの品質向上や、ベストセラーになっている作品の電子化カバレッジ向上、作品を探すための検索エンジンの見直しなどに力点が置かれている。

InDesign内のプラグインとして利用できるAquafadasのツール InDesign内のプラグインとして利用できるAquafadasのツール

 また、Koboが2012年10月に買収している仏Aquafadasも電子出版EXPOにブース(エム・エス・アイブース)を出している。これまで同社のツールがどのようなものなのかは情報が少なかったが、Adobe InDesignやQuarkXpressなどのプラグインとしてインタラクティブ要素を設定できることが分かる。

 EPUBまたはAVEという独自形式でパブリッシュできるという。AVEは専用の独自形式だけあって、EPUBで出力するよりも表現力に優れるとしており、同社ブースでは、non-noなど集英社のファッション誌数誌をApple Newsstandで今秋から提供開始する計画があることが確認できた。すでに集英社は電子雑誌としてこれらを提供しているが、Newsstandで提供予定のものは、AVE形式でリッチなインタラクティブ性を備えるという。こうしたインタラクティブコンテンツとしては動画などの埋め込みがよく紹介されるが、デモでは、動画を別ウインドウで開くのではなく、誌面内で自然な形で再生するなど、より誌面との一体性が感じられるものだった。コマース連携など雑誌の力とITの力を連携させた取り組みが進みそうだ。

 振り返ってみれば、今年の東京国際ブックフェア、国際電子出版EXPOともに、地に足のついた、言い換えれば、制作や流通、そのほかさまざまな出版の過程で“使える”ビジネスソリューションが数多く出そろってきた印象を受ける。商談会の性質も強いこの展示会だが、商談を交わす姿を目にすることが少なくとも去年より多く見られたように思う。

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ベストクリエイトの運営する電子書店「いつでも書店」なども今後大きな動きがみられそうだ

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