「まだ紙の雑誌でないとできないことはある」――紙にこだわって新創刊、双葉社「月刊アクション」が目指すものとは(1/3 ページ)

約800ページというボリュームで、この5月に新しく創刊された双葉社の漫画雑誌「月刊アクション」。移籍作品はわずか1つだけ、それ以外はすべての作品が新連載という同誌は、紙媒体であることへのこだわりをもって誕生したという。その理由と今後の展開について詳しく聞いた。

» 2013年06月14日 12時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]
月刊アクション

 双葉社が5月25日に創刊した『月刊アクション』は、約800ページ、厚さにして5センチを優に超えるボリュームの総合漫画誌だ。雑誌不況が叫ばれ、多くの漫画誌がネットに拠点を移す中、あえて紙媒体にこだわった同誌は、移籍作品はわずかに1つだけ、それ以外は『クレヨンしんちゃん』からスピンアウトした『アクション仮面』をはじめ、すべての作品が新連載。しかもこれまで同社と接点のない作家が連載陣のほとんどを占めるなど、まさに一からの立ち上げといっていいラインアップだ。

 この時代にあえて紙にこだわった理由とは、そして同社が考える紙とWebの使い分けとは。編集長の野中郷壱氏に詳しく聞いた。

まだ雑誌に頼るべきだし、雑誌でないとできないことはある

野中郷壱編集長 漫画アクション編集部編集長の野中郷壱氏

── まずは創刊の経緯からお伺いしたいのですが、すでに御社には『漫画アクション』などの漫画誌媒体がある中、新しい雑誌を立ち上げるに至った経緯を教えていただけますか。

野中 すでに弊社にある漫画誌媒体では扱いにくかったというのが大きな理由です。雑誌にはそれぞれカラーがありますが、各編集部員はそうしたカラーとは別の漫画にも興味があって、そういう漫画家さんと新たな作品を立ち上げたい気持ちを持っています。それに加え、他社さんが平綴じの厚めの月刊誌を持っている中で、弊社にはそれがなかったのも理由のひとつです。

 弊社では昨年、隔週で発行している『漫画アクション』、月刊4コマ誌の『まんがタウン』、月刊平綴じ誌の『コミックハイ!』、この3誌の編集部を1つの大きな編集部に組織変更し、20名前後の全編集部員で3誌を作る形になりました。せっかく編集部が大きくなったので、従来の枠を超えて全員で1つの月刊誌を作ろう、というのがスタート地点ですね。

── 月刊アクションも含めた、各漫画誌のセグメントはどうなっているんでしょうか。セグメントが重なっているなら、新創刊ではなくリニューアルという選択肢もあったと思うのですが。

野中 漫画アクションは創刊してからの歴史も長く、またヤング誌や少年誌といった系列を持たない雑誌ということで、「おっさんが読む雑誌」というカラーが、世間的にも、また社内的にもあります。ただそうなると、いい作品だけど既存のアクションとはなじみにくかったり、アクションに載せても埋もれかねない作品がどうしても生まれてしまいます。編集者がやりたかったけどできなかった漫画を発表できる場が必要だったこと、あとアクションはもっと若い層も楽しめるというイメージを持たせたかったのもありますね。

 双葉社の漫画部門は、「飯田橋のふたばちゃん」でもネタにしているよう、他社に比べてイメージがないんですよ。秋田書店さんならヤンキーやエロ、集英社さんならどの雑誌もジャンプがつく、と明確なイメージがありますが、うちはそうじゃない。編集部間のヨコのつながりも特になく、このままだと会社の漫画部門としての発展もないなと。

 うちは漫画専門の出版社ではないですし、他社に比べて人員が多いわけでもないので、ノウハウを共有し合って、双葉社の漫画はこうだ、というイメージをきちんとアピールできるようにしたい。そのためには編集部をひとつにして垣根をとっぱらうしかないよね、と。月刊アクションが、というよりは、まず社内の漫画部門の強化というのが大前提の合併ですね。

── 各漫画誌に具体的にこういうカラーを持たせていきたいという構想はあるのでしょうか。

野中 それを僕が言い出すのは違うのかなと思っていて、自然発生的に、次に売れる漫画を作ったやつが、引っ張っていく感じになると思います。

── ということは、月刊アクションの誕生によって、長い目で見ると、それ以外の漫画誌のカラーも明確化される可能性があるかもしれないわけですね。

野中 あると思いますね。

── 月刊アクションですが、一般的に新媒体が立ち上がる際、既存の漫画誌からの移籍や、別冊で人気が出た読み切りを持ってきて連載するパターンがよくありますよね。しかし、今回の作家の方の顔ぶれを拝見していると、移籍はほとんどなく、これまで御社の方でお仕事されていない漫画家さんが多いように思いましたが、いかがですか。

野中 ええ、厳密な意味での移籍は『つぐもも』一作品だけで、8割以上の作家さんがうちでは初めてです。

 月刊アクションを立ち上げるに当たって、20名の編集部員に、「今まで双葉社で描いたことのない漫画家、自分たちがやりたいと思っていたけど双葉社でできなかった作家に声を掛けなさい」と伝えました。既存の雑誌でできていた方はそちらで描いてもらえればよいわけで、せっかくなので新しいものを作ろうと。あとは、既存の雑誌で企画を進めていたけど入るタイミングがなかった企画をこちらで始めたりというのもありましたね。

アクション仮面王様ゲーム 起源つぐもも 月刊アクション連載作品の一部。左から『アクション仮面』『王様ゲーム 起源』『つぐもも』(画像出典:WEBコミックアクション)

── 創刊号を拝見して、総合漫画誌によくあるジャンル分け、例えば、シリアスなストーリー枠、コメディ枠、お色気枠、といった明確な分け方があまりない印象を受けました。これは各編集さんが作家さんに自由に声をかけた結果でしょうか。

野中 そうですね。そこに縛りを入れてしまうと、自分は興味ないけれど編集長がエッチな漫画を望んでいるので、そういう作家をスカウトしてこなくちゃいけないとか(笑)、そうなるとこれまでやっていたことと変わらないので、今回に関しては、とにかく一番面白い漫画をもってこい、と。

── ということは、ほかの連載陣でこうした作風がないからこうしましょう、というのはなかったわけですね。作家さんからすると、今回発売になって初めて、他に似ている作品があることに気づく可能性もあったと。

野中 はい。極端に言うと、完全にネタがかぶっていても、面白い方が勝つんだよ、という気持ちでやりました。

── 最近は新しい漫画雑誌を立ち上げる際、紙以外にWebという選択肢もありますが、そこを敢えて紙で出したことについてはいかがですか。

野中 Webの一番のデメリットは、新規の読者が広がりにくいことです。雑誌だと、別の漫画を目的に購入して、普段は読まない漫画に目がいって読み始めることがありますが、Webだと目的の漫画だけを見にきて離脱してしまう方がほとんどで、知らない漫画や興味のない企画ははなから見ない。だから新しい作家や、まだ世間に大きく名前が出てない作家は成長しにくいんですね。

 こちらが面白いと思って作っている作品を、興味がなかった方にも目を通してもらうのは、まだまだ雑誌でないと難しい。発信のスタイルとしてはまだ雑誌に頼るべきだし、雑誌でないとできないことはあると感じています。

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