「個人出版」を語り尽くした、勝間×いしたにトークイベントブロガーにこそ勧めたい

『Amazon Kindleダイレクト出版 完全ガイド』刊行記念として、KDPの裏側と、それで著者は儲かるのかといった疑問にまで掘り下げたトークイベントが開催された。

» 2013年06月03日 13時28分 公開
[渡辺まりか,ITmedia]
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 5月31日、これまでに数多くの『1コインキンドル文庫シリーズ』を個人出版してきた勝間和代氏と、『Amazon Kindleダイレクト出版 完全ガイド』の著者の一人でブログ「みたいもん!」運営者いしたにまさき氏のトークイベントが、渋谷ロフトワークで開催された。なぜ二人はKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)に踏み込んだのか、もうかるのか、どのように取り組めばよいのかについて、「ぶっちゃけ本音トーク」が繰り広げられた。

KDPを始めようと考えたきっかけ

いしたにまさき氏 いしたにまさき氏

 イベント開始とともに登場したいしたに氏は、まずKDPを始めようと考えたきっかけについて語った。もともとブロガーという立場から多くの情報を発信してきたが、収入がなければ生活はできないため、課金可能なアウトプットの方法をこれまで考えていたという。そこで、資金があまりかからず、個人で出版できるKDPに注目したという。

 いしたに氏がKDPを始めた理由は、手軽さだけではない。その理由の1つは、「いままで紙の書籍で出していたものが、電子書籍にするとまた動く。これは、自分で出版しても、イケルのではないか?」と思ったからだという。そしてさらに、氏の背中を押したのは、これまで氏がプロデュースしてきた「2万円以上するようなカバンがネットでクチコミでばんばん売れる。それなら、100円とか200円の電子書籍なら、もっと気軽にぽちぽちクリックされるのではないか?」という思いだ。

 いくら「電子」といえど書籍という体裁を保っている「電子書籍」については、「紙の書籍の電子版」というより「Webコンテンツを受け取りやすくパッケージングしたもの」という認識があったため、敷居の高さはそれほど感じなかったという。

KDPはアウトプットの中心でコンテンツをパッケージングしたものである

 続いて登場した勝間氏は「もともとWebの人だったから、紙の書籍で7〜10万文字も書くのが億劫だったし、締め切りまで気を抜けないし、原稿、上がった! とテンションが上がっても出版まで時間が空いてしまって、出版されるころにはテンションが下がってしまう」ということで、「それならば」とKDPに踏み込んだという。経済評論家らしく、「毎日、リアルタイムで売上が分かるのが面白い」という面についても言及された。

勝間氏が『1コインキンドル文庫』を続ける理由――KDPのメリット

勝間和代氏

 第2部はKDPについての「ぶっちゃけトーク」。まず勝間氏が『1コインキンドル文庫』を出し続ける理由、どうすれば売れるのか、電子書籍について思うことが語られた。

理由1 カラーの出版物を100円で出して採算がとれる

 カラー印刷だと、たとえそれが「総天然色」でなくとも、高くなってしまう。しかし、電子書籍ならそのようなことはない。カラーでなければ伝えられない写真集やムック本こそ電子書籍の個人出版に向いているといえる。

理由2 在庫切れという概念がない

 当たり前だが、在庫がなければ売上が落ちる。紙の書籍ではそれがあり得る。しかし、電子書籍の場合にはそれがないので、機を逃すことがない。

理由3 プラットフォームフリーである

 知られていないようだが、スマートフォンやタブレットで、電子書籍を読むことができる。つまり、いつでもどこでも、専用端末がなくとも読めるというのは、大きなメリットといえる。

理由4 原稿を送ったら半日でAmazonの店頭に並んだ

 2日くらい審査にかかると思っていたが、現在では4〜5時間ほどでkindleストアに並ぶので、書き上げた高いテンションのまま、並ぶ様子を見ることができる。

理由5 100円で採算が成り立つ市場

 興味深いことに、少し分量の多い一冊を短編に小分けして販売していて、気に入った購入は、なぜか小分け本が手元にあるにもかかわらず、まるごと一冊の本も購入するという現象が見られる。そして、その逆もある。

 また、KDPでは最大70%が印税として入ってくる。100円に価格設定したものでは35%が入ってくる。それは、紙の書籍の文庫本が1冊販売されたときの印税と変わりがない。そのようなわけで、十分採算が成り立つといえる。

お詫び:初出時、100円で販売するものでも70%の印税が得られるような記述をしましたが、70%ロイヤリティの最低販売価格は250円となります。お詫びして訂正します。

理由6 編集された後のものの方が読みやすいし、保存しやすいし、何度も目を通せる

 この項目は、紙の書籍との比較ではなく、ブログやメルマガとの比較で語られた。ブログでは、何度も読まれている良い記事があるが、検索エンジン経由で流入したものであり、ブログトップからたどるわけではない。また、メルマガも後で参考にしようと思っても、埋もれてしまうことがある。それよりは、それら良コンテンツを何度でも読み返せるようにPDFなどにパッケージングして届けた方が読者にとってはメリットになるのでは? と思う。事実、勝間氏が発行している有料メルマガを編集してまとめたキンドル文庫を購入する人にはかなりの数、そのメールを受け取っている会員がいたという。

電子書籍は面白ければ売れる! たとえ無名の人でも

 これまで、紙の書籍では、物理的なもの――露出させるための書店の棚、形にしてくれる出版社が希少とされ、それをうまく獲得できた人が勝者になった。言い換えれば、出版社の影響も大きく、むしろ、出版社がベストセラーを作ってきた、とも言える。

 しかし、電子書籍では構造が違う、と勝間氏。「希少なのは物理的な場所ではなく、読者の時間。人が持っている時間は等しいから、可処分時間が限られている。読むための時間をどれだけ自分に割いてくれるか、それの取り合いになる。そして、ベストセラーを作るのも読者である。その点で言えば、電子書籍の個人出版をする人たちは、みな対等である」と話す。

 勝間氏やいしたに氏のように影響力がなければ売れないのでは? との疑問に対しても「面白ければ売れる。面白くなければ売れない。以上!」と勝間氏は断言。なぜ影響力が関係ないかの理由として、どれほどブログに影響力があり、ページビューがあるとしても、Amazonのページビューには叶うはずがなく、それだけ集客のある大きな市場に並んでいるという点ではそれぞれが対等な立場であると分析。

 また、これまで、音楽CDなどはアルバム全体で64分の長さがあり、それだけの時間をかけて聴いていた利用者も、現在ではもっと短いYouTubeなどのコンテンツを好んでいる。人が1つの娯楽に割く時間が短くなっている傾向にあるのではないかと勝間氏は分析している。ゆえに、7〜10万字もある時間の取られる紙また電子書籍よりも自身がこれまで取り組んできた、『1コインキンドル文庫』のような短時間で読めるもの(いわゆるマイクロコンテンツ)、個人出版の分量が最適なのではないか、と述べた。

 これから個人出版に取り組む人は、紙の書籍の形式を踏襲しようと考えず、KDPをアウトプットできるコンテンツの1つととらえ、毎日コツコツとインプット(10万文字)とアウトプット(5000文字)を重ね、読者により素晴らしい読書体験をさせられるようなコンテンツを提供できるように、とのアドバイスで締めくくられた。

勝間氏は日々10万文字のインプット、5000文字のアウトプットを実践している

 なお、『Amazon Kindleダイレクト出版 完全ガイド』は、「書く」「作る」「売る」ノウハウが凝縮されたガイド本。同書籍でノウハウを学び、このトークイベントで背中を押してもらったブロガーも多かったようだ。

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