電子コミック、プリント版と共存共栄

北米圏では、紙で出版されるコミックの売り上げが、電子コミックの登場以来、縮小するどころか成長している。電子コミックとプリントコミックの関係は「共生」と言えるだろう。

» 2013年05月20日 11時22分 公開
[Brigid Alverson,Good e-Reader Blog]
Good E-Reader

 北米で毎年3月に実施されているFree Comic Book Dayの目的は、コミックへの意識を高めることなのだが、これは今年確実に達成されたといえる。大都市の新聞と小さな町のWebサイトは同様に作者・小売業者へのインタビューとその大切な日をどのように迎えるかのアドバイスでにぎわった。

 中でも最大級の記事ではAssociated Pressのマット・ムーア氏が広い視点で状況を概観し、プリントコミックの売り上げが、電子コミックの登場以来、縮小するどころか成長している理由について幾つか可能性のある説明をまとめている。

 その現象の理由はなぞだが、数字は真実を語っている。プリントコミックの売り上げは2012年に6000万ドル成長し、同年に電子コミックは2500万ドルから7500万ドルと3倍の成長を見せている。

 「The New 52レーベルの立ち上げ以来、電子コミック市場だけでなくプリントコミック市場も巻き込むための非常に大きな努力を行って来ました」とDC Comicsのダン・ディディオ氏。2011年9月のThe New 52の立ち上げ前は、プリント版と電子版が同日リリースされているのはDCの一握りのシリーズのみだったが、The New 52の立ち上げ後は、DCのすべてのタイトルがプリント版と同日に電子版でもリリースされるようになった。

 2つのフォーマットが同時に成長していることに対するディディオ氏の説明は、読者が好きな映画やTVに触発されてコミックを読み始め、まずは電子版に触れ、その後コミックショップへ足を運んで、体験を補完するというものだ。Marvelのダン・バックリー氏も同じような理由付けをしており、電子コミックとプリントコミックの関係を『共生』と呼んでいる。

 ムーア氏は読者の好みについても何人かに質問している。1人は数百冊ものコミックを持ち歩ける便利さを指摘しているが、ジョン・サイナ―・ロメロ氏はプリント版を好む理由をこう話す。

 「ある特定のぞくぞくするようなシーンを読んでいる時のスリルには素晴らしいものがあるし、次のページで何かすごいことが起こるということが分かります」と彼は言う。「コミックは素晴らしい瞬間と読者がページをゆっくりとめくることから生じるスリルで満ちており、世界全体が読者の目の前でひもとかれてゆくのは見事です」。

 それは真実だが、電子コミックでもスワイプするたびに起こり得ることが発現するので、1冊のコミックでより頻繁にその感情を呼び起こすことができるのも真実だ。プリントコミックの作者は読者がページをめくると、すべてを2ページの広がりの中で理解することを知っているが、電子コミックでも作者が思ったように多くの驚きを巻き起こすことができる。

 実際、電子版は非常に短時間でコミック市場の一部となったので、読者がマーク・ミラー氏のJupiter's Legacyの第1巻を発売日にComiXologyで買えなかったと混乱してTwitterでツイートするほどだ。本当はミラー氏がコミックショップを守るため、自身の作品の電子版リリースを3カ月遅らせることにしたのだ。ファンからは不評で、少なくともコミック小売業者のうち、1人は電子版を購入できなかったのでがっかりしたという。

 市場は複雑で、ミラー氏の目的は高邁――彼はコミック書店を守りたい――だが、電子版がプリント版の売り上げを損なっているという事実はなく、逆説的にその助けとなっているようだ。

Copyright© 2015 Good E-Reader. All rights reserved.

(翻訳責任について)
この記事はGood E-Readerとの合意の下でアイティメディアが翻訳したものです。翻訳責任はアイティメディアにあります。記事内容に関するお問い合わせは、アイティメディアまでお願いいたします。